ずっとずっと、会いたかった。

でもまさか、こんなところで。

こんな状況で君と出会ってしまうなんて。

嗚呼、運命とは斯くも残酷なものなのか――……。




ヴァルキュリア   #04魂曲1〜W〜





『アスラン!!』

機体を起動させたアスランに、ミゲルが声をかけた。

唇まで出てきかけた労いの言葉は、しかし音声にはならず、ミゲルの喉に張り付く。

「ラスティは失敗だ!」

『なに!?』

「むこうの機体には、地球軍の士官が乗っている!」

『ちっっ!!』

舌打ちすると、ミゲルはトリガーを引いた。

『失敗した』ということは、『死んだ』ということだ。

ラスティまでもが、死んでしまった。

地球軍の手で。

許せることでは、なかった。

地球軍は、卑劣な核攻撃で、彼の親友までも殺したのだ。

「ならあの機体は、俺が捕獲する!お前はソイツを持って、先に離脱しろ!」

そう言って、ミゲルは最後の機体に襲い掛かる。

相手のMSは、装備は優れているようだが、まだ乗りこなせていない。

今ならまだ、勝機はある。

そう思い、ミゲルはジンのサーベルを構えた。

そのまま一気に、振り下ろす。

半ば、勝利を確信して。

しかし、信じられないことに、その攻撃は弾き返されてしまったのだ。

グレイだった機体が、赤・青・白のトリコロールに変わったその時。

それはあろうことか、ミゲルの攻撃を受け止め、弾き返したのである。

「なにっ!?こいつ……どうなってる!?こいつの装甲は!?」

『こいつらは、フェイズシフトの装甲を持つんだ!展開されたら、ジンのサーベルなど通用しない!』

「……」

アスランが拿捕した機体もまた、フェイズシフトの装甲を展開した。

成る程、敵の撃ったミサイルは、アスランの登場する機体に、掠り傷一つつけられずにいる。

敵の攻撃に応戦するアスランに、ミゲルは指示を出す。

目的は、あくまでも、敵の新型機動兵器の奪取なのだ。

『お前は早く離脱しろ!いつまでもウロウロするな!』

「くっっ!」

アスランは、まだ何か言いたげだったが、黙ってそれに従った。


*                     *



敵の機体が、ミサイルを撃ってくる。

しかし、それらはミゲルの機体を、掠りもしない。

それを見て、ミゲルは嘲りの笑みを、口元に浮かべる。

「フン。いくら装甲がよかろうが!」

ミゲルのジンが、相手に向かってサーベルを突き出す。

それすらも、敵は避けない――否。避けられない。

「そんな動きで!!」

その程度の腕で、彼に勝てるわけがないのだ。

ミゲルとて、コーディネイターだ。

確かに、『赤』ではない。しかし、クルーゼ隊の一員なのだ。この程度の敵に、後れをとろうはずがない。

「生意気なんだよ!ナチュラルがモビルスーツなど!!」

ミゲルが、叫ぶ。信じられないことが起こったのは、その、直後だった。

敵の機体が、反撃してきたのだ。

ミゲルが突き出したジンのサーベルを、その身を沈めることでかわし、体当たりをしてくる。

「うわ――!!」

それを予想もしていなかっただけに、ミゲルは避けることが出来なかった。

「このォ!」

しかしそれが余計に、ミゲルの闘争心に火を点ける。

ナチュラルに、後れを取るわけには、いかない。

ナチュラルは、コーディネイターを傷つける。

――――自分たちがその存在を生み出したくせに。


ナチュラルは、彼の親友を、殺した。

――――彼が何をした!?平和に、穏やかに。妹と幸せに暮らしていただけではないか。


ミゲルは機体を起こし、再び敵に迫る。

しかし敵機体は、これまでとは桁違いの精度でミサイルを撃ってきた。

そしてそのまま、更なる攻撃を加えてくる。

「何なんだ、あいつ!?急に動きが!」

だが、負けるわけには――死ぬわけには、いかない。

を、守らねば。親友亡き今、それは彼の役目でもある筈。

ここで彼が死ねば、はどうなる?最近、ようやく明るくなってきたのだ。それは、決して心からのものではないのだろうけれど。まだ、兄の死を引き摺っているのだろうけれど。

それでも漸く――……。

「くそっ!チョロチョロと!」

敵の機体は、ミゲルの放つライフルの攻撃を、回り込んで避ける。

そしてそのまま、ミゲルの乗るジンの人体でいう首の辺りに、なにやらナイフのようなものを突き立てた。

コックピット内の電力が、一気に落ちる。

「ハイドロ、応答なし?多元駆動システム、停止!?ええい!!」

どうやらもう、この機体は使い物にならないらしい。

ならば、仕方がない。

ミゲルは、自爆装置に、手を伸ばした。

モニターに、数字が表示される。

カウントダウンの開始だ。

それを確認し、ミゲルは機体から離れた――……。


*                     *



オロールの機体に、敵の攻撃が命中した。

幸いにも致命傷たりえなかったようだが、その状況では戦闘を続けることなど出来ない。

オロールの機体が離脱した。

雑魚を片付けたが、その機体と相対する。

「ちぃっ!」

メビウスのコックピット内で、男は舌打ちした。

敵に隙が、見当たらない。

このままでは――……。

「まさか、これが噂の『ヴァルキュリア』か!?」

男の背中を、冷たい汗が伝う。

地球軍にとって、『死神』にも等しい存在だ。

男は、死を覚悟した。

相手は、相対すれば必ずその敵を滅ぼすと言われている『ヴァルキュリア』だ。

しかしその時、帰還の合図である信号弾が打ち上げられた。

「帰還!?」

ジンのコックピットで、は眉を寄せた。

何故?と思う。

帰還するには、このタイミングは早すぎるのではないか?

その時、の機体のコックピット内のモニターに、彼女の隊の隊長の姿が映し出された。

そして、驚くべきことを、告げる。

=。君は今すぐコロニー内部に侵入してほしい。……ミゲルが機体を失った」

「ミゲル=アイマンが……ですか?」

「そうだ。ミゲルが機体を失うほどに動いているとなれば、最後の一機、そのままにしては置けない。君には今すぐミゲルのもとへ行ってほしい」

「はっ!=、了解しました!」

はそう答えると、コロニーのほうへ向かう。

そうはさせじと、メビウスが追い縋ってくる。

しかしクルーゼの機体が登場し、メビウスはそちらに向かっていった。

その隙に、はコロニーに侵入し、ミゲルを確保した。

「何やってるのよ、兄さん」

のほうこそ、どうしたんだ。お前にはコロニー外での行動を指示した筈だろう?」

「もう片付け終わったもの。MA如きに後れをとるものですか」

「ま。それも尤もだな。……で、は俺を迎えに来たわけ?」

「そ。早く乗ってよ。コックピットの中、狭いかもしれないけど」

「OK」

ミゲルは微かに笑って、機体に乗り込む。

しかし、目は笑っていない。

その目には、傷つけられた誇りゆえの、剥き出しの憎悪があった。

彼は、あの機体に乗っていたのが、コーディネイターであることを知らない。

だからこそ余計に、憎悪が募る。

ナチュラルに後れを取った。その思い込みゆえに。

(見てろよ。必ず、この屈辱は晴らしてやるからなっっ!!)





もしもこのとき、私にすべてを予見することが出来たなら、何が何でもあなたを止めたのに。

ねぇ、神様。

どうして私から、全てを奪ってしまうの――……?

私は、それほどまでに、大それたことを、望みましたか……?






<<<* Next * Back * Top *>>>





+−+−+−+−+−++−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+




あれ……イザークは?

そう思われますよね、ここまできたら。

作者としましても、ここまで彼が出てこないとは思いませんでした。

これ、イザーク夢のつもりで始めたんだけどなぁ……。

この『鎮魂曲』が終わったあと、ヒロインとイザークの仲を進展させるつもりです。

ですからどうかそれまで、しばしお待ちください。



ここまで読んでくださって有難うございました。