『好き』に

理由何て、要らないよね……?






続☆寝巻き祭






キラが持ってきた段ボール箱を開ける。
わざわざ某大手民間配送業務請負店の伝票を貼り付け、その上から『クロキラヤマトの宅急便』などと油性ペンででかでかと書いてある。
芸が細かいというべきなのか、暇人と称するべきなのか。
一瞬アスラン自身悩んでしまった。

段ボール箱の中に収められていたのは、キラ愛用のパソコンだ。
彼曰く、フレイと両親と友人(アスラン、ラクス含む)たちと命の次に大切なものらしい。


「ラクス、端末繋いでも良い?」
「えぇ、構いませんわよ。ちなみに、我が家のセキュリティは完璧ですわ。ご存分になさいませ、キラ」
「わぁ、さすがクライン家だね。僕んちは今一だからさ〜。足がつかないようにハッキングするのって、結構骨折れるんだよね〜」
「まぁ、キラったら。そのスリルが堪らないとか仰るくせに」


アハハ〜うふふ〜とキラとラクスが笑いあう。
一瞬その背後に黒いものが見えたのは目の錯覚か、否そうではあるまい(反語表現)。

カタカタとキラが端末を弄りだす。
普段のキラからは想像もつかない真剣な眼差しに、こんな顔もできるのかと驚く。
ふと視線を感じて横を見ると、フレイがいかにも惚れ直した!といわんばかりの熱い眸でキラを見つめていた。


「出た出た!
さ、アスラン。ジュール先生のことについて、知りたいことは?」
「え?」
「まずはキラ、基本情報からですわ。身長に体重、スリーサイズ。それから誕生日と血液型は?」
「え〜……と。身長183センチ。体重65キロ。スリーサイズは出てないなぁ……まぁ、男のスリーサイズなんて知っても仕方ないでしょ。誕生日は8月8日。しし座のO型」


アスランの代わりにラクスが質問を始めて、それをフレイがメモする。
可愛らしいメモ帳の一番最初のページにメモするところを見ると、どうやらおニューのメモ帳らしい。
そして今度はフレイが手を挙げた。


「なぁに?フレイ」
「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とかは?」
「えと……某大手洋菓子工房の限定チョコレートケーキ。それとフルーツの類は嫌いじゃないみたい。好きな料理は肉じゃが……?アスラン、此処は女らしさで勝負だね。それとお酒にコーヒー。嫌いなものは甘い物?某所のケーキだけは別みたいだね。……ってフレイ。何熱心にメモ取っているのさ。ハッ!ひょっとしてフレイも先生のこと……!?」


愕然とするキラに、フレイが華のように微笑む。
それから徐にメモ帳の表紙をキラに見せた。
そこには可愛らしく


「抜け駆け上等!略奪計画基本作戦アスラン用」


と書かれていた。


「キラ以外の男なんて、興味ないわ」
「フレイ……僕もだよ、フレイ!」


ひしっとキラとフレイが抱きしめあう。
一幅の絵のように美しい光景ではあるが、一人身のアスランには少々辛い。
何せ彼女は、初恋を自覚したばかりなのだ。

普段ならばキラとフレイが抱き合おうが何をしようが(さすがにナニは困ると思われるが)何とも思わないが、今日ばかりは少し羨ましく感じてしまう。
そんな自分に、アスランは赤面した。


「フレイにキラ。初恋に悩むアスランの前で、それは少々やりすぎでは?」


アスランの変化に気づいたらしいラクスが、そう言って助け舟を出す。
寂しそうに……羨ましそうに見つめてくる翡翠に、キラとフレイは慌てて身を離した。


「ゴ……ゴメン、アスラン」
「ごめんね、アスラン」
「いいよ、キラ。フレイも。気にしないで」


シュンとして謝る二人に、アスランは何でもないことのように答える。
普通に笑うことが出来て、アスラン自身ほっとした。


「え……え〜と。あ!アスラン、先生の高等部時代の写真、見たくない?」
それハッキングか?」
「違うよ。図書館で、卒業アルバムを探してチェックして写真カラーコピーしただけだよ」
「それって、肖像権の侵害じゃないのか……?」


思わず遠い目をして力なくアスランはツッコミを入れた。
何だろう。何を言っても無駄な気がしてきた。


「アスラン、聞いて。僕はね、フレイ、君の笑顔のためだったら、犯罪なんていくらでも犯してみせるよ」
「キラ……v」
「あのな……」
「でも、フレイって、自分だけが幸せな時より、アスランもラクスも幸せなときのほうが、いい笑顔するんだよ、アスラン。知っているでしょ?」


前半のおちゃらけた言葉とは打って変わったキラの口調に、アスランは頷いた。
知っているのだ、アスランも。
フレイは、いつも華やかな笑みを浮かべている。
感情に素直で、嬉しいときは喜ぶし、哀しいときは泣く。怒れば憤りを露わにする素直なフレイが、アスランは可愛らしく、時折羨ましくも感じた。
そんな素直さは、自分には無理だと思ってしまうのだ。


「君は僕にとっても大切な幼馴染だし、大切な親友だよ。それに、僕の大切なフレイの大切な親友でもある。だから僕は、君に協力するよ。協力させて欲しい。そのために僕が出来ることなんて、これくらいでしょ?」


瞳を覗き込んで、キラが尋ねる。
それに、アスランは首を横に振った。
そんなことは、ない。
そんなことは、言って欲しくない。
こうして協力してくれて、応援してくれて。それだけでアスランは嬉しいのだから。


「アスランは優しいね。そんな君だから、君の初恋が上手くいって欲しいと思うよ」
「キラ……」
「ほら、僕たちの時は、アスランに散々お世話になったじゃない」


キラの言葉に、フレイも照れくさそうに微笑む。
二人の時は、二人の共通の友人であるアスランが色々と骨を折ったのだ。
勿論、影にラクスがいたことは言うまでもないが。


「と、言うわけで。はい」


そう言って、キラがカラーコピーされた紙を差し出す。
何気なく手を伸ばして見てみると、キラと同じ制服に身を包んだイザーク=ジュール教諭(23歳独身)の高校時代の姿が写されていた。
今より若干その顔立ちは幼さを感じさせるが、美しい銀髪に鋭いアイスブルーの瞳など、その特徴は変わっていない。
笑顔で映っているクラスメイトが殆どの中で、彼だけが厳しい目をしてこちらを向いている。
大人びた眼差しに、アスランの胸が高鳴った。


「か……カッコいい」


思わずその唇からは、溜息が零れる。
見惚れるアスランに、キラたちは温かい眼差しを向けていた。


「大人っぽいよねぇ。このとき、僕と同じ年だったなんて、信じられないや」
「キラは、幼いと言われますものね」
「むぅ。いいじゃないか、別に」
「その可愛らしさが、キラの魅力じゃない」


拗ねるキラに、フレイがフォローに入る。
その喧騒すらも、アスランの耳には入らなかった。
魅入られたように、写真を凝視する。


「あ、アスラン。それあげるから」
「え?いいのか?貰っても」
「男の写真なんて、僕が持っていてもしょうがないじゃない」


呆れたようなキラに、それもそうだなとアスランは頷いた。
確かに、それは少々気持ちが悪いような気がする。


「生徒会長していたんだって。当時からいた先生に言わせれば、あれだけのカリスマ性を持つ会長は珍しいって、言うことだったよ」
「カリスマ?」
「うん。すごかったらしい。誰もが会長に憧れずにはいられなかったんだって。それが、規律と秩序を生んだって言ってた。……アスランとよく似ているね」
「え?僕?」


キラの言葉に、アスランが勢いよく首を振る。
カリスマ性なんて、とんでもない。
不安で堪らなくって、何時もいつも自分が掲げる理想の姿に押しつぶされそうになっているのに。


「アスランのファン、男子部にも多いよ〜。たまに、写真売り捌いているやつもいるし」
「まぁ。それはいけませんわね……」
「ちょっと、一度捻っておく必要があるわね」
「安心して、フレイ。ラクス。僕がちゃんと捻って再起不能にした挙句ネガごと没収したから」
「まぁ、さすがですわ、キラ」
「さすがね、キラ!」


えへんと得意そうなキラに、ラクスが賞賛の言葉を贈る。
甘えるように、フレイはそんなキラにしなだれかかった。


「あの……さ、キラ」
「何?アスラン」
「アスハさんとキラ、双子だったんだろ?なら、知らないかな。先生とアスハさんって……」


本当は、こんなことフェアじゃないって分かっている。
けれどアスランは、気になって仕方がなかった。
カガリ=ユラ=アスハと言う少女のこと。
あの少女と先生のことが、気になって仕方がないのだ。

恐る恐る尋ねるアスランに、キラは笑顔を向けた。
それから、優しい声で囁く。


「"All's fair in Love and War"って言うでしょ、アスラン」
「そうよ、アスラン。本当に欲しいんだったら、我侭になっていいのよ。アスランの我侭なんて、可愛いものじゃない。私たちでよければ、いくらでも力になるわ。気になるのなら、キラに聞けばいいの。それは、誤りではないのよ、アスラン。恋をすれば我侭になるのは、当たり前だわ」


元気付けるようにフレイが言って、アスランの髪をなでる。
胸が詰まって、アスランはこくんと頷いた。


「教えてくれないか?キラ」
「いいよ、アスラン。ていうか、これで初めてフェアって感じじゃないかな。……幼馴染だって。先生と姉さん」
「幼馴染?」
「ついでに、親が先生の実家の事業の取引先らしいよ」


こともなげに呟かれた言葉に、あぁとアスランは納得した。
だから、あの二人には傍にいるのが当たり前のような、そんな空気があったのか。
アスランをまるで異分子のように睨み付けてきたカガリ=ユラ=アスハと言う少女の気持ちが、よく分かる。

彼女にとって、アスランはまさしく異分子なのだ。
先生と彼女の仲を阻害する要因として、彼女は認識しているのだ。


「幼馴染……僕と、キラみたいな?」
「そうだね。違うところは、君は僕に恋なんてしていないってところと、君と僕の家に事業の取引きが存在していないってところかな」


キラの言葉に、アスランはほんの少し笑った。
幼馴染なのだ、という。あの二人は。

ちらり、とアスランは手元の写真のコピーを見やった。
こんな人がいつも傍にいたなら、惹かれるのも無理はないように思われる。
おそらく彼女はずっとずっと、先生に恋していたのだろう。

沈み込むアスランに、室内の空気もやや重くなった。
暗さを払拭するように、フレイが声を上げる。


「ところで、キラ。先生の好みのタイプって、分からないの?」
「頭のいい人って感じかな。後……」


キラが、言いよどむ。
不審に思ったフレイが、さらに尋ねる。
すると、大層言い難そうに、キラは言葉を紡いだ。


巨乳……」
「「「はい?」」」
「なんていうか、いわゆるモデル体型の女の人が多いんだよね。アスラン、貧乳でしょ?Aある?
「し……失礼な!セクハラだぞ、キラ!」


思わず庇うように自身の身を抱きしめるアスランに、ラクスとフレイがにじり寄る。
羽交い絞めにすると、遠慮なくその胸に触れた。


「あ〜、確かに小さいわね、アスラン」
「ですが、問題は形でわ?アスラン、胸の形はよいように思われるのですが」
「それと感度でしょ」


きゃっきゃとしながら無遠慮に触れてくる親友二人から逃れるようにしながら、アスランは誓った。
目指せ、バスト・アップ。








こうしてはしゃぎながら、夜は更けていくのだった――……。












追記:キラは、終電で帰りました。



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捻りのないオチで申し訳ないです。
イザークの巨乳好きは中の人合わせと言うか、ラジオの下ネタトークっぷりから勝手に捏造。
『恋愛のススメ』ではフレイ嬢が親友ですので、アスランは貧乳にして見ました。
美人でモデル体型の親友にちょこっとヤキモチなアスランとか、可愛くないですか?

ここまでお読みいただき、有難うございました。