ロンドン、キングスクロス駅。


そう、ここはロンドンだ。ヨーロッパだ。しかしここを我が物顔で闊歩する東洋人の四人組がいた。


青年二人に少年一人、そして少女が一人という組み合わせの日本人だ。


「9と3/4番線ホームなんてあるか!?兄貴たち、僕をからかっているだろう!?」


「私たちがお前をからかうはずがないだろう、


「ある、と言えばあるんだぞ、


「大体これから入る学校を考えてみなよ。魔法学校なんだよ?」



chapter1.年長者の言葉は絶対



はっきり言って、大声で話しても良い会話ではない。


そもそも“魔法”なんていうものは、非科学的なものだ。


産業革命以降、そういった神秘的なものを排除することによって、人類は新たな文化を築いてきた。その中にあって、“魔法”。


そんなものを信じるのは、最早子供ぐらいのものだろう。


中世の世の中であれば、その一言だけで火あぶりである。


しかし、彼らは日本人。


当然会話は日本語である。話の内容がばれる心配は、殆んどない。


そう、バレなければいいのだ。バレなければ、例え大声で話していたとしてもノー・プロブレム☆(恥の文化はどうしたよ?)


「しかしに編入通知が来るとはな。兄さんは嬉しいよ、。ホグワーツは素晴らしいところだ。頑張るんだよ。」


「ま、ほどほどに頑張れや☆あ、人殺すなよ。いくらキレてもな」


「まぁその時は、俺が揉み消してあげるけどね☆」


「だーかーらー!!9と3/4番線ホームってどこよ!?」


「「「9と10の間だ!」」」


何を当たり前のことを言ってるんだ、このクソ兄貴!!心の中で罵声をあげている内に、本当に兄たちは、9番線ホームと10番線ホームの間にを導いた。


長兄が来い来い、と手招きする。


「ここだ」


「柵じゃん!!」


「ははは☆ナイスツッコミだぞ、!」


スパーンと長兄にツッコミを入れると、すかさず次兄がに向かって親指を立てた。


何のことはない。これが彼らの日常である。


「この柵に向かって突っ走れ、!」


「死ぬわ!!」


「お前なら大丈夫だろ……ってか、死なねぇし、怪我もしない。賭けても良い。もし怪我をしたなら……」


「「イツキを殴れ☆」」


「俺かよ!!」


末弟を妹の犠牲に捧げようとする兄たちに、当然彼は抗議の声を上げた。


しかしまぁ、運命とは残酷である。


妹は、その提案を快諾したのだ。


「分かった……」


は息を整え、カートを柵の前に押しやった。


ギュッと目を瞑る。


そしてそのまま、一気に走った!!


「ほ……ほぇぇぇ」


エレベーターを降りるような感覚横バージョンから解放されたの目の前には、赤と緑の列車があった。『ホグワーツ特急』そう書かれた文字が光を反射して、燦然と輝いている。


柵の中にあったのだ!!9と3/4番線ホームは!!


全てを察して、はウットリと呟いた。


「魔法みたいvv」


「「「つーか、魔法なんだ!!」」」


の言葉に、兄たちのツッコミが、綺麗に重なった。


荷物を積み込んでもらい、兄たちの元に帰る。


長兄が、腕時計に目をやった。


「出発まであと十分か……。丁度良いな。それじゃあ行くぞ。『家家訓』!!」


「「「家家訓!!」」」


「一つ。やられたことは倍にしてやり返せ」


「「「やられたことは倍にしてやり返せ!」」」


観衆の前で家訓の詠唱を始めるカヅキ=(20)、ムツキ=(19)、イツキ=(18)、そして=(13)。


勿論、日本語である。


そして日本語であるが故に、語られる内容の剣呑さに周囲の人間が気付かなかったのは、むしろ幸いだったろう。延々と続け、ついにラストの家訓に辿り着いた。


「一つ。士道に背くまじきこと」


「「「士道に……え!?」」」


「兄貴、まだ新撰組にハマってたのかよ!?」


「てか、何だよ、士道って」


「やっぱり背いたら切腹!?ス・テ・キvv」


「いや、これも家訓に入れたから」


「「「また増えたのかよ!?」」」


三人は絶叫した。


特に、暗記の苦手なにとって、家訓の増減は切実な問題だ。


しかし、家家訓に曰く、『年長者の言葉は絶対』である。遵守しなくてはならない。


「一つ。士道に背くまじきこと」


「「「士道に背くまじきこと!」」」


「一つ。仕返しは殺さない程度に」


「「「仕返しは殺さない程度に!」」」


「よし、それじゃあとイツキはそろそろ列車に乗りなさい」


「てかさ、兄貴たち。僕、一つだけ言っときたかった事があるんだよね」


腕時計に目をやる長兄に、は軽く手を上げて自己申告した。


彼女には、暗記能力よりももっと、切実な問題があったのだ!!それは……!!


「僕、英語出来ないよ?」


「……」


「……」


「「忘れてた!!」」


実は彼女、英語の成績はアヒル(要するに“2”)なのだった!


そのことを失念していた兄たちは、当然慌てた。慌てるだろう。何せ彼女は、“What is your name?”と問われて、“Thank you”と答えた過去を持つ強者である。


「どうするよ、兄貴?」


「仕方ないな。やるしかなかろう」


長兄の手には、すでに杖が握られていた。


その唇が、聞いたことのない言葉を紡ぐ。


そして兄が杖を振ったその時には、の世界は変わっていたのだった――……。