たまたま、それを聞いてしまったのは、別に大した理由があってのことではない。 たまたま。 そう、偶然だ。 ただ、つい気になってしまっただけのことで……。 「ねぇ、イザーク。そういえば。誰が私の宇宙服脱がしてくれたの?」 「……そんなに気になるようなことか?溜めて何を言い出すかと思えば」 「うるさいわね。気になったのよ。だって、ここの軍医、女性でしょう?その人?」 「俺だ」 「……」 イザークの即答に、は思わず黙りこくってしまった。 イザークが? 自分の宇宙服を? 脱がせた? いくら下に地球軍の軍服を着ていたとはいえ……しかも確か……。 「問題です。私は宇宙服の下に何を着ていたでしょう」 「ミニスカート」 ……即答しないでほしかった。 地球軍の野戦士官用の女性の軍服は、ピンクが基調の上着とミニスカートで。 「私の足、見た?」 「生々しい発言をするな」 「見たの?」 「……見た」 顔から火がでそうというのは、まさにこういった状況をさす言葉なのだろう。 先人の残した言葉を身を以って知った気がする。 それは決して、愉快な感覚ではないにしても。 「何であんたが脱がせるのよ!!普通軍医の仕事でしょう!?」 「宇宙服は重い。おまけに海水を吸っていた」 「あんただって、倒れたんじゃないの!?」 「安心しろ。貴様の宇宙服を脱がした後で倒れたから」 ……はっきり言って、安心できない。 ていうか、安心するしない以前の問題だろう。 は溜息をつく。 このオカッパは……っっ!! ぶるぶると震えだす。 それを見て、イザークは内心青くなったり赤くなったりだった。 何故なら……。 「おい、軍医はここにいるかっっ!?」 「どうされました?って、あらぁ。貴方、ここに来たばかりの新入りかしら?顔見た覚えがないわ」 医務室に入った途端に、ノー天気な女の声に迎えられた。 その声に、げっそりとなりそうになるのを、イザークは堪える。 「ああ、そうだ。新入りだ。ていうか、さっきここに来たばかりだが、文句があるか!?」 「で、その腕の中の女の子は、何?」 「怪我人だ!!」 「ああ、そうなの。じゃ、この子の宇宙服、脱がしてくれる?」 軍医にそう言われ、イザークは思わず固まった。 下に服を着ていたのは、見たから知っている。 しかしだからといって、男のイザークにそれを脱がせろと? いや、別に嫌ではないが……。 「あ、変なこと考えないでよ。 ただ、海水吸って重そうだから、慣れない私より貴方の方が手っ取り早く脱がせられると思ったからよ。 病人に無体なことはしないで下さい?」 「分かってる!!」 そういわれ、イザークは少女の宇宙服に手をかけた。 先ほど見た、ピンクが基調となった地球軍の軍服。 チャックで止めるようになっているその宇宙服は、少女には多少大きかったみたいで、ややダボついている。 そのチャックを下まで下ろして、イザークは固まった。 今度こそ、本気で石像になったんじゃないかと思うほど。 「どうかしたの?」 「……なんだ、これは」 「ミニスカートね」 「そんなことは分かっている!!何でそれをこいつが着ているんだ!?」 「さぁ?」 血で、どす黒く変色したスカート。 ところどころに血が付着していないところがあって、イザークはそれが白のミニスカートであったことを知る。 現実から逃避したかった。 何故なら……。 「やっぱり私が脱がせましょうか?大変でしょ?色々と」 「……………………頼む」 『色々』を強調する女性軍医に、イザークは頷いた。 少し、泣きたい気分になった。 何故なら……。 太腿が、覗いていたから。 白い、シミ一つないような、太腿が。 「ああああああ、後のことは、任せたぞ。ちゃんと治療しろよ」 「はいはい。軍医のお姉さんに任せなさいな……ってねぇ。君まで倒れてどうするの?」 後は任せたといっておきながら、イザークもまた、その場に倒れてしまったのだ。 ……刺激が強すぎたのだろうか? 「この年頃の男の子には、女の子の太腿は刺激が強すぎたのかしら?……今時珍しいタイプよね」 そう一人で呟きながら、女性軍医は二人をベッドに寝かせることにして。 ……固まった。 二人とも、すごい熱だった。 この後、金髪の少年もまた、医務室に担ぎこまれ……。 世間知らずの王子様は、本気でかかった少女には、どこまでもオクテだったのだ……。 この日、軍医の日記にその事実が記載されたとかされなかったとか。 それは、神のみぞ知る。 ついでに、イザークの熱は翌日には下がったのだった……。 |