「はじめまして、イザーク様。=ザラと申します」

そう言って、目の前の少女が微笑んだその時、俺は不覚にも、顔を赤らめてしまった。

何故『不覚にも』という言葉が付属するかって?そんなの、決まっているだろう!!

コイツは、あのアスラン=ザラの妹なんだぞ!!



いとしい いとしい と いう こころ



コーディネイター第三世代の出生率が低下していることを反映し、プラントでは『婚姻統制』が敷かれる事となった。

そのことに対しては、別に否やはない。

俺の母上は、評議会の議員で、いずれ誰か親の決めた相手と結婚させられることになると分かっていたからだ。母上の立場を思えば、おいそれと拒絶は出来ない。

もっとも、俺にはまだ結婚の意志はない。

しかしそれは、暫くの間『婚約』の形をとれば、別にそれは問題にはならないだろう。

だが……相手が悪すぎる!!

よりにもよって、アスランの妹とは!!

よくよく見ると、妹の横で、奴が引き攣った笑顔を浮かべている。

この縁談が成立すれば、義理の兄弟だもんなぁ、俺たち!!俺だって嫌だ。何だってこんな奴と!!

「イザーク様のお話は、いつも兄から伺っております」

「それは……お耳汚しでしたね、嬢」

「……。嫌ならこの縁談、断ってもいいんだよ?」

少女の横で、アスランが気遣わしげに声をかける。

それだけで、奴がどれほど妹を大切にしているか、分かるものだ。

「兄様、少しだけ、イザーク様と二人でお話しをしても宜しいでしょうか?」

「それは……別に構わないが……」

「イザーク様も、宜しいでしょうか?」

「構いませんよ、嬢」

アスランと顔つき合わせているぐらいだったら、まだこの女と話をしているほうがましだ。そう思い、俺は彼女の提案を受け入れた。

アスランは何か言いたげだったが、何も言わず、俺を睨む。

言うならば、「俺の妹に妙な真似をしてみろ。殺すぞ」とでも言おうか。

何やら物騒な視線を感じた。


*                     *


二人きりになると、少女は静かに口を開いた。そして俺は、彼女の言葉に意表をつかれてしまった。

「あなた、兄様のこと、嫌いでしょ?」

「……」

「隠さなくてもいいですよ。私、知ってますから。……だからこの縁談、無かった事にしませんか?嫌いな人の妹を妻に迎えるのも嫌でしょう?私も、兄と不仲な方を夫にするのは抵抗がありますし……」

――――『ですから、このお話は、無かった事にしましょう。』――――

そう言って、少女は鮮やかに微笑んだ。けれどその笑顔は、どこか哀しげで……。




……その笑顔に、俺の心は、捕らわれてしまったんだ――……。





結局、俺が母上に婚約破棄を訴えることは、無かった――……。


*                     *


昼食時間。つんつく料理をつつくアスランを見て、ディアッカがニコルに尋ねた。

「なぁ、アスラン一体どうしたんだよ?」

「僕だって分かりませんよ。この間の休暇からずっとああなんですから」

「何か、精神的に打ちひしがれている感じだぞ」

「対するイザークのあの機嫌の良いこと!!今までこんなことありましたか?」

「可愛い妹に婚約者が出来たんで、落ち込んでいるだけだろ」

「「イザーク!!いつの間にここへ!!て言うか、妹って何!?」」

物の、見事に二つに声が重なり、さすがにアスランが恨みがましい目で俺を見る。

それを俺は、あっさりとシカトする。

「アスランの妹だ」

「アスランに妹なんていたんですか?」

「ああ」

「へぇ〜。美人?」

「美人というより、可愛い感じだな。アスランに良く似ている。髪は青みを帯びた漆黒で、目はエメラルドみたいな鮮やかな緑。アスランよりも繊細な感じの容貌で、その笑顔といったら……」

「く……詳しいですね、イザーク。何故そんなにもご存知なんですか?」

実は隠れアスランファン?なんて、シャレにもならんことを聞いてくる年下の同僚。

興味津々といった感じの同い年の同僚。

そして相変わらず恨みがましい目で俺を見る、我が婚約者の兄。

「俺の婚約者だからな。知っていて当たり前だろう?」

「「婚約者!?」」



「俺は絶対に認めないからな!!」

俺がそういうと、二人は素っ頓狂な声を上げ、アスランはいきり立って怒鳴り声を上げた。

……コイツがこんなにも声を荒げるなんて、初めてかもしれない。

「アスラン……。実はシスコンですか、あなた」

「ああ、そうだが」

「おいおい……認めちゃったよ……」

などなど言って騒ぐ奴らを尻目に、俺はあの日のことを思い出していた――……。


*                     *


「分かりました、=ザラ嬢。あなたとの婚約は破棄しましょう。そして改めて、私と婚約してくださいませんか?」

「え……」

「私は、あなたと生涯添い遂げたいと思いました。=ザラとしてのあなたではなく。ただの『』としてのあなたと。……あなたのお返事は?嬢」

俺がそう言うと、彼女の瞳に、涙が浮かんだ。

ひょっとしたら、彼女は俺を嫌いなのかもしれない。そう思って、俺は慌てる。

『婚約破棄』それが彼女の望みなのだとしたら、俺はどうすればいいだろう?

「あ……私のことがお嫌いですか?それならば、あなたの望み通り……」

婚約を、破棄してもいいと、思った……。

彼女を、傷つけたくなかった。そう思う俺の、あまりにも俺らしくない感情に、俺は自嘲気味に笑う。

「違います……!違うんです……!!」

嬢……」

「イザーク様の、お心のままに」

涙を拭うと、彼女は微笑んだ。

そして、俺が欲しいと思った言葉を、彼女は口にした。

ずっと、お慕い申し上げておりました。そう言うと、彼女は恥ずかしそうに、それでも優しい笑みを浮かべた。

確かに彼女はアスランの妹だけど、俺が惹かれたのは、彼女自身。誰の妹か、なんて関係ない。

彼女の笑顔を、俺が守りたいと、そう思ったんだ――……。



*                     *


「まったく、いつまで無駄話をしているつもりだ、貴様らは。休憩時間も終わるぞ」

「あ……ああ」

「そうですね……」

立ち上がり、昼食のトレイを持ってそそくさと後始末を始めるディアッカとニコルを尻目に、俺はアスランの耳元で囁いた。

「俺との邪魔だけはするなよ、義兄上」

「……俺は絶対に、認めないからな――――!!」

アスランの声が、ザフト軍じゅうに響いた……。



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何なんですかね、この話は。


下手くそなギャグ?ってカンジ。


管理人、イザーク大好きです。『王子』だの『姫』だの呼んでますが、大好きです。


イザークって、気障な台詞とか似合いそうだなぁ〜とか思って考えついた作品です。



ここまで読んでくださって、有難うございました。