女の子同士の会話で大半を占めるのが、

男の子の話題。

だれそれがかっこいい、とか。だれそれが優しいとか。

そんな会話に、あまり興味はなくて。

でも……貴方を思うと、少し胸が痛くなるんです。

この感情は、一体何――……?






#03   発芽






――――『そのとおり。よく答えられたな』――――

かけられた言葉は、聞き慣れているものだった。

ザラ家の娘として、人並み以上の努力はしてきたつもりだ。

両親の名に、恥じることのないように、と。

ザラの名を、貶めることがないように、と。

本当は両親も、アスランにそんなものを求めはしなかったのだけれど。

自分が確かに愛されていると実感を持つためには、アスラン自身が自分を『両親に愛される素晴らしい自分』を作る必要性があった。

アスラン自身が望んだ、それは自身にとってあるべき姿だった。

「ジュール先生って、素敵よねvv」

「あのクールさが堪らないのっっ!!」

教室のそこかしこで話題になるその名前は、最近ではもう聞き慣れた物で。

アスランもたいして感慨を抱くでもなくそれを聞いていた。

否、それは聞くと言うよりは、耳に入るというだけだったのかもしれないけれど。

「フレイ、ラクス。お昼はどうする?」

「天気もいいことですし、中庭の木陰で食べるのはどうでしょうか」

「いいわね、それ。こんな天気のいい日に、教室で食べるのは勿体無いわ」

フレイが賛同の声を上げれば、アスランにだって否やはない。

三人は連れ立って、中庭のほうへと歩いていった。







「大人気ね、ジュール先生。フラガ先生を抜いたんじゃないかしら」

「そういえば、フラガ先生も人気がありましたわね。ですがフラガ先生は、保健室のラミアス先生と……」

「そうよ。ラミアス先生と付き合ってるって噂よね。でも、なんかあの先生も人気があるのよ。……お兄さんみたいだからかしら?」

「二人とも、詳しいんだな……」

「アスランが知らないだけでしょ。かなり有名な話よ。フラガ先生とラミアス先生って」

「そうなのか?」

アスランが尋ねると、コクリとラクスが頷く。

……ラクスでも知っている有名なことらしい。

「何、アスラン。本当に知らなかったの?」

「仕方ありませんわ。アスランはそういう話題は苦手ですもの」

「そうだけど……このままだとアスラン、一生男の子と付き合えないわよ?」

悪戯っぽく、フレイは笑う。

少し意地悪な笑顔なのに、それでも彼女の笑顔には独特の華があって。

女のアスランでも正直見惚れてしまうことがある。

「べ……別に男の子と付き合わなくても、死なないじゃないか」

「そりゃそうだけどぉ……。ていうか、死ぬ死なないの問題じゃないし」

「アスランはオクテですから」

「こんなに美人なのにねぇ〜」

フニッとフレイがアスランの頬を抓る。

抓るというよりそれは、引っ張るという感じで。

「まぁ。よく伸びますわねぇ〜」

「ラクス!感心してないでフレイを何とかしてくれ……!」

「フレイ。アスランのほっぺが伸びてしまいますから、その辺でやめてくださいな」

「は〜い」

フレイが頬から手を離すと、アスランは恨みがましいような目でフレイを見つめる。

ラクスは我関せずといった感じで、バッグから簡単なティーセットを取り出した。

ティーポットとカップに湯を注ぎ、温める。

温まったティーポットから湯を捨てると、慣れた手つきで茶葉の量を量り、入れる。

そのままカップに湯を注ぎ、時間を計る。

三人分のカップに紅茶を注ぐと、ニコリと微笑みながらそれを手渡した。

「アスラン、フレイ。お茶ですわ」

「有難う、ラクス。……今日はアールグレイねvv」

「有難う。美味しいよ」

ラクスの淹れた紅茶に、アスランも満足して溜息を洩らす。

彼女の淹れる紅茶は絶品で。

これは店に出してお金も取れるんじゃないか、なんてアスランは思ったりもしているのだ。

「ていうかさ。フレイ。僕は美人じゃないと思うぞ。フレイが僕を美人とか言ってくれるのは嬉しいけど、親友の欲目もそこまで来ると……」

「ラクス」

「はい。何でしょう?」

「このおバカさんのほっぺた、もう一回抓ってもいいかしら?」

ふふふ、とフレイはにこやかに微笑みながらアスランのほうへとにじり寄る。

フレイの本気を察したアスランは、思わずそこから飛びのいて。

「あんた、今の発言で世の女性の大半を敵にまわしたわよ」

「えぇぇぇええ〜!?」

わけが分からないアスランに、フレイはじりじりと近づいて。

「フレイ。アスランはおニブさんですから、そんなにイジメてはいけませんわ」

「……ラクス。あんたの発言のほうが、アスランにダメージを与えてると思うわ」

「あら?そうですか?」

アスランでは、このお嬢さま二人のコンビに勝てるわけもないのだ。

もっとも、ラクスにはそんな自覚もなく、のほほんと微笑んでいるが。

「今年はもう、体育祭が勝負ね。アスラン=ザラ?」

「別に彼氏なんて、いなくてもいいよ」

「ところで。アスランはどんな方がタイプなのですか?」

「え……?」

フレイとアスランの会話なんて知ったこっちゃねぇといった感じでラクスは次の話題へと話題を転換する。

……アスラン=ザラ。どうやら今日は厄日のようである。

「そういえば。聞いたことがないわよね。アスランの好みのタイプって」

「い……言わなきゃダメなのか?」

「当たり前でしょう、アスラン=ザラ?」

「いちいちフルネームで呼ばないでくれ……」

アスランは何ていうかもう、投げやりで。

「ねぇ、気になる男の子もいないの?」

「…………………いないよ……」

「今、間があったわね」

「ありましたわね」

「白状しなさい、アスラン=ザラ!!」

フレイが追いかけ、アスランが逃げる。

ラクスはそんな二人を、のほのほとした笑顔で見ていた。











この気持ちに名前をつけてしまうのが怖い。

気づかなければもう、今までの自分ではいられないような気がして。

胸に萌(きざ)した思いに蓋をして。

いつもと変わらない笑顔を浮かべる。



本当はもう、気づいているのかもしれない。

この想いの名前に――……。




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女の子同士の会話って、可愛くて。

女子高って、こんな感じですよね。

私の高校生活もこんな感じでした。

男子がいないから、とにかく皆で騒いでおおはしゃぎして。

もっぱら、親友と過ごす時間が多かったですけど。