妹、というもの。

それは自分より幼く、庇護すべき存在。

世間一般で言う妹とは、そんなもの。

でも、私はそうは思わない。

どうして、いつもあの子なの?

どうして、私はずっと、我慢し続けなければいけないの?






T   身代わり






それは、久しぶりに実家に帰った日のことだった。
帰りたくなど、なかった。
あそこには、私の居場所なんてどこにもないから。
私は、空気のようなものだから。
帰りたくなかったのに、父様に厳命されて、私は久しぶりに実家に帰った。
家に帰った途端、父様は私の格好を頭の天辺から爪先まで見て、溜息交じりに言った。

「喜べ、 。お前の婚約が決まった」
「そうですか」

婚姻統制の名のもとに行われる、愛のない結婚。
明るい希望など抱きようもない、悲惨な現実。
これが人類の叡智の結果?
これが、ナチュラルより優れたコーディネイターの姿?
次世代を担う子供に、自然のままではとても恵まれない、哀れな哀れな。それが、私たち。
婚姻統制。対の遺伝子を持つもの同士で行う、愛のない政略結婚。

別に、相手なんて誰でもいい。
どうしたってあの人は、私のものにはならない。
私を愛してくれることはない。
だったら、誰を夫に迎えようと同じ。

行為をしなくても子供は作れるし、育てたくなければ託児所に預ければいい。一緒に住みたくないなら、別居すればいいのだ。
ただ、それだけのこと。

「それで。相手はどなたですか」
「お前の同僚の、イザーク=ジュール君だ」

心臓が、止まるかと思った。
イザーク……イザーク=ジュール。恋焦がれてやまない相手。
その人が、私の婚約者……?

ああ、そういうことか。

心が、急速に冷めていく。

「私は、あの子の身代わりですか」

分かっていた筈なのに、傷ついている自分が、滑稽だった。
あの子が死んだから。
でも、ジュール家との繋がりは欲しいから。
唯一残った娘を身代わりに嫁がせよう、と。そういうこと。
= の名前を捨てて、 = として生きろといったのは、貴方なのに。
私のことなんて、見向きもしなかったくせに。
必要になったら、私を呼び戻すの?自分の政略の道具として?


イザークのこと、好き。
でも、結婚したくない。
イザークのこと、大好きよ。
だから、結婚したくないの。
イザークが愛してるのは、私じゃないから。
私は、あの子の影にしかなれないから。







大好きなイザーク=ジュール。
あの人が愛してるのは、私じゃない。









私の、妹だから――……。







戦争の中で自分を見つめていくのが『鋼のヴァルキュリア』シリーズなら、
今度は最初っから恋愛色の強いものが書きたくて、この『恋哀歌』を書き始めました。
初めからシリアスで申し訳ありませんが、できましたらこの作品も応援してくださると嬉しいです。