アカデミーの教官をしていた父上から、ある日紹介された人。

それが、彼だった――……。






T   出逢い






「初めまして。ハイネ=ヴェステンフルスだ」
「……お初にお目にかかれて光栄です、ヴェステンフルス様。私は……」
「そんな堅苦しく呼ばなくていいよ。疲れない?」


笑って言う彼に、思わずムカついた。
疲れるわ。疲れるわよ。
誰も彼も、私を見てくれでしか見てくれない。
本当の私なんて、歯牙にかけもしない。
そんな化かし合い、年中続けたらさすがに気疲れだってするわ。

でも一番ムカついたのは、彼が一目でそれを看破したこと、だった。
今まで一度だって、バレたことなかったのに。


「名前は?」
「……
「へぇ。綺麗な名前だな。よろしく、 。俺のことは、ハイネでいい」
「なっ……!」


いきなり呼び捨て?
しかも『ハイネでいい』なんて。
まるで私が貴方を呼ぶことを決め付けた、言いよう。
何よ、それ。
どういうことよ。


「彼は実に優秀な人材でね、
「父上……」
「調べた結果、お前との遺伝子の適性率も問題ない」
「まさか……」


わが身に降りかかることになるとは露とも思っていなかった現実が、私に圧し掛かる。


コン イン トウ セイ


私たちコーディネイターの、最後の望み。
次世代へと繋ぐ希望。
そんなことを名目とした、体のいい政略結婚。


「ヴェステンフルスなんて、言い難いとは思うが、いずれお前も名乗る姓だ。少しでも好きになってくれたら、嬉しい」
「私は……」


オレンジ色の髪が、目に眩しい。
笑顔も、眩しいのに。
私の心は、暗い……深いところに沈められてしまったよう……。

愛情を抱けるとも分からない、人。
それなのにただ、遺伝子の適性率がいい。
それだけで決められた、婚約。


「どうだね、ハイネ。うちの娘は」
「それは、もう。正直な話、教官に似ていなくて助かりました」


楽しそうに語る、父上と……ハイネ。
ハイネ=ヴェステンフルス。私の婚約者。









そんな風にして、私の運命は決められた。
あとに残されているのは、 = =ヴェステンフルス。
そう名乗ることだけ。
それ以外の一切の価値を、誰も私に見出していない。
それが、たまらなく辛かった……。





ねぇ、ハイネ。
おかしいよね。
あの頃は私、こんなにも貴方を好きになるなんて、思ってもいなかった。
そしてそのまま、自分の運命に絶望してたのよ?

おかしな話よね。


こんなにも好きになれる人。
貴方以外にいなかったのにね……。



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友人との協議の末、ついにハイネ夢始動です。
長編で悲恋て初めてかもしれません。
ザラファン、キラファンには優しくない内容かもしれませんが、彼らの下した決断が、こういう人間を作り出したかもしれないと、思っていただけましたら幸いでございます。