鮮やかに微笑んだ、最愛の少女。

その笑顔が、今もなお彼の脳裏を離れない。

死ぬな――――!!

どうか、彼女を、奪わないで欲しい。

神に祈ったことなど、ついぞなかったというのに。

彼は、祈らずに入られなかった。



君、に給ふことなかれ




そこには、重力が存在しなかった。

だから二人は寄り添って、そこに浮いていた。

少年の腕には、一人の少女。

赤のパイロットスーツを纏うその体は、小刻みに震えている。

「あたしを軽蔑する?」

「……いいや」

「あたし、どうしても殺せなかった。敵だって分かってたのに。アスランは、反逆者なのに。あたし、殺せなかった……」

答える代わりに、少女を抱く腕に、力を込める。

震える細い、華奢な肢体。

「それが、普通だ。顔を見ないから、俺も敵を殺せる。見知った人間を殺せるかといわれたら、俺だって躊躇する。だから、お前を軽蔑したりなどしない」

「これが、戦争なのね……。あなたはいつも、こんな思いを抱えて戦っていたのね。あたし、何も気付いてなかった……!!」

「気付かなくて、良いんだ。 は、俺が守るから。何があっても、必ず。だから、知らなくて良いんだ」

「あたし、人を殺したよ?それなのに、こんなあたしの傍にいてくれるの?」

「当たり前だ。お前は、俺のものなんだぞ?離してなど、やるものか。……ずっと、俺の傍にいろ、

「イザーク……」

少女が笑みを浮かべると、彼は微かに笑った。

彼がくれた言葉が、あまりにも嬉しくて。

知らずその双眸に、涙が溢れた。

「あたし、死にたいと思ってた。父さんと母さんがブルーコスモスに殺されて、独りになって、軍の施設に入れられたとき。一人でも多く奴らの一人を道連れに死んでやるって、そればかり考えてた」

「……」

「でも、今は生きたいって、思えるよ。生きていて、良かったよ」

……」

このまま、時が止まってしまったら、どれだけいいだろう?

愛しい愛しい最愛の少女。

その温もりは、どこまでも優しい。

「イザーク!」

急に名を呼ばれ、彼は振り返った。慌てて、 も敬礼をする。

そこに立つのは、一人の女性。――彼の母だった。

「そなたの隊は、後方に下がらせました」

「え!?」

「そなたの力は、戦争が終わってからの方が、必要とされるもの。ここで死んではならない」

「母上……しかし、 は!?」

は彼の隊の一員ではない。

そして彼女には、既に出撃命令が出されている。

言わずと知れた、最前線で。

……すまない。我らは数が足りぬ。そなたの所属する隊をも後方に下げることは、できないのだ」

「母上!!」

「はい、分かっております。予定通り、 = は出撃いたします」

「……頼んだぞ」

「はいっ!」

「母上! !!」

イザークは、思わず声を荒げる。

行くな!と。そう、言いたかった。

けれどその言葉は音声にはならず、彼の喉に空しくこびりついた。

そこに立つ彼女は、先ほどまで震えていた少女では、なかったから。

『軍人』の顔をしていたから。

己が責任と使命を、果たさんとし、その決意だけが、その顔にあったから。

だから彼は、何も言えなくなってしまったのだ。

「心配しなくても、あたしは死なないよ、イザーク」

……」

「必ず、生きて帰ってくる。イザークの元に、帰ってくるよ。それにあたし、やっぱりナチュラルを許すことなんて出来ない。あいつらはもう、二発も核を撃った。同胞を、虐殺した。たとえこの戦争で死ぬことになっても、その時は必ず、あいつらも道連れにしてやる……!!それで死ぬなら、本望よ」

!!」

静かに激昂し、心の闇を吐露する少女を、彼は抱きしめる。

『死ぬ』なんて。例え言葉のあやだとしても、言って欲しくなかった。

「死ぬなんて、そんな悲しいことを言わないでくれ、 。必ず、帰って来い。お前は、俺のものなのだから。勝手に死ぬなんて、許さないぞ」

「イザークの言うとおりだ、

「ジュール議員」

「私の、娘になるのだろう?」

イザークと同じ色彩の、透き通るように美しいアイス・ブルーの目を細めて、エザリアは優しく微笑んだ。

そのまま優しい手つきで、慈しむように の頬に触れる。

彼女は今、『 』ではなく、『 』の名前の方で呼んでくれた。単純だが、 はそれが、嬉しかった。

「娘……?」

「そう。イザークと結婚して、『 =ジュール』になるのだろう?」

「イザーク!」

「結婚を、お許しくださるのですか、母上!!」

「反対した覚えなどないぞ、イザーク。……だからな、 。そなたは必ず帰って来ねば。そなたが戻らねば、私もイザークも悲しい」

慈愛に満ちた、その笑顔。

それに も、微笑む。

「有難うございます……義母様」

の言葉に、エザリアは笑みを深くした。

その笑顔が消えると、彼女も公人としての彼女に戻った。

「武勲を祈っているぞ、 =

「はっ!ザフトのために!!」

が敬礼をすると、エザリアは踵を返した。

彼女も、忙しいのだ。それなのに――……。

の肩に腕を回し、、イザークは囁く。

悪戯でも考えているかのように、その声は楽しげだ。

「母は一度言った事は必ず実行する方だぞ。お前はもう、本当に後には引けなくなってしまったな。このまま一生、俺のものだ。死んでも離さん」

「離れる気なんてないよ、イザーク。それに、死ぬつもりもない。あたしね、ずっと欲しかったものがあるの。もうすぐ、それは手に入るの。それなのに、誰が死ぬものですか」

――――ずっとずっと、欲しかったもの。

それは、家族。

もうすぐ、それは手に入るの。

なのに死んじゃうなんて、そんな勿体無いこと、出来るものですか。

……」

「愛してる、イザーク」

彼女の唇が、イザークのそれに触れる。

ただ唇が触れ合っただけの、短い口付け――……。

それだけが、全てだった。

そのままイザークは、彼女を強く抱きしめる。

どこにも行かないように――……。

「帰って来いよ」

「うん」

「俺もお前を愛している」

「うん」

「だから絶対に、勝手に死ぬな」

「うん」

彼女が頷いて。漸く彼は抱きしめる腕を解いた。

少女も、顔を上げた。

時は、来たのだ。

少女は、出撃せねばならない。

命の保証などどこにもない、前線へ。

「行ってくる」

「ああ」


*                     *



少女は、己が愛機に乗った。

これで、最後になるかもしれない。ここで、死んでしまうかもしれない。

けれどだからこそ、少女は戦いを決意した。

他の誰のためではなく、イザークのために。もしもの時は、せめて弾除けとして、イザークを守るために。

それを言葉にしたら、イザークはきっと怒るだろう。

『お前の命と引き換えに、生きたいものか!!お前は俺をバカにしているのか!?』

そう言うに決まってる。だから彼女は、それを決して言葉にしない。

その瞬間まで、心にしまっておく。

=、出撃します!」

ザフトが誇るMS部隊。例え数に於いて負けていても、これ以上は核を撃たせたりはしない。既に血に汚れたこの身ならば、持てる力のすべてを費やして、愛する人を、愛する祖国を守り抜こう。

「愛してる、イザーク」

例えこの場で、死んでしまっても。ずっとずっと、愛してるから。

呪符のように、愛しい人の名を呟く。

そして少女は、戦闘の渦中に飛び出した……。



*                     *




嗚呼、どうか神よ。

彼をお守りください。

あたしの大切な人を、奪わないで下さい――……。
嗚呼、神よ。

どうか、彼女をお守りください。

彼女を俺から、奪わないで下さい――……。











――――君、死に給ふことなかれ――……。




Fin.

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エザリア様、大好きです!!

でも、いまいち口調が分からなくて、苦労しました。

てか、またイザークの夢書いてるよ、あたし……。

妙に書きやすいです、この人。

やっぱり、公式に彼女がいないからでしょうか。

そしてあたしの書くイザークって、妙にキザ……///

そして抱き合ってばっかりですよ、この二人。

テーマ『イザークに死ぬほど愛されよう!』書き終わった後決めてどうするよ、あたし……。

あたしのイザークへのイメージはこんな感じです。

なんてったって、王子ですから!!


ではでは、ここまで読んでくださったさん、有難うございました☆