雪が、降っている。

白い白い、真っ白な雪。

全てを、白く染め上げて。

雪の白さが、目にしみて。

今は遠い君の声が、俺の心を灼いた。

雪を、この世で一番綺麗といった君。

雪を、天から降る華だと言った君。

嗚呼、せめて君が、ここにいてくれたら……。

雪の白さが。

凍てつくように冷たい大気が。

余計に君が居ないことを思い知らせて。

涙が出そうに、なったんだ……。









――――君に傍に、居てほしい――……。













雪 の 














= という女は、変な女だった。

ふわふわとした薄茶色の長い髪をなびかせて。よく笑い、よく泣く。そんな女だった。

「ジュール隊長!!これこれ、見てください!!」

「……なんだ、それ」

「雪ウサギですよ、雪ウサギ!!隊長、知らないんですか?」

「……今、夏だぞ?何でんなもんがあるんだ?」

「かき氷機で氷削って作ったんですよ。可愛いでしょ?」

「……アホか、貴様は」

はMSのパイロットで、俺の部下で……恋人だった。

俺より3つ年下の14歳で、『緑』で。

年下なのを気にしてか。それとも『緑』であることに引け目を感じているのか……。 は一度も俺を名前で呼ばず、俺に対して話をするときは、常に敬語だった。

俺はそれがいつも、不満で……。

。何度も言っているだろう?二人きりのときは、『イザーク』でいいと」

「ジュール隊長は私の上官ですから、それはできません。それは、私のけじめです……」

「しかし……!!」

「ところで、隊長」

声を荒げる俺を、 は笑顔でさえぎって。

「隊長は、雪を見たことあります?」

「そんなもん、プラントでいくらでも……」

「違いますよ。そんな偽物の雪じゃなくて、本物の雪です。見たことあります?」

「……ない」

「雪って、本当に綺麗なんですよvv」

は一世代目コーディネイターで、地球生まれの地球育ちだった。

ナチュラルの両親がブルーコスモスの手で殺されてしまったため、プラントにいる叔父に引き取られたのだと言っていた。

そして彼女は、幼い頃を過ごした地球という星を、本当に愛していた……。

「俺は地球に行ったが、そう大したところではなかったぞ」

「隊長が行かれたのは、砂漠じゃないですか。そうですね、もっと北の……ジブラルタル基地より北の都市に行かれれば分かりますよ。あの辺は古い町並みを文化遺産として保存してますからね。綺麗ですよ。何十年も前からある古い家々を、雪が白く染め上げていく様は」

「なら、 。戦争が終わったら、行くか?戦争が終わって、お前が俺の部下ではなくなったら、一緒に」

俺がそう言うと、 はどこかさびしそうに笑った。

それが、俺は少し意外で……。

ならば、本当に嬉しそうに笑うだろうと、俺は確信を持っていたのに……。

でも、そうはならなくて。

ただ静かに、彼女は微笑んで。

「いいですね。その時は是非、一緒に行きましょう、隊長」

と言った……。

嗚呼。もしもこの時、俺がその笑顔の意味に気付いていたのなら。

運命は、変えられたのだろうか……?



*                     *




戦場で俺は、ディアッカと再会した。

もう死んだと思っていた、かつての友との再会。

分からなくなった。

何故、俺は戦っているのだろう?

何と、戦わなければならないのだろう?

分からなくて。

そんな俺を支えてくれたのは、 だった。

「ディアッカさんが見つかったって、本当ですか?」

「……ああ」

「良かったですね、隊長。ずっと、心配されてましたもんね」

「お前も、心配してただろう?」

「ディアッカさんには、色々とお世話になりましたからね。相談とか乗ってもらってたんですよ。隊長のことで」

頬を染めて、ふふ、と は笑った。

の笑顔が、好きだった。

思わず俺が手を伸ばして抱きしめると、 はくすぐったそうに笑った。

「お前、今日は戦闘に出るな」

「……な……!?何でですか、隊長!?」

「怖いんだ……」

戦闘の最中に、二つ年下の同僚は死んだ。

前線に出れば、命の保証などどこにもない。

もしもこれで、 を失ってしまったら……。

「お前が……死んでしまうのが、怖い……」

「隊長……」

は笑って、そっと俺の頬に触れた。

「一緒に雪を見に行こうって約束したじゃないですか。大丈夫ですよ……」

そういって は背伸びして。

俺の頭を抱えるようにして、抱きしめる。

「約束しますよ、隊長。私はずっと、隊長の傍にいますから……」

そう言って、少女は囁いた――……。



*                     *




ひっそりとした、静かな場所。

そこは確かに、死者が眠る場所として、相応しいものであっただろう。

俺は目の前の簡素な墓に花を捧げた。

そのまま、跪く。

……久しぶりだな……」

囁いて、墓石をそっと撫でる。

「貴様は本当に嘘つきだ。俺を置いて、さっさと逝きやがって……」

= は、戦闘の最中に死んだ。

俺を、庇って……。



*                     *




地球連合は、ザフトに向かって核を撃った。

それはザフトの軍事拠点のひとつ、ボアズを壊滅させる。

それに対し、ザフトはついにジェネシスを撃つことを決意した。

そんな矢先のことだった――……。

ストライクダガーとか言う、連合のモビルスーツを屠った俺の前に、“フォビドゥン”とかいう機体が現れ、攻撃を仕掛けてきた。

全くもってその攻撃を予期していなかった俺は、押されて。

その時、死を覚悟した……。

「イザーク!!逃げてください!!」

……!?」

はじめて に名を呼ばれた俺は、思わず瞠目した。

そこに一瞬の隙が生まれる。

俺の“デュエル”は、 の乗る“ゲイツ”に突き飛ばされていた。

っっ!!」

「イザークっっ!!」

ディアッカがランチャーを放つ。

けれど の乗る機体は……。

まだ、形を残しているのが不思議なほど、傷ついていた。動力も、落ちたのか。通信機は声も拾わない。

……?」

俺はその機体を撃破し、 の乗る“ゲイツ”をヤキンに運んだ。

コックピットをあけると、血塗れの が運び出されてきた。

は!? は……」

軍医がゆっくりと、首を横に振った。

助からない、と言っているのだ。

「嘘だ……嘘だ……そんな筈……そんな筈はない!!」

「……イザー……ク」

の手が、俺にさし伸ばされる。

その手を、俺は握り締めた。

血に汚れたその、手。けれど汚いだとか、そんなことは思わなかった。

ただ、俺は必死で……。

「あの……ね。イザーク……幸せに、なって下さい……ね……」

……?」

「私、もう駄目みたいですけど……イザークは、生きてくださ……ね?」

「馬鹿なことを言うな!!そんなこと……そんなこと、あるわけないだろう!!」

「イザーク……」

は、うっすらと微笑んだ。

大好きな大好きな、その笑顔。

もう、その笑顔を見ることはできないのだ、と。なぜか確信してしまって。

「私のことは、早く忘れてください。……ジュール隊長……」

隊長、と は俺を呼んだ。

多分、俺のために。

「どうか、あなたが幸せになれますように……」

は笑って。

そしてそのまま、ゆっくりと息を引き取った――……。



*                     *




「雪をな、見に行ってきた」

俺はそっと、 の墓に向かって話しかける。

まるで、生者に話しかけるように。

「本当は、地球に眠りたかっただろうが……せめて、俺の傍にいてほしかったんだ。俺の勝手な我が侭で、プラントで眠ることになってしまって……」

すまんな……と俺は囁いて。

涙が溢れそうになるのを、必死になって堪えた。

「綺麗だったぞ、地球の雪。お前がいっていたとおりだった」

できれば一緒に見たかったけどな……その言葉を、呑み込んで。

ただ俺は、 の墓に向かって、微笑んだ。

「つくづくお前も、勝手なヤツだ。本当は俺に忘れてなんかほしくなかったくせに。……忘れないさ、お前のことは。それに俺はきっと……きっと、幸せなんだろうな……。お前を、忘れなくて、すむ。忘れることが、何よりの不幸だ……」

大切だった君。

きっと俺は一生、君を忘れない。

この胸の、痛みとともに。

愛しているよ、

きっとずっと……愛し続けるよ。

愛しい愛しい、ただ一人の君へ――……。



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雪が降って無性に書きたくなった、雪ネタで死にネタ。

甘くはないけれど、ラブラブだとは思います。

イザークが幸せだと言うのは、 さんを永遠に忘れなくてすむからです。

どんなことがあっても、 さんを忘れなくてすむ。

失ってしまったのは確かに不幸だけれど、それだけはただ一つの幸せ。

そんな思いを込めて書きました。

久しぶりの短編でしたが、次はもう少し、幸せな短編が書きたいです。

ここまで読んでくださって、有難うございました。