愛してる。

愛してる。

愛してる。

狂おしいほどに、君を愛してる。





の檻






するり、と。
不思議な色合いの、藍の髪を梳き上げる。
濃藍色の髪は、光を反射して、紺にも青にも見える。
……綺麗。

その肌を、指で辿って。
輪郭線を、なぞるようにそっと。
辿って、探り当てた薄紅の唇に、そっと己のそれを落とす。

そして、その耳元に、そっと。
囁いて。
甘い毒を。
息も出来ないくらいの甘美な毒を。
苦い現実を、そっと囁いて。


「愛してる、アスラン」


笑みを滲ませて、囁く。
愛してる。
愛してるよ。
囁くと、細い頤をビクリと震わせて、翡翠の瞳を見開く。
あぁ、綺麗。
君の瞳が、何よりも綺麗。
その瞳に映る、存在。
俺だけでいい。
俺以外を映すなら、お前に光なんていらないから。その瞳、潰してしまおうか。


「アスラン……?」


ぎしり、と寝台が軋む。
二人分の体重を支えて、不平の声を洩らす。
そんなことに頓着することもなく、彼はなおも寝台に体重を傾け。
圧し掛かるように圧迫しながら、笑顔で。


「何をそんなに哀しそうな顔をしている?」
「……イザーク……」
「勲章が授与されるそうじゃないか。名誉なことだ。ザラ議長閣下もさぞ喜ばれることだろう。自慢の息子……失礼。娘だな。自慢の娘、と。さぞお喜びだろう。……何をそんなに哀しそうな顔をする?」
「俺……は」


勲章など、いらないと。
友人を殺して得た勲章など、いらないと。
言葉にするよりも先に、イザークの唇がまた重なる。
逃れることも許されずに――実際、点滴を受け絶対安静を言い渡されている身で、逃れることなど出来ないわけだが――、口付けを甘受する。
だから口付けは、その行為は。決して甘くない。

恋人同士の空間に漂う甘さも、気だるさもなく。
そんな行為は、甘さよりも痛みの方がアスランの中では大きい。


「俺、は……俺は……」
「友人を殺して得た勲章だ。……なぁ?アスラン」
「俺は、殺したくなんか……!!」
「その甘さがニコルを殺した」


けざやかなほど嫣然と微笑みながら。
その微笑みは、どこまでも美しくて。
性別を感じさせないほど、美しくて。捕らわれてしまいそうなほど、なのに。囁かれる言葉が、その美しさを裏切り、より残酷さを鮮明にさせる。


「どうしてそんな顔をする?アスラン。俺は貴様を称揚しているというのに……何故だ?」


分からない、と。
何故そんなにも哀しい顔をするのか分からない、と。
分からない不利をして、アスランの心に毒を注ぎ込み続ける。

……このままいっそ、狂ってしまえ。

狂ってしまえば、いい。
精神に不調をきたし、狂ってしまえ。
精神と脳が直結しているというのなら。与えられる痛みに心が拒絶反応を起こし、狂気に浸ることで自己を守ろうとするのならば。
このまま狂ってしまえ。

狂うまで何度でも、毒を注ぎ続けるから。


「可哀想に、ニコル。貴様がそんなことでは、ニコルも救われないな」
「ニコル、は……」
「ニコルは貴様が殺した。ニコルだけじゃない。……キラ=ヤマトと言ったか?貴様の『オトモダチ』……ストライクのパイロットは。……そいつを殺したのも、貴様だろう?」
「俺……俺、は……」
「イイコだ、アスラン。言いつけどおりに、ストライクのパイロットを殺した。本当に、貴様はイイコだ」


嘲るように、囁いて。
嘲弄も露わに微笑むのに、潤む翡翠はどこか熱を帯びて彼を見つめる。

その様に、彼はより一層笑みを深くした。
可愛い可愛い、籠の鳥。
可愛いい可愛い、愛玩人形。


「約束、イザーク……」
「勿論だ、アスラン。イイコだ、アスラン。ちゃんとご褒美はあげるとも。イイコのアスラン」


眦の淵に潤む涙を、舐めとる。
水晶のように……砂糖水のようにキラキラとしているから、甘いかと思ったがしょっぱくて。少し、彼は興ざめした。
頭蓋骨の中身がクリームで出来ているのではないかと思うほど、人間としても軍人としても甘ちゃんなのだから。いっそその躯中全て甘ければいいのに。
そうしたら、その肉を喰らって。
血の一滴まで舐めとって。
骨まで丸ごと愛してやるのに。


「愛しているとも、アスラン」
「本当、なのか……?」
「勿論だ、イイコのアスラン。愛しているとも」


敵を屠り、傷つくたびに。
何度でも囁いてやるよ。
そうやって心を傷つけながら、俺に愛されて束の間その傷を忘れて。
やがてその傷の痛みに耐え切れなくなったら、その時は。




いっそ狂ってしまえ。

そうやって狂ったお前を抱いて始めて、俺の 精神(ココロ) は安定を得られる。
ぼろぼろに傷ついた貴様を抱いて始めて、俺は心の底からの安寧を得ることが出来る。
もうこれで、誰にも奪われることはない、と。
もうこれで、腕の中の存在が俺を圧倒することもないと。
歓喜に打ちひしがれながら俺は咽び泣くだろう。
抱きしめた腕の中の存在を、その時初めて優しい気持ちで愛しむこともできるだろう。


「アスラン……」


優しい声で、囁いて。
名を呼ぶたびに、この指が触れるたびに、翡翠の瞳が喜びに震えるから。
囁いて、何度も囁いて。
愛しているから、敵を殺してオイデ?
敵を殺すたびに、その 魂(ココロ) が傷を負うたびに、愛してアゲル。
愛して、抱いてアゲルから。





愛している。
誰よりも、君を愛している。
何よりも、君を愛している。



だからこそ、千々に引き裂いてしまいたい。
だからこそ、ぐしゃぐしゃに踏み潰してしまいたい。
愛しているからこそ、その瞳に映る俺以外の存在全てが赦せない。






傷つけたい、と思う。
踏みつけて、ズタボロにしてしまいたい。
誰もが目を背けてしまいたくなるほど、傷つけて。

優しくしたい、と願う。
腕の中で守って。
どんな風も当たらないように。真綿でくるむように、大切に。
宝物のように大切にして、大事に大事に愛したいと思う。




壊したい。
愛しているから。

抱きしめたい。
愛しているから。



傷つけたい感情は、表裏一体で。
守りたい感情を駆逐してなおも、君を傷つけたいと思う。
歪んだ情熱を殲滅してなおも、優しくしたいと願う。





腕の中に閉じ込めた、暁。
闇に侵されても、君は綺麗。
だから、堕ちておいで。
俺と同じところに堕ちておいで。
そうしたら、冷たく愛してあげるから。
そうしたら、優しく傷つけてあげるから。












狂おしいほどに、俺は君を愛してるよ――……?



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ここまでお読みいただき、有難うございました。
今回は、初心に帰ってみようスペシャル。
意味不明ですね、すみません。
ちょっとですね、自分のサイト運営の原点に返ってみよう、と。
自分なりのイザアスの原点に返ってみよう、と。
そしたらですね。私が好きなのは、アスランが愛しくて堪らなくて、だからこそズタズタになるまで傷つけるイザークだな、と。
微妙に女体化しているのは気にしないでください。
女体化している方が、イザークの歪みっぷりが増すかな、と思ったら増しました。
こんなイザアスって、やっぱりダメですか?