俺の親友は=。 親友の妹は、=。 俺とが出会ったのは、俺が幼年学校に通っていたころ。 俺とは十三歳だった。 と出会ったのは、それから二年後。十五のとき。 軍隊に入ると決めた俺は、に報告するために、の屋敷にいった。 その時、俺の応対をしたのが、まだ八歳のだった。 それが、俺とあいつらの、出会いだったのだ――……。 Dear My Best Friend 〜鋼のヴァルキュリア 番外編T〜 Miguel Ayman に会ったときは、そりゃあ驚いたさ。 の直系、=が優秀なことは、プラントに住む者なら知らないやつはいないって言うくらい、有名なことで。 でも、あんなに綺麗なやつだとは思わなかった。 男に『綺麗』なんて、おかしいって?でもな。 は本当に、『綺麗』だったんだ 。 水晶のように煌く銀髪に、凍てついた湖面を思わせるアイスブルーの瞳。 怜悧なその美貌は、冷静で冷徹な人柄を、俺に予想させた。 はっきり言って、あまり好きなタイプじゃなかったな。 初めてあいつを見たときの俺の感想は、そんなもん。 うわぁ、こいつ、俺と絶対にあわなそう!!だった。 いつもトップの成績を収める 。優等生グループに一応名前を連ねていても、傑出しているとは言いがたい俺。 仲良くなれるわけ、なくない? それに、あいつにはいつも『取り巻き』がいた。名門、家の直系で、優等生ともなれば、取り入る連中がいるのも当たり前。でもそれが余計に、俺とやつに距離を置かせていた。 ――――『なっ!?何で俺がお前と!!』―――― ――――『さぁ。学校の決まりだから、仕方ないだろう?とりあえず、君の新しいルームメイトは、私だ』―――― よろしく、といって差し出されたその手を、俺は取ることができなかった。 ガキっぽいかもしれないけれど、俺にとってその時は、油断のならない相手だった。 「……ああ、かい?私だよ。うん。元気にしている。そっちは変わりはないかい?……ああ、そうか。大丈夫。私は元気にしているよ。……誕生日プレゼント?ああ、あれかい?気に入った?それは良かった。父上たちには内緒だよ。お前にあんなものを贈ったなんて知れたら、私は父上に殺されてしまう」 楽しげな声が、部屋からした。 おかしいな、と思った。 部屋に人を連れ込んでいる割には、の声しかしないし。でも、幼年学校の寮は、通信の手段なんて寮内にある共同の通信機しかなくて。それすらも、使用は限られていた。 なのになんで、俺たちの部屋から話し声がするんだろう……? 「……そうだな。そろそろ寝なさい。おやすみ、。うん?ああ……私もお前を愛しているよ」 愛おしそうに、相手を呼ばうその声。 それは、普段のからはあまりにもかけ離れていた。は、あまり感情を表に出すタイプじゃなくて。だから余計に俺は、あいつに反発していたんだと思う。 「さて、聞き耳をたてているコソ泥君。ミゲルかな?……出ておいで」 「誰がコソ泥だっっ!!」 「ふふ。やっぱり君だったんだね。カマかけたつもりだったんだけど」 ばぁぁぁん!!とドアを開いてガナりたてる俺を見て、はおかしそうに笑った。 椅子に腰掛け、足を組んで。口元に手を当てたは、くすくすと笑った。 別に馬鹿にされてるわけじゃないと分かっていても、そのときの俺は反射的に馬鹿にされてるような気になって。思わずを傷つける言葉を言ってしまった。 「そりゃあ、『の後継者』で学年トップの優等生様にすりゃあ、俺なんて馬鹿にされて当然だろうよ」 「……それは心外だな、ミゲル」 はっきりと、は表情を変えた。 面白がるように細められたアイスブルーの瞳は、今は見開かれて。 付き合いの浅い俺でも、が本気で怒っていることが分かってしまった。 「私は君を馬鹿にした覚えなど、一度もないが?それでももし君が私に馬鹿にされたと思ったなら、確かに私にも責任があるだろうが……一番の原因は君にあるんじゃないのか?」 「何で俺が……!?」 「君の心の問題、ということだ。大体、私が優等生だって?当たり前だろう、そんなもの。 私の方が、君よりも優れた遺伝子操作を受けてこの世に生まれ出でたのだから。私は、君より優れていて当然なんだよ。 そしてそれは決して、私の実力などでは、ない。そもそもの許容量が違うんだ。 それに君は、私よりも優れたものを持っているだろう?私より君のほうがはるかに、人として優秀だよ」 はそう言うけれど、俺にはそれに同意する術などもっていなくて。 だって、そうだろう?誰がどう見ても、のほうが優秀で。 「友達にならないかい、ミゲル?」 「……友達……?俺が、お前と……?」 「そう。私は、君と友人になりたい。どうだろう?」 そう言って差し出された、手。 それを俺は、今回は握った。 友達になりたい、と思ったわけではない。 ただ、人間として俺のほうが優秀と言った=の、その真意を量るために付き合うのも、悪くはないと思った。ただ、それだけだった。 こうして、俺との交友が始まったのだった――……。 「なぁ、。誰だよ、って」 「は私の妹だ。……それよりミゲル、来週提出のレポートは終わったのか?」 「あっ!!やっべ!!」 「今度は私も手伝わないからな。自分の力で何とかしろよ」 「わぁってるよ!!」 やっぱりどう見ても、のほうが俺より優れてて。 俺は何度も、そんなに劣等感を刺激されていた。 「大体お前、何で部屋で通信してるんだよ?私用電話は、通信室で決められた時間に……って決まってるだろ?」 「ああ、大丈夫。私が作った代物だから。一応、寮則には触れてはいない」 「作ったぁ!?」 の答えに、俺は素っ頓狂な声を上げた。 作ってまで通信したかったのかよ!?てな驚きのほうが、そのときの俺を多く占めていた。 「仕方ないだろう?との通信を、規則ごときに邪魔されたくないんだから」 「いいのかよ、優等生がそれで……」 「私にとって、が全てだから……」 はそう言って、それきり黙りこんでしまった。 妹を『全て』と言い切る。 そのときの俺は、の辛そうな顔の意味も、その言葉の意味も、知らなかった。 優秀な頭脳。 誰もが惹かれずにはおれない、秀麗な美貌。 天は二物を与えないというが、は二物も三物も与えられているように、俺には見えた。 そう。俺は、知らなかったのだ。 それらと引き換えに、がどれだけのものを犠牲にしたか、ということを――……。 「大変だぁ!!」 「=が暴力沙汰を起こしたぞ!!」 「なっっ!?」 ある、晴れた日のことだった。 俺は教室で、友人たちと雑談をしていた。 その日はたまたま、と授業がかぶらなかったせいもあって、俺は朝一に挨拶したきり、あいつの姿を見てはいなかった。 そして、が暴力沙汰を起こした、とか言う、ありうべからざる事を聞いたのだった。 だって、あのが喧嘩だぜ? 俺ならともかく、争いごとは嫌いです、なんて言っているあのが。 絶対に、おかしいと思わねぇ? 俺は慌てて、が事情を聞くために呼び出されたという校長室へ、走っていった。 「失礼しました」 「!!」 「……ああ、ミゲルか。どうしたんだい?」 「『どうしたんだい?』じゃねぇだろう!!お前、何やってるんだ!!」 俺が駆けつけた時、丁度が校長室から出てきたところだった。 慌てる俺に、はのほほんとした顔で、どうしたのかと尋ねた。 誰のせいで俺がこんなに慌ててるのか、こいつは分かっているのだろうか。 「ああ、あれかい。心配しなくてもいいよ。勝ったから」 「『勝ったから』じゃねぇっつうの!!」 の右頬は、青黒く腫れあがっていた。 殴られたのだろう。髪も、やや乱れている。 「お前、何やってんだよ!!喧嘩なんて……!!」 「私だって喧嘩くらいするよ、ミゲル。何、大したことでは……」 「馬鹿野郎!!」 俺は、の胸倉を掴んだ。 そのまま、その勢いのまま、壁に押し付ける。 俺よりわずかに低いの頭が、鈍い音を立てた。 「俺のせいなんだろう!?俺がお前の傍にいることを気に食わない連中が、お前に言ったんだろう!?何で俺なんかを相手にするのかって、それでお前……」 「……君のせいではないよ、ミゲル。私が、気に食わなかったんだ。だから喧嘩になった。それだけのことだ」 「それだけって、お前……それだけじゃないだろう!?」 「それだけのことさ。……友人を貶されて、何も言わないでいられるほど、私は人間が出来てはいないからな」 そう言って、は薄く微笑んだ。 俺は今まで、の何を見ていたのだろう? が優秀なことにばかり目が言っていて。俺は、を見てはいなかった。『心の問題』。そう。確かにそうなのだろう。 「……ゴメン……ゴメンな、……」 「……何を言ってるんだい、ミゲル」 謝る俺に、は優しく微笑む。 ――その日俺とは初めて、本当の意味で友人になった――……。 とは、それからもずっと、友人関係を続けた。 幼年学校を卒業して、両親のいなくなったが正式にの当主になっても、それは変わらなかった。 そしてその日。俺はたまたまの屋敷へ赴いた。 いつものように、は俺を出迎えてくれた。 その頃、は軍人になるのだと言って、アカデミーに入っていた。 だからこそ、俺はかねてから疑問に思っていたことを、尋ねてみることにした。 「なぁ、。お前、どうして軍に入んねぇんだよ?お前だって、ナチュラル恨んでんだろ?」 「勿論。奴らは両親を殺した。恨まぬ道理などないな」 「なら何で!?お前なら、『赤』だって……!」 は、軍には入っていなかった。 けれどが、ナチュラルを恨んでいることは、なんとなくだが分かっていた。 だから余計に、何でが軍に入ったのに、は入らないのか。俺は疑問に思っていた。 「優先順位の問題さ、ミゲル。 お前がそう言ってくれることは、有難いことだ。だがな、物事には『優先順位』が存在する。 私にとって、何よりも優先すべきはだから。だから私は、死ぬわけにはいかないんだ。 を、守らねばいけないから――……」 「……」 「もしも私に何かあったなら、そのときはを頼む。お前になら、頼める」 「お前、そう簡単に死ぬようなたまか!!」 縁起でもない。俺は、そう思った。 何かあったら、なんて。冗談でも言ってほしくなかった。 俺の言葉に、は微笑んだ。 それはまるで、風にでも攫われて消えてしまいそうなほどの、儚い微笑。 それは、予感だったのかもしれない。 友人を永遠に失ってしまうという、予感。 けれどそのときの俺には、そんなことわからなくて。 それから半年後に、は死んだ。 俺の目の前で今、が寝ている。 泣き疲れて、寝てしまったのだ。 俺はそっと、の漆黒の髪を撫でた。 親友が最も大切にしていたもの。 自分に何かあったら頼む。それがあいつの最後の言葉。 だから、。 守るよ、。 は、俺が守るよ。お前の代わりに。を守ってくれる人間が、の全てを任せられる人間が現れるまで。 だからどうか、安らかに。 Dear My Best Friend. お前にそれを、誓うから――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+ ミゲルとお兄さんの出会い篇でした。 きっと幼年学校では最強タッグを組んで、快適に過ごしていたと思われます。 何でいきなりこんなものを書き出したかって? 伏線をさらに張るためです。 うわぁ、自分勝手!! 書いてて楽しかったので、まあいいかな。 ご意見ご感想などありましたら、よろしくお願いします。 ここまで読んでくださって、有難うございました。 |