――――『君、名前なぁ〜に?』――――

俺が尋ねると、目の前の少女は、わずかに顔を顰めた。

うわぁ、嫌そう。でも、なんだか嬉しい。

だってさ、俺、気づいたんだもん。君、あまり笑わないし、怒らないし。感情、どっかに忘れてきたみたいって。

そんな君が少しでも感情見せてくれるなら、嫌われてもいいや。

――――『さっきも名乗ったんですけど?』――――

――――『別にいいじゃない。減るもんじゃなし。あ、俺はラスティ。ラスティ=マッケンジーっての。よろしく』――――

――――『=です。よろしくね、ラスティ』――――

――――『こちらこそ。よろしくね、ちゃん☆』――――

俺が言うと、目の前の少女は満面の笑みを浮かべた。

そうだね。

怒った顔も可愛いけど、君はやっぱり、笑った顔のほうが数倍可愛いや。


――それが俺と彼女の出会い。

『鋼のヴァルキュリア』なんて。本人のイメージからかけ離れた異名を持つ少女と俺の、本当の出会い。





Fair My…   〜鋼のヴァルキュリア 番外編U〜
Rusty Mckenzy


ちゃんを見たときは、まず驚いた気がする。

コーディネイターには珍しい、漆黒の髪。

これまた珍しい、漆黒の瞳。

細くて華奢な肢体。

これが、あの『ヴァルキュリア』?

軍人になったばかりの俺たちでも、ヴァルキュリアのことは、知っていた。

それだけ、彼女は有名だった。

「敵と相対すれば、必ずその敵を滅ぼすヴァルキュリア」。彼女は、そう言われていた。

でも、目の前の少女からは、そんな言葉は当てはまらないような気がして……。

ほら、よく言うじゃない。

虫も殺せないような……って。

ちゃんは、まさにそんな感じだった。







何でそう思ったのかな?

ちゃんは、それほど可愛いって感じでは、なかった。

コーディネイターとしてもわりかし整った顔をしていたんだけど。笑わなかったからさ。「可愛い」とは違ったんだ。

笑ったら、さぞ可愛いだろうにな、なんて。

俺は人事のように考えていたっけ……。

軽く紹介をして、隊長が解散を告げた。

するとミゲルが、少女の腕を掴んで。

――――『お前、か?の妹の、か?』――――


すると少女は、綺麗な漆黒の目を大きく見開いて。

――――『ミゲル兄さん?ひょっとして、ミゲル兄さんなの?』――――


と言った。

ミゲルが頷くと、少女は笑って……。

その笑顔が、本当に綺麗だったんだ。

今でも俺、あのときの笑顔は容易に思い出せそうな気がする。

それくらい、あのときのちゃんの笑顔は、綺麗だったんだ。

綺麗で、印象的だった。

あんな笑顔を見たのは、俺、初めてだったんじゃないかなぁ。

ああ、この子はこんなにも、嬉しそうに笑うんだなぁ、って思ったんだ。

なんかね。この笑顔で、俺のこと見てくれないかな、なんて思ったんだ。

俺は、クルーゼ隊の赤では、五番目の成績で。

別にね、それを恥だとか思ったわけじゃないけど。

それ、俺にとっては少しだけ、引け目だったんだよな。

他の四人はさ、俺よりずっと優秀で。

同室のアスランなんか、射撃と爆薬処理以外はトップだったくらいで。少しだけさ、やっぱり感じちゃうんだ。嫉妬とは違うんだけど、引け目……みたいなもの。おまけに親は、四人とも評議委員だしさ。

でもその子の笑顔は、俺のそんなドロドロとしたものとは無縁で。

なんていうか。哀しそうに笑っていても、綺麗だったんだ。

笑顔の可愛い子っているじゃない。それほど可愛いわけじゃないけど、笑ったらとにかく可愛い子。ちゃんはさ、本当にそんな感じだったんだ。もとがいい上に、笑顔が可愛かったんだ。

とにかく俺は、ちゃんのそんな笑顔が好きで。

お友達になりたいな〜、なんて思ってたんだ。

で。たまたまちゃんが一人で食堂にいるとき、声をかけたの。

昼食ののったトレイを、ちゃんはつまらなそうにつついていた。

「ねぇ、君。名前なぁ〜に?」

「……さっきも名乗ったんですけど?」

それ、違うよ。俺はまだ、君に名乗ってもらってない。

確かに君が隊に配属された日、隊長が簡単な紹介をしたけどさ。あんなの、『自己紹介』とは言えないでしょ?ついでに言うと、アスランのルームメイトだからって、アスラン経由で紹介するのもされるのもさ。『自己紹介』とはいえなくない?

「別にいいじゃん、減るもんじゃなし。……あ、俺はね。ラスティ。ラスティ=マッケンジーっての。よろしく」

俺の言いたいことが伝わったのかな。

ちゃんは、にっこり笑って、手を差し出してきた。

=です。よろしくね、ラスティ」

「こちらこそ。よろしくね、ちゃん☆」



*                     *




それから、ちゃんとは色々と話をするようになった。

あの時、ミゲルにだけ見せていた笑顔を、ちゃんは今、ほとんど全員に向けるようになっていた。

『ほとんど』全員ってのは、向けられない相手がいるから。

ちゃんは、イザークと隊長には笑顔を見せられないようだった。

一回、それを聞いたらちゃんは、

「だって、相手に目を見せない人って、信用できなくない?」

頬を少し膨らませて、そう答えた。

イザークのことは、保留された。

「私が悪いの。イザークは、関係ない。私がただ、引きずらなくてもいいことを、何時までも引き摺っているだけ……」

イザークに、悪いことしちゃってるの、とちゃんは寂しそうに笑った。



















俺はさ、知らなかったんだ。

ちゃんの辛いこととか、何も。

何も考えずに、自分より年下の子に、甘えていたのかもしれない。

でもね、ちゃん。

これだけは覚えていて。

俺はさ、嬉しかったんだ。

俺の話をちゃんと聞いてくれて。

本当に、嬉しかったんだ。

だからね、ちゃん。

幸せになってね。

俺はもう、行かなきゃいけないけど。

ずっとちゃんのこと、見守っているよ。

出来れば、俺を忘れないで。

時々思い出してくれたら、嬉しいな。

俺っていう人間のこと。

思い出して、笑って。

本当にラスティったら、しょうがない人ね、って。

俺の大好きだったあの笑顔で。

君の笑顔が、本当に大好きだったよ。

Fair My...






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ラスティのスペルがわかんない。

今回ぶち当たった最大の難関。

妹に恥を忍んで聞きました。

「マッケンジーってどう書くの?」

「マッケンジー?何やってるの、お姉ちゃん。えとね、マッケンジーは……」

そう言って妹に教えてもらいました。

合ってるかは謎ですが。

まぁ、いいや。

なんか最近ラスティだとかミゲルだとかニコルだとかが妙に愛しくて。

ついつい書いてしまいました。

感想とか頂けたら嬉しいです。