貴方がモテるコトくらい、十分承知しているわ。

この私が好きになったんですもの。

それくらい、当然でしょ?



でも、ムカつくのは、ムカつくの!





、ありてこそ…






「ちょっと、どういうことよ!」
「え?どうって?」


戦争が終わり、奇跡的に命を助かったフレイは、キラと元の鞘に納まり。
己の気持ちを漸く素直に伝えたフレイを、キラは許し。
2人はまた、恋人に戻っていた。

そんなフレイの帰ってきて早々きつい言葉を投げかけられ、さすがのキラもややびくつく。


「何よ、それ」
「え?チョコレート」
「そう。チョコレート。どうしたの?」
「カガリとラクスが、くれたんだ」


キラがチョコレートを好きなのは、知っている。
大好きな人の好きなもの、チェック済みに決まってる。
そんなの、表には出さないけど。
でもね、キラ。私だってちゃんと、考えてるのよ?

キラが抱えているのは、綺麗にラッピングされた、既製品。
そのうちの一つは、フレイも知っている有名ブランドのチョコレート。
おそらくそれは、ラクスからだろう。
もう一つは、可愛らしくラッピングされた、チョコレート。
いわゆる、義理チョコの……でもそれなりの値のするもの。
おそらくそれが、カガリから。

綺麗にラッピングされた、色とりどりのチョコレート。
嬉しそうなキラが、癪に障る。


「ね。フレイは?」
「知らないわよ!」
「フレイ?」
「それだけ貰ったんなら、私からなんていらないでしょ!」


バタン!と扉を勢いよく閉めて。
フレイは自室に駆け上がった――……。



**




「私の、バカ……」
また、やってしまった。
勝手に怒って、勝手にいらだって。
また、キラを傷つけた。
これじゃあ、あの頃とちっとも変わらない。
キラは、変わったのに。
自分だけ、変われていない……。

戦争中、フレイは自分勝手な悲しみから、キラを傷つけた。
キラを傷つけて、殺そうとまでした。
そんなフレイを……醜い自分を、キラは許してくれた。
優しい……優しすぎるくらい、優しい人。

そんなキラを、フレイは傷つけた。
死んでしまえばいいと、願いさえした。

それは、決して許されない。
許されてはならない、罪……。
そんなフレイを、キラは許してくれた。
そして父親を亡くしたフレイに、一緒に生きようと言ってくれた。

嬉しかった。本当に、嬉しかったのだ。
キラの思わぬ優しさに触れて、キラを愛するようになった。
けれど復讐に目を奪われていたときは、そんなことにすら気づけなくて。
随分と、遠回りをしてしまったけれど。
今はこうして、一緒にいることが出来るのに――……。

素直に、なれない。
そんな自分が、時々嫌で堪らなくなる。
今日だって、あんなことを言いたかったわけではないのに……。



今日は、バレンタインだから。
ちゃんと、自分の気持ちを伝えよう、と。
そう考えてさえいたのに。
つまらない嫉妬をして、八つ当たりして……。


「もう少し、材料を買ってさえいれば……ううん。手作りなんて、しなければよかったのよ」


溜息を吐いて、デスクの上に目をやる。
ブランド物のチョコレートを贈った、ラクス。
ブランド物ではないとはいえ、相応のものを贈ったカガリ。

既製品にすれば、よかった。
手作りなんてして、結局全て失敗して。
ブランド物の既製品であれば、フレイは美味しいものをいくらでも知っている。
けれど、それではいけないと思った。
きちんと気持ちを伝えるなら、手作りに挑戦して、と。
自分の手で美味しいものを作って、キラにプレゼントしたかったのに……。


「フレイ」
「キラ……私……」
「あのさ、フレイ。これ、あげる」


キラはそう言って、プレゼントの包みを渡す。
治められていたのは、フレイも知っているブランドのチョコレートと、指輪。


「バレンタインってさ、本当はバレンタインって人が死んだのを、悼む日なんでしょ。僕らコーディネイターには、血のバレンタインの日でもあるけど。その人が死んだ日を、恋人の日にしたらしいけど、本当は女の子がチョコレートを贈る日なんて決まりはないみたいだよ。すっかり、儀礼化しちゃったみたいだけど」
「キラ……?」
「だからそれは、僕の気持ち。僕、フレイとずっと一緒にいたいよ?それじゃ、駄目かな」


覗き込んでくる、アメジストの瞳。
綺麗な瞳には、フレイしか映っていなくて。


「ううん……ううん。すごく、嬉しい。有難う、キラ」
「フレイが喜んでくれたら、僕も嬉しいよ。……僕は、君を不幸にしてばかりだったから」


淋しげなアメジストの瞳に、胸がいっぱいになった。
そんなこと、ないのに。
フレイが勝手に逆恨みしていただけなのに。


「そんなことないわよ、キラ」
「フレイ?」
「私、そんなこと思ってないわ。私……私が、キラと一緒にいたいと思ったのよ」
「本当……?」


尋ねてくるキラに、笑顔で頷く。
一緒にいたいと思った。
だから、一緒に生きようとしている。
傷を舐めあうのではなく、寂しさを埋めるためでもなく。
一緒に生きたいと願ったから、一緒にいる。


「私……ごめんなさい」
「どうしたの?」
「私、チョコ全部失敗しちゃって……手作りなんて、しなければよかった……」
「手作り、してくれたの!?」


驚いたようなキラに、クスリと笑う。
確かに、思いもつかないことだろう。
フレイだって、そんなことをする女の子たちを、寧ろ軽蔑していたのだから。
バカじゃないの?って。


「でも、失敗しちゃって。ごめんなさい」
「いいよ、そんなの。その気持ちだけで、嬉しいから。……でも、来年は、食べさせてね?」
「キラ?」
「だって、ずっと一緒でしょ?」


囁いて、キラの指がフレイの頬に触れる。
優しい優しい、人。


「ずっと一緒にいよう、フレイ」
「キラ……」
「今度こそ、君の幸せを守るから」
「キラ……!」


キラの胸に、飛び込む。
優しくキラが、フレイの体を支えて。


ずっとずっと、私のこと、好きでいてくれる?

プライドの高いフレイは、そんなこと言えやしないけれど。
キラは、分かってくれる。
分かって、傍にいてくれる。
それで、いい。




抱き返してくれる人の温もりに浸りながら、フレイはそう考えた。





幸せに、なろう。
そのために、ずっと一緒にいましょう――……?
一緒に、幸せになるために……。



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バレンタインって何時だよ。な時期にこんなものを書いてしまってどうするんですかね。
あ、これも一応フリー小説にします。
欲しいなぁと思ってくださる方は、是非どうぞ。