――――『……』―――― ――――『どうして、かなぁ?私が悪い子だったから、兄さん帰ってこなかったのかなぁ』―――― ――――『……そんなことはない。は、いい子だろう?』―――― ――――『私がいい子なら、どうして兄さんは帰ってこなかったの?』―――― ――――『それは……』―――― 鋼のヴァルキュリア#03間奏曲〜1・後〜 「……!?何があったんだ!?アスラン!!」 「ミゲル……。分からないんだ。イザークが……」 「イザーク!?だから近づけるなと言っただろう、アスラン!!の……の死んだ兄貴は……は……クソッ!!」 ミゲルは慌てて、少女を抱き上げる。 その体は、無重力であることを差し引いても、驚くほどに軽い。 「兄さん……ミゲル兄さん……兄さんが……兄さんが私は、『役に立たない』って。私が役立たずの悪い子だったから、兄さんは死んだの……?」 「そんなことがあるかっ!!あれは事故だ!!悪いのは、ナチュラルだ!!お前のせいじゃない!!」 抱きかかえて、部屋へ運ぶ。 当然、彼の部屋だ。 を運ぶミゲルに、アスランも付いてきた。 「ミゲル!?は一体どうしたんだ!?」 「……あとで話す。お前の部屋に行くから、待っててくれ。今日は、何も入ってなかったよな。訓練も何も……」 「何も入ってない、大丈夫だ。じゃあ、待ってるから」 部屋に入ると、優しくその身をベッドに横たえる。 「……兄さ……?」 「寝てろ」 「訓練は……?」 「今日は何も入っていない。偶々だけどな。そうでなくても、こんな状態のお前を、訓練になんて出せるか」 「……ゴメンなさい……」 「いいから、寝ろ。な?」 「ん……」 が寝付くまで、ミゲルは彼女の傍にいた。 優しくその髪を、梳いてやる。 幼いころ、彼女が好きだった仕草だ。そうされると、落ち着くらしい。 ゆるゆると漆黒の双眸を伏せて、少女は眠りに付く。 それを確認すると、ミゲルは部屋を出た。 暫くの間、彼の部屋の前には、『侵入者はブチ殺す』と書かれた紙が張られており、扉の前で待ちぼうけを食らわされたオロールの姿が見られたらしい……。 「……アスラン?俺だ。入るぞ」 「どうぞ。ラスティもまだいないよ」 「……またハロ作ってたのかぁ?お前は」 「これはに。気に入るといいんだけど」 そう言うと、アスランはミゲルに深い青色に塗装されたハロを手渡した。 「……気に入るだろうな。青はあいつが大好きな色だ。それにこういったものも好きだったから」 ミゲルが言うと、アスランは微笑した。 その年相応の、笑顔――……。 多少大人びて見えるが、彼とてまだ、十代の少年なのだ。 「で……は、どうしたの?」 「体に異常はない。あれは、精神的なものだ」 「精神的……?」 「あいつの兄貴が、『血のバレンタイン』で死んだことは知ってるな? その時『約束』をしたらしいんだ。 『いい子にしていたら、帰ってくる』ってな。そしてあいつは、帰ってこなかった。 の嘆きは、相当深かったと思うよ。 あいつは幼い時に、ブルーコスモスに両親を殺されているんだ。それ以来、ずっと二人で生きてきた。 そんな相手が、死んだんだからな。そしてそういう時の人間に、冷静な判断を求めても無駄だ。 あいつは、思い込んじまったんだ。『私が悪い子だから、兄さんは帰ってこなかった。私が、兄さんを殺した』ってな。」 「そんなバカな……」 アスランは、そう呟く。 そうだろう。昨夜話を聞いたミゲルも、そう思ったのだから。 いくらなんでも、話が飛躍しすぎだ、と――。 しかしそれが、このという少女だった。 「あいつ、ずっと言ってたよ。『私が悪いの。私のせいで。私が悪い子だったから』ってな」 「言わなかったのか?『はいい子だよ』って」 「言ったよ。そしたらこう言われた。『私がいい子だったら、兄さんは帰って来る筈じゃない』って」 「そんな……」 「思い込みだな。 だから、『精神的』なものなんだ。 この一年間、あいつはそんなことを考えながら、戦ってたんだ。きっと、自分を罰するためだけに、前線に出てたんだろうな」 ミゲルのその端正な顔が、歪む。 アスランもまた、痛みをこらえるかのように、目を伏せた。 けれど唐突に、目を開く。 「そういえば、イザークは?イザークはどう、関係するんだ?」 「……は、黒髪黒瞳だろう?は、銀髪碧眼なんだ。 イザークに、色も良く似ている。『怜悧な美貌』ってところも、そっくりだ。雰囲気も、よく似ている。 もっともは、穏やかな性格で、見た目と中身にかなりのギャップがあったけどな」 「だから、都合が悪かったんだね。イザークは」 「ああ。裏目に出ちまったけどな」 は、イザークに会ってしまった。 死んだ兄の面影を宿す、イザークと。 「ま、唯一の救いは、二人の中身にはかなりの差がある、ってことだな」 「だね。話を聞いた限りじゃ、イザークが似ているのは、本当、顔だけだ」 見た目のまま、少々傲慢なところもあるイザーク。 見た目とは違い、穏やかな性格の。 二人を並べてみたら、そのギャップに、かなり笑えただろう。 もう、叶わない話だけれど。 「だから、頼むな、アスラン。お前なら、頼める。俺があいつの傍を離れてしまうときには、あいつのこと、見ていてやってくれ」 「分かったよ、ミゲル」 アスランは、頷く。 これ以上、彼女を傷つけたくはない。そう、思った――。 それは、叶わない夢なのかもしれない。 今、彼らは戦争をしているのだから。 それも、いつ死んでもおかしくはない前線で。 彼らの祖国を守るため、戦っているのだから。 それでも、彼らは願わずに入られなかったのだ。 どうか彼女に、安らかな眠りを――と。 「ミゲル、これ」 食堂で一人夕食をとっていたミゲル(の分は部屋に持っていってやることにしたのだ)は、いきなりあのイザークに花を渡された。 それも、深紅の薔薇を。 もっとも、それは造花だったけれど。 「ど……どうしたんだ、イザーク?……あ、お前、ひょっとして俺のこと……ポッ///」 「そんなわけあるかぁ!!」 「安心しろ。冗談だ」 「貴様のは冗談に聞こえん!!……これ、あいつに渡してやってくれ」 「あいつ?ああ。ね。……もしかしてお前、に惚れた?」 にんまりと口の端を歪めて、ミゲルは笑った。 確かにあいつ、可愛いからねぇ、等と言う様は、兄バカ以外の何ものでもない。 その答えに、イザークは顔を赤らめ、反論する。 「そんなことではない!!……泣かせてしまったから、詫びだ」 「……紅い薔薇を?イザーク、お前、花言葉って知ってる?」 「……?いいや。しかしディアッカに聞いたら、女性には紅い薔薇を贈るものだと言ったし、ニコルもラスティも否定しなかったし……って、ミゲル!!何がおかしい!?」 「それにこの薔薇、どうしたんだ?お前」 「ニコルが、『花って心が和みますからね』とか言って、鞄の中から出したんだ。ペーパーフラワー作りのセットを」 「……この花、イザークの手作り?(だめだ、俺、絶対に笑う)」 「あいつらにも手伝わせた」 皆で円陣組んで紙の薔薇の花作りに精を出す、ザフトのエリート……。 その光景を想像して、こらえ切れなくなったミゲルは、思わず爆笑した。 「ミゲル!!」 「……(だめだ。俺、笑いすぎて死ぬ!!)イザーク、紅い薔薇の花言葉を教えてやろう!『情熱の愛』だ!!」 「……ディアッカ――――!!ニコル――――!!ラスティ――――!!」 思わずホルスターに手を伸ばすイザーク。 相変わらず爆笑しているミゲル。 そしてこそこそとイザークの視界から逃げようとする三人。 このあと、イザークがブチ切れたのは、言うまでもない。 その日、戦艦ヴェサリウスの艦内において、銃を片手に追いかけっこをする人間がいたとか、いなかったとか。 そして同日、ミゲルの日記には、『王子様は世間知らず』と書かれたらしい……。 <<<* Next * Back * Top *>>> +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− はい、過去捏造篇でした! 今回はラスト、ギャグテイストになりました。 テーマは、『イザークから紅い薔薇の花を貰おう☆』でした。 ついでに言っておきますが、世間知らずではないと思います。 ただ、『プレゼントされることはあっても、プレゼントすることはなかったので分からなかった』ってことではないかと。 勿論この薔薇、イザークも作ってますよ、きっと。 さて、なかなか長かった過去篇も今回で終わりです。 次回からは人死にもアニメに沿って、ストーリーを展開させていきます。 最後まで、よろしくお付き合いくださいませ。 |