これ以上、私から何も奪わないでください。 私の大切なものを、大切な人を。 これ以上、奪わないでください。 がクルーゼ隊の一員となってから、一週間が過ぎた。 顔見知りが増えた彼女は、今日も元気に戦艦ヴェサリウスの艦内を闊歩している。 「あっ!ニコル〜vv」 廊下の角を曲がったところで、見慣れた柔らかそうな緑の髪を持つ少年の姿を見かけ、は背後から抱きついた。 彼女には、はっきりいって、乙女の恥じらい云々といったものが欠けている。もっともそれは、この姿を見れば、自ずから分かろうものである。 「ちょ……っっ!!さん!?」 「やんvv今日も可愛いvv」 「可愛いって、ちょっと!!さん!?僕、あなたと同い年なんですよ!?ミゲル!!さんを止めてください!!」 「のやつ、すっかり明るくなって……ホロリ」 「ミゲル――――っっ!!」 ニコルは必死になって叫ぶ。 「煩いっっ!!」 不機嫌のオーラを背負って、ザフトの王子様(姫でも可)が立っていた。 ちなみに、がニコルを発見したのは、イザークの部屋の前である。 当然、先程からの一件は、彼に筒抜けであった。 「貴様ら!!先程から人の部屋の前でグダグダと!!下らんことで騒ぐな!!」 「あんただけの部屋じゃないでしょ。あんたとディアッカの部屋じゃない」 「煩いぞ、!!大体貴様は何をしているんだ!?」 「ニコルに抱きついてるのよ。見て分かんないの?こんなに近くなのに?……あっ!ひょっとしてあんた、老眼?」 「誰が老眼だ!!誰が!?」 「だってあんた、見えないんでしょ?」 そう言いながら、は更に強く、ニコルを抱きしめる。 逃げることを諦めたのか、ニコルは最早、されるがままだ。 「見えているに決まっているだろうが!!貴様があまりにもおかしな行動をとっているから、一応聞いたまでだこのバカが!!」 「誰が何ですって〜っっ!!このオカッパ!!ハクもどき!!」 「誰がオカッパだ、このバカ女!!」 「言ったわねぇ〜!!あんたなんか、 自分の名前忘れて、魔法使いにいいように使役されてりゃいいのよ!! この性格破綻したハクがぁ!!」 「貴様の言っている意味が分からん!!下らんことばかりほざくな、このバカ!!」 いつの間にかはニコルを放し、イザークに詰め寄っていた。 対するイザークは腕を組み、を迎え撃っている。 「ご苦労だったな、ニコル」 ヨレヨレになったニコルが、ミゲルのほうへとトボトボ歩いていく。 それにミゲルは、ノー天気に声をかけた。 ニコルは、恨めしげにミゲルを見た。 「ミゲル……止めてくれてもいいでしょう!?」 「いやぁ、があんなに明るくなるとは思わなかったのでな」 「明るいって言うんですか?アレ」 「少なくとも、前よりはいいだろう?」 ミゲルが問うと、ニコルは生真面目な顔で、そうですね、と頷いた。 確かに、以前よりはマシだ。 あんなはもう、見たくない。 「やっぱり、花のもたらす効果ってすごいですね」 「手作りだしな……(やっぱり笑える!!)」 「さん、何か言ってましたか?」 「……ニコル、アレ、お前らの作戦だろ?」 イザークに紅い薔薇を持って行かせよう、だなんて。 作戦でなければ、一体なんだというのか。 「バレてましたか。実はですねぇ……」 「何よ、趣味で碁でも打ってそうな髪形のくせに!!」 「わけの分からんことばかり言うな貴様は!!アホか!?」 「言ったわねぇ!!」 ニコルの声を遮るように、二人の舌戦は続く。 そのせいで、ミゲルは聞き逃してしまった。 ニコルのいいたかったことを――……。 ミゲル兄さんがいて、仲間や友達がいて。 こんな幸せが、いつまでも続くと思ってた。 <<<* Next * Back * Top *>>> +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− さぁ。ミゲルを殺さなければならなくなってきました。 ゴメンよう!! 折角、空元気とはいえ、過去の傷から立ち直ったヒロインちゃん。 このあとも彼女には、辛いことが続くわけです。 少々痛いシーンなども出てくるかもしれませんが、よろしくお願いします。 しかし、夢っぽくないですな、これ。 |