どれだけ言葉を連ねたら、違うことなく貴方に伝わるのだろう?

どれだけ言葉を連ねたら、貴方はあたしを捨ててくれるのだろう?

どれだけ言葉を連ねたら、これまでの二人でいられるのだろう……?





哀の






罪人の手だ、と思う。

血塗れの手。血の匂いしかしない手。

どれだけ清めようとも、この血はあたしの魂にまで付着して、腐臭を放っている。

そう、思わずにはいられない。

戦争をしているから、それはしょうがないことだったのかもしれない。

この手が守れたものも、確かに存在しているかもしれない。

でも、それが免罪符になるとは、思えない。

血塗れの、手。

この手に染み付いた、ナチュラルの血。

これは、親殺しと、そう言えるのではないか。

コーディネイターを作ったナチュラル。

ナチュラルの夢だったコーディネイター。

ナチュラルがコーディネイターを憎むのは、親の管理下から離れた子供を憎む感情に似ている。

コーディネイターがナチュラルを蔑むのは、頑迷な親を嘲る子供の感情にも似ている。

コーディネイターと、ナチュラルと。一体どれだけの違いがあるというのだろう?

血管を切れば、吹き出す血は同じ赤だというのに……。

そして第一世代目コーディネイターであるあたしは、他の二世代目コーディネイターより余計に罪深い、と。そう思う。

親がコーディネイターの二世代目とは違い、一世代目のあたしの両親は、ナチュラルで。

ナチュラルを屠り続けるあたしの行為は、最も罪深い「親殺し」ではないか、と。

ナチュラルとコーディネイターの違いなど微々たるもの、と。身につまされて知っているはずのあたしが行っている、残虐行為。

殺人行為。

殺人なんて、いかに言葉にしても許される行為ではないのに、「戦争だから」ただその一言で、全てが正当化される。

そしてその言葉に縋りついて、罪を重ね続ける罪深いあたし……。







声をかけられて、思わず振り向いた。

立っていたのは、あたしの……恋人。イザーク=ジュール。

綺麗な綺麗な、人。

外見も勿論綺麗だけど、彼は心が綺麗だ。

潔くて、高潔。卑怯や怠惰を何よりも憎む人。

「どうした?部屋にいるならうんとかすんとか言えばいいだろうに。何度ドアフォンを鳴らしたと思ってるんだ?」

「……ごめんなさい」

「まぁ、いいさ。どうしたんだ?暗い部屋で、暗い顔をして」

イザークの手が、あたしに向かって伸ばされる。

綺麗な綺麗な手。

男の人なのに白くて繊細で……でも、骨ばった男の人の手。

「……触らないでッッ!」

?」

伸ばされた手を、振り払う。

イザークが怪訝そうな顔をするのが、分かった。

そうね。無理もない話ね。

嵐の夜。眠れない暁。切ない黄昏時。あたしを抱きしめてくれた、腕。その温かさを、あたしは知っている。

あたしを甘やかしてくれる指。その優しさを、あたしは知っている。

でも、だから駄目なの。

貴方が、あたしに触れちゃ駄目。

綺麗な綺麗なイザーク。あたしに触れたら、貴方まで穢してしまいそう。

あたしに近づいたら、貴方にあたしの放つ腐臭を嗅ぎつけられてしまいそう。

?」

あたしの顔を覗き込むようにして、イザークが言う。

案じるような、その声の優しさに、縋りつきたくなる弱いあたし。

貴方は、綺麗なのに。

あたしは、こんなに穢れているのに。

なのに、何で?何で貴方はそんなに……こんなあたしにまで優しいの?

「また自虐的なことでも考えてたのか?

「……またって何よ」

「……今日みたいな日に、お前が考えることはそれくらいだろう?」

貴方には、あたしの考えなんてお見通しなんだろうか。

そう。考えてたことは、確かに自虐的なことかもしれない。

今日……今日は、あたしの両親の命日だから。

「よく分かったね」

「もう何度目だと思っている?自虐的思考に自虐的行為にハンストに自傷行為。いい加減慣れた」

呆れたように呟く、貴方。

そんな女、さっさと見捨てればいいじゃない。

こんなめんどくさい女、やっぱり貴方には相応しくない。

世の中には選ばれた人がいるの。

貴方もきっとそんな人。そんな貴方に相応しいのは、もっといい家柄の、綺麗で明るくて素直な人。

間違ってもコーディネイターの出来損ないのようなあたしじゃない。

「こんな女、さっさと見捨てればいいじゃない……」

?」

「あたしなんて見捨てたほうが、はるかにイザークのためなのに」

!」

叩かれる、と思った。

そして予想通り、高く鳴り響く音とジンジンと痛む頬に、あたしは彼に叩かれたことを知った。

叩かれてもね、涙も出ないの。

ほら、やっぱり可愛くない女。

「いい加減にしろ、お前。さっきから黙って聞いてりゃグダグダとくだらないことばかりほざきやがって。この自虐趣味の大馬鹿者」

イザークは、よく怒る。

潔癖で高潔な彼の人柄か、ただ単に気が短いだけなのか。はっきり言ってイザークの怒声を聞かない日なんて、無きに等しい。

でも、ここまで怒っているのを見るのは、初めてのような気がする。

「何でそんな論法になるんだ!えぇ!?」

「だって、貴方の言うとおりだもの。自虐的思考に自虐的行為にハンストに自傷癖。皆、あたしのことだわ。こんな面倒な女さっさと捨てて他に女作ったほうがずっと、貴方のためでしょ?」

分かりきっていることを、聞かないでよ。

「それが自虐思考だって言うんだ、この馬鹿が!」

胸倉を掴み上げて、イザークがわなわなと震える。

……これは、本気で怒らせてしまったのかもしれない。

でもね、イザーク。あたしはそう思うの。自虐思考で自虐趣味のあたしだから、こんなこと考えてしまうの。

それは、仕方ないことじゃない。否定する術を、あたしはもたないんだもの。

「俺が貴様を選んで、貴様を愛すると決めた。それが不満か?」

偉そうなその言葉は、貴方が自分に絶対の自信を持っているからいえるもの。

自分に自信のないあたしは、そんなこと自信をもって言えやしない。

不満なわけじゃ、決してない。

貴方に告白されたとき、嬉しくて夜も眠れなかった。

だってあたしも、ずっと貴方が好きだったから。

ただね、不安なの。

きっとあたしは、不安なの。

どうしてあたしなの?って。あの日からずっと考え続けてる。

貴方のことを好きだと言っている人。他にもたくさん知ってる。

あたしでなくても、いいのに。

あたし以外にも、いるのに。

「どう言えば、お前に俺の気持ちが伝わる?」

「……」

伝わるわけ、ないじゃない。

人が心で何を考えているか、なんて。

分かりようもないこと。

貴方が心の中で何を考えているか、知るのが怖いだけなのかもしれないけれど。

臆病ね、あたしは。

「ねぇ、イザーク。貴方の気持ちを信じさせたいというなら、約束して」

「何を?」

「あたしを捨てるときは、あたしを殺してね。貴方の手で、あたしを終わらせて」

あたしはもう、貴方のことだけで一杯で。

もしも貴方があたしから離れてしまうなら、あたしを保てなくなるんじゃないかと思うほど貴方に依存している。

だから、ねぇ。お願い。

あたしを捨てるなら、何時捨てても構わないから。それが当然だと思うから。その時は、貴方の手であたしを終わらせて?

貴方が永遠にあたしを忘れなくなるくらい、残酷にあたしを殺して?

……お前……」

「ねぇ、お願いよ?約束して?」

あたしの言葉に、イザークは虚を突かれたように目を丸くして。

それから、口元にシニカルな笑みを浮かべた。

あたしの髪にそっと手を伸ばして、梳く。

「殺すだけで、いいのか?」

「え……?」

「殺すだけで、いいのか?……その後、死体を喰ってやろうか?」

貴方を、あたしだけのものにしたいの。

不安なの。だから、殺して?

そう言っているの、貴方には過不足なく伝わってるのね。

「それこそ、こっちの台詞だな、 。……俺以外の男に走ってみろ。そしたら俺がこの手で、お前を殺してやるから」

「イザーク」

「殺して、その後死体を喰ってやるよ。お前は、俺だけのものだから」

「うん。その時は、骨まで残さず、あたしを食べて……?」

貴方の手で、あたしを終わらせて?







あたしの手は、血塗れで。

あたしの魂まで付着した血は、腐臭すら漂わせているような気さえして。

もしも、あたしが貴方の害になると思ったなら、あたしはふりだけ他の人を想うから。

貴方は貴方の言葉どおり、貴方の手であたしを終わらせて?

お墓なんかいらないし、思い出の品なんて全部灰にしていいから。あたしを殺したその後、あたしを食べて。あたしを貴方だけのものにして?

大好きなの、イザーク。

貴方の言葉を信じたいのに疑ってしまうけど。

大好きなの。

だからいざというときは、お願い。その慈愛の剣を振り下ろして、あたしを終わらせてください。

愛している、から――……。



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誰ですかねぇ。可愛らしいドリーム書きたいなんてほざいてるのは。

……私です。

可愛く……ないですか?ないですね。

こういう話、好きなんですもん。

人肉嗜好とか言うとあれですけど、死体を喰って貴方の全てを私の物にする、みたいな感じ。

いや、そんな愛なんていりませんけどね。



種ディス始まったのに、相変わらずC.E.71設定です。

まだ種ディスは世界観が掴めなくて……。

種ディスはしません!とか言ってますけど、そのうちシンちゃん夢とか書きそうな自分が怖い……。





ここまでお付き合いいただきまして、有難うございました。