――『君、名前な〜に?』――

――『……さっきも名乗ったんですが?』――

――『別に減るもんじゃないじゃん。あ、俺はねラスティ=マッケンジーっての。よろしく』――

少しおどけた感じで、その人は手を差し伸べた。

握手を求める、その手。

無下にしたら、相手に悪い。

第一、この人は敵じゃないのだから。

――『=です。よろしく、ラスティ』――

――『こちらこそ、よろしくね☆ちゃんvv』――



ヴァルキュリア   #04魂曲1〜V〜




コロニー内部の、小高い丘の上に、彼らはいた。

纏う色彩は、赤と緑。

体に張り付くパイロットスーツ。

見る者が見れば、彼らがザフトの兵士だと分かったろう。

しかし今、それに気付くものはいない。

陽動にまんまと引っかかり、今まさに、彼らの前に、目的のものを誘導しようとしている。

……何て愚かなナチュラルたち。

「あれだ。クルーゼ隊長の言ったとおりだったな」

「つつけば慌てて巣穴から出てくるって?」

クッとディアッカは、皮肉っぽく笑う。

何と愚かなナチュラルたち。

「やっぱりマヌケなもんだ。ナチュラルなんて」

ミゲルに通信を送り、MSによる援護を要請する。

さすがにここまで短時間で見つけるとは思ってなかったせいか、ミゲルは一瞬、驚きを隠せずに、それを表情に出してしまった。

しかしすぐにそれを改め、相手に賞賛を贈る。

「了解。さすがイザークだな。早かったじゃないか」


*                     *



地上で戦闘が続いているように、宇宙(そら)でもそれは続いていた。

(愚かな、ナチュラルどもめ……)

MAでどうやってMSに対抗しようというのか。

そもそもの性能が、違いすぎる。

第一、こうも無様にやられるというのも、いかがなものかと思う。これではまるで、こちらが虐殺しているようではないか。

どうせなら、もう少し、骨のあるところを見せてもらいたいものだ。

そうでなければ、潰し甲斐がない。

復讐の狂気に浸るためには、相手にもそれなりの技量が必要だ。そうでなければ、気が咎めるだけで、つまらない。



の胸の上で、ペンダントが軽く跳ねて、爆散する機体の光を反射した――……。


*                     *




「運べない部品と工場施設は、すべて破壊だ!」

MSの援護を受けて、彼らは機体奪取に動き始めた。

その中で年長のほうに属する、パイロットたちにとってはリーダー的存在であるイザークが、次々と指令を出していく。

だがふと、彼は気付いた。

機体の数が、足りないのだ。

報告では確か、5体あった筈なのに……。

「報告では5機あるはずだが、あとの2機はまだ中か?」

「俺とラスティの班で行く。イザークたちはそっちの3機を!」

「OK 任せよう」

アスランの提案に、イザークはそう答える。

イザークは何かとアスランに突っかかるが、彼の実力は知っているし、認めてもいる。

彼らは更にそこで二つに分かれた。

もう二度と、会えなくなる人間がいることにも、気付かずに――……。


*                     *




「ほぅ、すごいもんじゃないか」

奪った機体を起動し、イザークは思わず感嘆の声を洩らした。

ザフトの主力、ジンを遥かに上回る機能を、それが持っていたからだ。

そんなものが、ナチュラルに扱えよう筈もないというのに。

「アスランとラスティは?遅いな」

「フン、ヤツなら大丈夫さ」

口には出さないが、イザークはアスランの能力を認めているし、評価もしている。ただ、何もかも負けることが悔しいから、突っかかり、反発するのだ。

(この程度のことでくたばるような男なら、この俺が負ける筈がないだろうが……)

心の中で、イザークはそう、呟く。

「とにかくこの3機、先に持ち帰る。クルーゼ隊長にお渡しするまで、壊すなよ」







アスランたちが向かったそこでも、戦闘は始まった。

それは、考えれば当然のことだろう。

彼らはプラントを守るために戦っているが、ナチュラルたちだって、黙って殺される気はないのだから。彼らも、彼らの守りたいものを守るために戦っているのだから。

「ハマナ!ブライアン!早く起動させるんだ!!」

「危ない!後ろ!」

指揮を取る女性兵士に目をつけたザフト兵の一人が、彼女を狙って銃を構える。

が、それに割り込んだ一人の少年の声でそのことに気付いたその女性兵士が、逆にザフト兵を銃で撃ち殺す。

「クソッッ」

ラスティは思わず舌打ちした。

数だけは多いナチュラル。彼らの能力などたかが知れているが、やはりその戦力差は歴然としている。

こういった、個人の能力よりも数が物を言う局面において、それはともすれば敗北をも招きかねない。

(でもま、帰んなきゃな)

ラスティの脳裏に蘇る、少女。

『鋼のヴァルキュリア』なんて、本人のイメージとはかけ離れた異名を持つ少女。

出会ってまだ一週間しか経過していないのに、彼女の存在はかなり彼の中で大きくなっていて。




――――『ラスティ!気をつけてね!!必ず、帰ってきてね!!』――――

――――『ちゃんこそ、ナチュラルに落とされるなよ!!』――――

――――『失礼ね!ナチュラルに後れをとるものですか!!』――――




そういって、送り出してくれた彼女。

もう一度、会いたいでしょ?やっぱりさ。






けれど彼の願いは、永遠に叶わぬこととなる。

ヘルメットに保護された、彼の頭部を貫く、銃弾。

いくら保護されていても、それはとても助かる傷ではなかった。

瞬間的に、悟ってしまった。

もう自分は、死ぬのだと――……。

スローモーションの映像を見ているかのように、周囲の景色がゆっくりと流れていく。

(どうせ死ぬなら、ちゃんの笑顔、もう一度見たかったな……)

愚にもつかぬ事を考えてしまい、その愚かしさに辟易する。

最近、漸く笑ってくれるようになった。

アスランや、ミゲル以外の人間の前でも。

少しずつ、感情を見せてくれるようになった、少女。

もう一度、その笑顔が見たかったのに。

もう、面影すらも、描くことができない。

(君はまた、泣くのかな……)

少女の兄が死んだとき、彼女は泣いたという。

俺が死んでも、泣いてくれる?

忘却されることが、何よりの恐怖。

それに比べれば、死の恐怖など、如何程のものか。

(君は、生きてよね、ちゃん。俺の分まで、さ)

どうか、死に急ぐ真似はしないで。

それだけが、願い。

(きっと君のお兄さんも、そう願った筈だからね……)

「……どう……か、しあ……ちゃ……」

もう、声にもならない、願い。

アスランが彼の名を叫びながら、銃を乱射する。

ゆっくりと、ラスティの意識は遠のいていった。







――――――『どうか、幸せにね、ちゃん』――――――








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管理人、ラスティ好きですよ。

一話でお亡くなりになりましたけど。

ミゲル兄さん亡くなる前に、彼が散るんですよね。

人死に多すぎだよ、SEED。

それがなかったら、ガンダムシリーズとしてどうかとは思いますが、ここまで死ななくても……ねぇ?


やたら人死にの多い『鋼のヴァルキュリア   #04鎮魂曲1』ですが、これからもよろしくお付き合いくださいね。

ここまで読んでくださって、有難うございました。