目の前にはチョコレート。

運動したせいか、その甘さが本当に嬉しい。

=は小さな幸福を噛み締めていた――……。





Chapter3.  女の子には優しく






「ちょっとシリウス!このバカ犬!!あんたは匂いの一つもまともに辿れないの!?」

「出来るか、んなこと!!大体、俺は犬じゃねえ!!」

「……僕の女神に逆らう気かい?いい度胸だね、シリウス」

急に辺りが騒がしくなってきて、は首を傾げた。

しかしそれでもチョコは手放さない。それが彼女の、彼女たる所以である。

それにしても、どこかで聞いたことのある声だった。

しかし彼女の思案は、そこで中断させられるのを余儀なくされた。

いきなり人が、飛び込んできたのだ。

それも、幸せそうに叫びながら。

「チョコ――――っっvv」

「おい、コラ!リーマス!初対面の相手にいきなりそれは失礼だろ!おい、コラ!聞いてんのか、リーマス!!……悪かったな。驚かせてしまったなら、謝る」

開け放された扉の向こうから、鳶色の髪と同色の瞳の、笑顔の優しい小柄な少年が現れた。

そしてその少年を押さえ込むように、漆黒の髪に蒼い瞳の、目つきは悪いがかなりの美形の少年が……。

「イ……イギリス人て美形ばっか。さすがアングロ=サクソン系」

「見ろ、リーマス。びっくりしすぎてトリップしちまっただろうが!」

「チョコ――vv」

「チョコ以外の言葉を知らんのか、お前は」

は戯れに、リーマスと呼ばれた少年の目の前に、チョコを一つ差し出した。

少年が手を伸ばすが、それを上回るスピードで手を引っ込める……を繰り返す。

気持ちが高ぶってきたのか、彼は顔を真っ赤にして、目尻には涙を浮かべている。

悔しそうな、少し拗ねたような表情が、とても愛らしい。

可愛いっっvv思わずは心の中で絶叫した。

「ちょっとリーマス、シリウス!何やってんのよ……ってこの子!この子よ、ジェームズ!!」

「君はさっきの……」

先ほどからの騒ぎの(「チョコ――vv」は除く)主は、なんとが助けた少女だったのだ。

「あなたのこと、探してたの。ちゃんとお礼を言ってなかったし……それに私、貴女と友達になりたくて……ダメかしら?」

「お礼なんて、そんな……。僕は当然のことをしたまでだよ。我が家の家訓にも、『女の子には優しく』ってあるしね」」

「……なんかどっかで聞いたことがあるぞ、それ……」

「あ!ひょっとして君、お兄さんが三人ほどいないかい?」

問われて、は頷いた。

兄が三人いるのは事実だし、別に知られて困るものでもない。

ただ、何故彼らが、こうもあっさり『三人』という正解に辿りつけたかは、目下最大の謎だった。

「間違いないね。君、ミス=だろう?」

「そうだよ。よく分かったね。僕の名前は、=。よろしく」

「てことはあれか?われらが偉大なる先達、カヅキとムツキ、そしてイツキの妹か、お前?」

「うわ――。噂には聞いていたけど、随分可愛いね。優しいし。チョコ、有難うvv」

は、困惑した。

いきなり兄たちを『偉大』だの何だの言われたからだ。彼女からすれば、三人は凡そそのような言葉とは無縁に見えて。

長兄、カヅキ=はシスコンで、にベタ甘の兄だし、次兄もまた、シスコンでスポーツ馬鹿だ。唯一の常識人のすぐ上の兄は、逆に一番影が薄い。

彼女にとって兄たちに対する認識は、所詮その程度だった。

「意外――……て顔をしているね。よし、それじゃあ、僕たちから話そうじゃないか!エンペラー=オブ=グリフィンドール(グリフィンドール皇帝)カヅキとムツキ、そしてイツキの話を!!
――カヅキ=。僕たちが一年生のときの七年生。彼は首席で監督生だった。当然、先生方の信任も厚い。そして彼は、我ら後輩後輩一同に常に範を示してくださった。彼の芸術的な悪戯の数々は、今も目に焼きついているよ。伝授された数々の悪戯といい、彼は最高の先輩だった――……」

「ムツキ=。俺たちが二年生のときの七年生。彼は首席で、クィディッチチームのキャプテンだった。彼の最大の功績は、なんといってもジェームズをシーかーとしてチームに入れたことだろう。二年がクィディッチ参加するのは、前例もなかったしな。先生方は当然反対したが、彼は決して受け容れなかった。そして彼の悪戯には、あらゆる意味で大衆をひきつける力があったな」

「じゃ、次は僕だね。イツキ=。現グリフィンドールの監督生。次席でキャプテン。彼は、視覚的効果を狙った悪戯に定評がある。さっき見たルシウス=マルフォイへの悪戯……!僕は暫くの間は、アレを忘れられそうにないよ……!あのルシウスに、蛍光ピンクのローブを着せて、電球までつけるなんて……!!」

「何をやってるんだ、兄貴は!!」

は思わず頭を抱えた。

兄たちの意外な素顔に、驚きを隠せない。

きっと“素晴らしいところ”の意味は、“思いっきり悪戯かませて素晴らしいところ”の意味だったのだ、と思う。

「自分だけそんな楽しいことをするなんて!!アイツをノシたのは僕なのに……!!」

「君とは気が合いそうだね。ああ、自己紹介がまだだった。僕はジェームズ。ジェームズ=ポッター。ジェームズと呼んでくれたまえ☆」

「……ひょっとして、彼が下僕?」

「そうよ。私はリリー=エヴァンズ。リリーでいいわ。私も、と呼ばせてもらうし。いいかしら?」

「勿論」

「おおっと、。僕はただの下僕じゃない。リリー専用の、『愛の下僕』さ☆愛しているよ、マイ=スイート。僕の人生に咲き誇る華麗なる華、リリー」

二人はいきなり、愛を語り始めた。

手を取り合い、熱く語り合う二人の周りには、何故か知らんが電磁波のようなものが飛び交っている。

「……バカップル?てか、何コレ?」

「ホグワーツ名物『ラブvシールドだ。この二人にしか発生させられないが。……俺の名はシリウスだ。シリウス=ブラック。シリウスでいい」

「僕はリーマス。リーマス=J=ルーピン。リーマスって呼んでね」

「そしてさっきから一言も口を利いてないオドオドしたチビはピーターだ」

「こ……こんにちは。ぼ……僕は、ピーター=ペティグリューだよ。よ……よろしく……」

「うんよろしくね!!」





この出会いは、運命だった。

そして後に起こる悲劇の、序章でもあったのだ――……。