優しい、人。

でもその優しさが、時々辛いことがある。

だって貴方は先生で、僕は、生徒だから――……。






#07   転校生






「まったく、失礼しちゃうわ!!」

「おはよう。どうしたんだ?フレイ」

「それが……今朝からずっとああなのですわ」

触らぬ神に崇りなし、ならぬ触らぬフレイに崇りなしを決め込むクラスメイトたちを尻目に、アスランはフレイに声をかけた。

「おはよう、フレイ。どうかしたのか?」

「……アスラン。あんた、キラとは小さい頃からの親友って言ってたわよね?」

「え?うん」

フレイが何を言いたいのか分からなかったが、とりあえずアスランは頷いた。

ひょっとして、またアスランとキラのことでも誤解しているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「キラ、兄弟いるの?」

「え?キラに兄弟?僕は、聞いたことないよ?」

正直に、答える。

キラは、一人っ子の筈だ。少なくともキラの言えに、キラ以外に子供がいる痕跡はなかった。

「そうよね、キラは一人っ子よね?」

「う……うん」

「有難う、アスラン。それを聞いて安心したわ。……キラ、覚えてなさい」

ふふふと笑うフレイに、さすがのアスランもややビクつく。

それくらい、その時フレイは禍々しいというか、黒いオーラを纏っていた。

「一体どうしたんだ?フレイ」

「今朝からずっとあぁなのです」

「昨日は……機嫌よかったよな?」

「えぇ。昨日も、キラとデートのようでしたし……」

黒く、禍々しいオーラを放つフレイを尻目に、コソコソとアスランとラクスは今後の対応策を話し合う。

話の流れを鑑みるに、原因はどうも、昨日のキラとのデートにあるようだ。

「そういえば、アスラン。B組に、転校生が来るって、本当?」

「え?僕は聞いてないぞ?ラクスは?」

クラスメイトに話しかけられ、アスランは正直に答える。

そんな話は、聞いていない。

そもそも、三年のこの時期に転校してくる者が、いるだろうか。

「私も、存じ上げておりません」

「ラクスが知らないなら、デマじゃないのか?シーゲル様も、何も仰らなかったってことだろう?」

ラクスの父親であるシーゲル=クラインは、この学園の理事長だ。

そしてアスランの父親であるパトリック=ザラは、理事の一人。

その二人が何も言わなかったなら、デマである確率が高い。

「私もそう思うのですが……」

「……くるわよ。B組に。間違いなく」

フレイがきっぱりと言い切る。

その瞳は、爛々と輝いていた。

「本当にどうしたんだ、フレイは!」

「わ……私も、何も……」

「冗談じゃないぞ。こんな状況のフレイなんて、すぐに……」

「そういえば、アスラン」

すぐに僕をダシにして遊び始めるんだぞ、といいかけたアスランだったが、そういうよりも先にフレイに呼び止められる。

ギギィッと音がするような仕草で、アスランはフレイに向き直った。

「な……なんだ?フレイ」

「私が許すわ。犯罪にならないギリギリの手を使って、絶対に彼をオとすのよ!」

「はいぃ!?」

思わずアスランが上擦った声を出したところで、それは彼女のみを責められはしないだろう。

もっとも、フレイにしてみれば、先生の名前を出さなかっただけでもアスランに配慮しているつもりである。

つもり……なだけかもしれないが。

そしてフレイの言葉に反応したクラスメイトによって、アスランは質問攻めにされたのである。

いわく。

アスランの想い人は誰だ!?と。

あまりの事態に、朝からアスランはすっかりヘロヘロになってしまった。

これが授業や勉強のことなら、こうはならない。

苦手な話題、故のことだった……。







触らぬ神に祟りなし、というが。

触っても触らなくても。

フレイの祟りはあるのだ。

……合掌。





「皆、席に着きたまえ」

涼しい声がして、仮面をつけた怪しい担任教師が教室に入ってきた。

寝るときも仮面を外さないという噂は、果たして本当だろうか。

「出席を取る。……アルスター」

「はい」

次々と教師が名前を読み上げる。

出席を確認すると、おもむろに彼を出席簿を下ろした。

「ところで。転校生の噂をしていたようだが?」

「本当なんですか?転校生」

「アスランやラクスは、聞いていないって言ったんですけど……」

「事実だ」

クルーゼの言葉に、ピクリとフレイが反応する。

転校生は、本当に来るのだ。

「隣のB組に転校だ。皆、仲良くするように。以上」

クルーゼはそういうと、さっさと教室を出て行った。



ひょっとすると、あの子だろうか。

昨日、先生と一緒にいた子。

金の髪に金の瞳の、綺麗な子。

強い目をした、子。

ズキン、とアスランの胸が痛む。

あんなに、先生と親しそうにしていた。

そんな子が、転校してくる。

その事実が、痛くて。





誰にも、渡したくないんだ。

あの笑顔の欠片でも渡したくなくて。

そんな浅ましい自分に絶句する。



でも、誰にも渡したくない。

親しそうにしていた、彼女。

でも、絶対に渡さない。

譲らない。





好き……って。こう言うこと……なのかな?



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ずいぶんとお久しぶりです、『恋愛のススメ』
第七話をお届けします。
アンケートでの投票、本当に有難うございます。
遅くなってしまって申し訳ありません。
アスランとフレイとラクスが仲良し、という設定。お気に召してくださった方が多いみたいで、うれしいです。
ただ単に、私がフレイを好きなだけなのですが……。
本当に、有難うございます。

この話の更新スピードも、あげていけたら言いなぁとおもいます。

それでは、ここまでお読みいただき、有難うございました。