「そう難しい顔をするな、アデス」 「はっ。……しかし、評議会からの返答を待ってからでも、遅くはないので……」 「遅いな。私のカンがそう告げている。ここで見過ごさばその代価はいずれ、我らの命で支払わねばならなくなるぞ。地球軍新型機動兵器あそこから運び出される前に奪取する。元々そのために出兵したのだしな」 クルーゼの返答に、アデスは頷いた。 それがこの、泥沼と化した戦局を打開するために必要なことならば、そうする他ないのだ。 戦いは勝って終わらねば意味がない。 ……一体誰が、負けるために戦争をするというのだろう? 常にその胸に下げているペンダント。 ロケットペンダントのそれは、開くと兄の写真が現れる。 大好きだった、穏やかなその、笑顔。 「兄さん……」 ぎゅっとそれを握り締め、は祈るように瞳を閉じた。 もう、何も失うことがないように――……。 「、オロールの班は、コロニー外に残れ。連中、恐らくメビウスを出してくるぞ。それも、数だけは多く……な」 『『了解』』 ――――『第一外装剥離。原則4マッハ』―――― 「行くぞ」 「……我らに天の加護を」 「ザフトのために!」 「ザフトのために!」 「ザフトのために!」 皆に倣い、もそれに唱和する。 けれどが戦うのは、ザフトのためではない。コーディネイターの未来のためでもない。――否、それもあるが、彼女を突き動かすのは、別の感情だった。 私怨だ。彼女は復讐のために力を欲し、得た。 彼女から全てを奪い、この上更に奪おうとするナチュラルどもを屠るために。 それだけのために彼女は願い、そしてそれを手にしたのだ。 ザフトのMS部隊はそこで二つに分かれ、ミゲルたちはヘリオポリスのコロニー内部へと侵入した。そこには既に、アスラン、イザークたちだ侵入、混乱を起こしている筈だ。 『!MAが出てきたぞ!!』 「了解、オロール。……ちょっと待って。あの機体……あれは……」 『どうした!?』 「ガンパレルを装備したメビウス……あれに乗れる男は確か、地球軍でただ一人だった筈……と言う事はまさか!?オロール!!あのオレンジ色のメビウス、あれに乗っているのは、『エンデュミオンの鷹』だ!!」 『何ィ!?……よし、、雑魚は任せたぞ。あのMAは俺が沈める!!』 「了解」 通信が切れ、オロールの映像が消えた。 それを確認し、はクッと唇の端を吊り上げる。 それは、笑みを形作っていた。 けれど決して、微笑ではない。 そこにあるのは、残酷な殺戮者の笑顔。 愉悦に満ちた、暗い笑顔だった――……。 無数のビームが虚空を飛び交う。 それは、どこまでも残酷なゲームだった。 それが遊戯の一部であるならば、求めるのはいくばくかの金銭だろう。しかしこれは、現実の『ゲーム』だった。 現実のゲームに存在するチップは、『命』だ。勝てばその日を生き永らえ、負ければ死ぬ。それが、現実における『ゲーム』だった。 死にたくなければ、殺すしかない。 そう。いかに大義名分で飾ろうと、その行為は所詮、『殺人』なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。 ならばいつか必ず、この罪の報いは来るだろう。彼女自身の命を、購いに求めて。 (私は絶対に、兄さんと同じところには逝けないね……) 優しかった兄。 人が苦しむことを厭い、他者を犠牲にするよりも自身を犠牲に捧げるような人だった。 そんな兄と同じところには、きっと逝けない。 この手は、あまりにも血に汚れているから。 (でもね、兄さん。それでも私には、これ以外に道なんて、なかったの) それが免罪符になるとは、思わない。 それでも――……。 (私には、これ以外の道なんて、なかったの――……!!) 前方に現れた敵。 冷静にトリガーを引く。 一機、また一機と数を減らしていく。 フツフツと湧き上がる、高揚感。 憎い敵の仲間を討ち果たすことで感じる、それ。 そのままに、彼女は引き金を引く。 少女は決めたのだから。 兄が死んだ、その日に。 全ての敵を、討ち果たすことを――……。 <<<* Next * Back * Top *>>> +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− あれ……イザークは? またもや出てきていないよ、イザーク。 そう思われた、あなた。ごめんなさい。 次回はイザークを必ず出しますから。 今回は、ヒロインちゃんの胸のうちを少しでも明かそうと思って書いた作品です。 『ヴァルキュリア』の『#04〜T〜』はギャグだったのに、急に雰囲気の変わった作品ですみません。 こんな作品ですが、ご感想などありましたら、ぜひ。 管理人、大喜びします(笑)。 |