ハイネ=ヴェステンフルスという男の第一印象は……。





すごい前髪

ただ、それだけだった――……。





HASE  THE THRILL






!」


いくらアカデミーが男所帯だろうが。
いくら緑の制服を着た連中がうようよと私の周りを歩いていようが。
いくら周囲が人でごった返していようが。

前方からやってくる男を、私が見間違えることはない。
私がアイツに惚れてるから、ですって?

はっ!(←鼻で笑って)

私とアイツに、そんなロマンスは存在しないわ。
そんなの、ちゃんちゃらおかしいわね。

見間違えないのは、アレのせいよ。
アレよ、アレ。
ヤツの特徴的過ぎる――……。









前髪


「何よ、ハイネ」
「相変わらず冷たいのな、 は」


苦笑して。
あぁ本当に、センスのないカラーリング。
明るいオレンジの髪に、渋すぎる感のある緑の制服は、組み合わせが宜しくない。
頼むから、トップ10に入りなさいよ。
一般兵の緑、なんて。最低の組み合わせにだけはならないで頂戴。




――……笑えるから。

まぁ、コイツは現在アカデミーの首席様だから、そんなことにはならないと思うんだけど。


「つれないなぁ、 は」


ぐしゃり、と髪を掻き回す。
鳥の巣みたいになってもおかしくないのに、強固な前髪は決して崩れない。




本当に、素晴らしすぎるセンスだわ。


「聞いてる?
「ぎゃぁっ!」
「……何て声出してんの、お前」


突然素晴らしい前髪センスを持つ男が、どアップで私の顔を覗き込んで。
び……吃驚した。
間近で見ると、結構かっこいいのよね。
美形ぞろいのコーディネイターの中にあってさえ、『かっこいい』部類に余裕で入ってる感じ。

そんな美形様が、おかしそうにくすくす笑ってるわけですよ。




……誰のせいでこうなったと思ってるのよ。
そんなこと、死んでも言ってやらないけど。





ていうか、一つ質問しても良いですか。


「その前髪、セットに何時間くらいかかってるの?」
「んぁ?」
「だから、前髪」


掻き回しても崩れない前髪よ。
気になるじゃない。
セットにいくら時間がかかってるのか、とか。
整髪料はいくらぐらいかかるのか、とか。
気になるでしょう。
気になるに決まってるわ。

真剣な目で尋ねる私に、ヤツは溜息を吐く。
溜息って言うか、舌打ち?

いい度胸じゃない。


「一時間」
「一時間!?バカじゃないの、アンタ」
「何言ってんの。身だしなみは、当然の嗜みだろうが」
「アンタのそれ、身だしなみの範疇超えてるわよ」


一時間かけて髪のセット……。
あの〜。ここ、アカデミーですよね?
軍人を養成するところですよね?
身だしなみなんぞに気を配る余裕は――まぁ、多少は配っていただきたいけど――ない筈よね。
なのに何で、一時間も!
それも前髪に!
前髪のセットに!

そしてそれで首席!
……月のない夜は、背後に気をつけなさい。
絶対に、闇討ちしてやる……!!

心に、誓って。
拳を握り締める。


「何やってんのよ、
「ぎゃっ」
「……もうちょっと可愛い悲鳴は上げられないのかよ」


可愛い悲鳴って、どんな悲鳴よ。
大体、そんなの私に期待してんじゃないわよ。
そもそも。誰がさっきから私に悲鳴上げさせてると思ってるのよ。
本当に、心臓に悪い男ね!


「一度で良いから、あんたの前髪がぺしゃんこになってるところを見てみたいわね」
「見てみる?」


冗談めかして呟く私に、ハイネが顔を近づけてくる。
どういう意味よ。

本当、まじめな顔をしてるからか、改めてこいつの顔が整っていることを再確認してしまって。
思わず、どぎまぎしてしまって。
反則だわ。


「どういう意味よ」
「ん〜?いくら俺でも、寝る前や起きてすぐは、前髪はぺしゃんこよ」
「なっっ!?」
「あ、漸く気付いた。結構鈍いのな、お前」
「な……な……な……何言ってんのよ!!ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」


真っ赤に、なって。
このバカが。
この個性的過ぎる前髪の持ち主が、何を言わんとしているか、分かって。
真っ赤になって。
ニヤニヤ笑う男を、にらみつける。
それすらも、この奇抜な前髪の男を喜ばせることにしかならないと分かっていたけれど。

あぁあぁあぁもう。
本当に、腹が立つ。



「何よ」


突然真剣な声で、名前を呼ばれて。
思わずハイネを見上げる。
私って本当に、学習しない女よね……。
自分で自分に、呆れてしまったわよ。

間近に迫った、端正な顔。
真剣な翡翠に、思わず見とれてしまって。
身動ぎさえ出来ない私の唇に、何かが触れる。

ハイ。自己申告します。

形状記憶の前髪を持つ男の唇がですね、触れたわけですよ。
私の唇に。
お願い。
声には出さないで。
分かってるけど、その名称を言わないで。


憤死しそうだから。
おまけに、公衆の面前!


「好きだぜ?


そんな声で言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!











神様。
前線よりも、アカデミーが私の危険地帯です。
……訂正します。
コイツの傍が、私にとって危険地帯です。
命がいくつあっても足りやしない。




本当に、心臓に悪いのよ!





強風にも崩れない前髪の持ち主がくれた言葉が、ちょっぴり嬉しかったのは、内緒ね?



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何かいてるんですかね、私は。
授業中、ふっと浮かんだネタ。
緋月はこれを『神様が降りてくる』というのですが。
神様(ハイネ)に右手を乗っ取られました。

それなのに、出来上がったのはこんなもの……。

だってハイネ様、しっかりギャグ要員でしょう?

次回こそは、かっこいいハイネ様を。
それこそ神のようなハイネ様を書けるように頑張りたいです。


ここまでお読みいただき、有難うございました。