――――『じゃあな、イザーク。俺、出撃だから』――――

――――『生きて帰って来いよ、ミゲル。お前に話したいことがあるんだ』――――

――――『ナチュラル如きに、この俺が負けるかよ』――――

――――『フン。死んだら爆笑してやる』――――



帰ってくると、お前は言ったのに。

なのに、帰ってこなかった――……。







Prologue






イザーク=ジュールは戦後、すべての処理が終わってそれを見届けると、姿を消した。
きちんと整理された彼女の身の回りのものや、愛用していた愛着のあるもの。
それらの状況から、覚悟の失踪であったことが分かった――……。






夕暮れの、ショッピングセンター街。
徒労感に苛まれながら、アスラン=ザラはあてもなくふらふらと歩いていた。
消えてしまった、最愛の女性。

彼女がミゲルと付き合うことになって、歯噛みしながらそれを見ていた。
胸が痛くなるほどの、その切ない焦燥を抱えて。
けれど戦争の最中ミゲルは殉職し……束の間、彼女はアスランのものになった。

彼女の心から、ミゲルが消えることはなかった。
……無理もない、と思う。男の自分から見ても、本当に彼は素晴らしい男性だった。
彼を思い出すたび不安になるのは、彼に叶わないと、白旗を上げていたからかもしれない。

彼ならひょっとして、ものの見事にイザークを発見したのだろうか。
飄々とした笑顔を崩さずに、徒労すら垣間見せずに。
さも、当然のことのように……。


「どこに行ったんだ、イザーク……」


ただ一人、愛した女性。
高慢なまでの誇り高さと、触れることを躊躇ってしまうほど高潔な、唯一の存在。
何よりも美しく、何者にも替えがたい人。
愛した、ただ一人の人。
それは、至高の存在。

彼女がいなくなった。それだけで、心はこんなにも痛い。
もっと、色々話をしたかった。
伝えようとしていた言葉を、一言も告げることが出来なくて……。


「ああ、俺は馬鹿だな」


自嘲気味に呟くと、余計に悲しみだけが胸を打つ。




何度目になるかも分からない、溜息。
吐けば吐いただけ幸せが逃げていくというのは、あながち外れてはいないかもしれない。

そんなことを言っているうちにも、もう一度。


「ご……ごめんなさい」


余所見をしてしまい、アスランは人とぶつかってしまった。
下を見ると、小さな子供が尻餅をついている。


「すまなかった。大丈夫か?」
「うん。平気」


にこっと笑って、子供がアスランを見上げる。
その瞬間、心が凍りつくかと、思った。

綺麗な綺麗な金色の髪。
サラサラと音がしそうなその髪質は、誰かを髣髴とさせる。
そしてその、瞳。
強い強い輝きをもつ、アイスブルーの……。


「君は……?」
「ミゲル!」
「ははうえ」


母親らしい人物に名前を呼ばれ、子供がぱっと表情を変える。
子供の下へ駆け寄ってきたその人は、そっとその少年を抱きしめて。


「心配したぞ?急にいなくなって……」
「ごめんなさい……。このお兄ちゃんにぶつかって」
「余所見をするからだぞ?これからは気をつけるんだ」
「はい」


ペロっと舌を出して、いたずらっぽく笑う。
どこかで見たことがある、笑顔。


「子供が、申し訳ないことをしました」
「い……いえ。俺も、余所見をしていたし……」


気にしないでください、と告げると、女性は顔を上げた。

綺麗な綺麗なプラチナの髪。
肌理の細かい白磁の肌。
赤く色づいた唇。
完璧なまでのプロポーション。


「イザーク……」
「……アスラン……?」

















心が、歓喜に震えた――……。







ミゲイザ前提アスイザ。
戦後設定子持ち。
勿論、ミゲルの子供です。
某サイト様で素敵なミゲイザイラストを見て……一気にはまった。

このカップル、イザアスイザより美麗かもしれない。
派手とも言いますが。
なんか好きです、ええ。