――――なぁ、。お前、どうして軍に入んねぇんだよ?お前だって、ナチュラル恨んでんだろ?――――

――――勿論。奴らは両親を殺した。恨まぬ道理などないな――――

――――なら何で!?お前なら、『赤』だって……!――――

――――優先順位の問題さ、ミゲル。

お前がそう言ってくれることは、有難いことだ。だがな、物事には『優先順位』が存在する。

私にとって、何よりも優先すべきはだから。だから私は、死ぬわけにはいかないんだ。を、守らねばいけないから――……――――

――――……――――

――――もしも私に何かあったなら、そのときはを頼む。お前になら、頼める――――

――――お前、そう簡単に死ぬようなたまか!!――――

ミゲルがそう言うと、は淡く微笑んだ。

まるで、風にでも攫われて、消えてしまいそうな、儚い微笑み。

まさかそれが、彼と面と向かって交わした、最後の言葉になってしまうなんて……。


その会話から半年後、ユニウス=セブンでは死んだ。ミゲルがその事実を知るのは、その更に一年後のことである――……。




ヴァルキュリア   #04魂曲1〜Y〜





「ミゲル兄さん!!」

?どうしたんだ?」

「兄さんが出撃するって聞いたから……。帰ってくるよね?ミゲル兄さんは、帰ってくるよね!?オロールもマシューもみんな、帰ってくるよね!?」

「……当たり前だろう?」

不安そうに言い募るに、ミゲルは笑顔で答えた。

気休めに過ぎない。

今は戦争をしており、彼らは軍人で、敵と戦う毎日だ。いつ死んでも、おかしくない。命の保証など、どこにもないのだから。

だからミゲルは、に約束をすることにした。

いうなれば、必ず帰ってくるという、彼の決意表明を。

、帰ったら一度、の墓参りに行こうか?あいつの好きだった、白い薔薇の花をいっぱい持ってさ」

「うん!兄さんも、きっと喜ぶ。ミゲル兄さんと、大の仲良しだったもの」

「あ、言っとくけど、そん時はお前、軍服は着るなよ?そうだなぁ……アレ、まだあるか?あの白いワンピース」

「あるよ。兄さんたちが好きだった、アレでしょ?……はぁ。男って本と、清純そうなのに弱いんだから」

溜息を吐きつつ、は答えた。

兄たちが好きだった、飾りのないシンプルな、真っ白のワンピース。

も、それが大のお気に入りだった。

けれど、今は違う。それを着ることに、躊躇いを覚えてしまう。

穢れのない、真っ白なワンピース。

ナチュラルの血でその手を汚し続ける自分に、あの平和で穏やかな日々の象徴ともいえるそれを着る権利が、まだあるだろうか?

そう、考えてしまうのだ。

「約束だぞ、

「うん!約束よ、兄さん」

それでも、ミゲルの笑顔を見ていると、とてもそんなことは言えなくて、もつい、頷いてしまう。

ミゲルが差し出した彼の小指に、少女は己のそれを絡めた。

ゆびきりげんまん。

小さな笑顔とともに交わした、ささやかな約束。

ミゲルにとっては、己に課した誓いの言葉でもある、それ――……。







帰ってくるよ、

必ず、帰ってくるから――……。


*                     *



全ての音が、その時彼の周囲から消えていた。

静かだった、とても。まるで時が止まっているかのように――……。

ついさっきまで、アラートが鳴り響いていたはずなのに。あまりにも、静か過ぎて。その静寂が、彼に己が『死』を自覚させた。

死ぬのだ、自分は。

少女と交わした約束を、果たせぬまま――……。

(はは……これじゃあ俺、のこと、どうこう言えねぇじゃん)

守るって約束したのに。

あいつを守ってくれる奴が現れるまで、俺が守るって誓ったのに。

もう、それすらも果たせない――……。

『ミゲル――――!!』

「アスラ……あい……を、頼……ぞ?」

彼女は、お前たちに託すから。

は、俺たちの大切な妹。

でも、お前らになら、任せられるから。

どうかあいつを、幸せにしてやって……?

その笑顔が、曇ることのないように。

「あい……つを、頼……ぞ」

今の通信は、確かに彼に届いただろうか?

ノイズの音が、あまりにも酷い。

消えていた音が、彼の周囲を動き出す。

脱出は、最早不可能。

迫り来る、最後のとき。

ふと、ミゲルの眼裏に、の笑顔が蘇った。

あの真っ白なワンピースを着て、昔のように、柔らかく微笑んでいる。

(最後に、んなもん見せんなよなぁ……)

大好きだった、その笑顔。

あまりにもそれが美しすぎて。

涙が、零れた。




せめてこれからは、俺とが上から、お前を見守っているから。

お前が、容易にこちらに来ることがないように。







(幸せになれよ、。俺たちの分まで……)

お前は俺たちの、大切な、『妹』なのだから。










ミゲルの視界を、真っ白な閃光が灼いた。






*                     *



は、ふと顔をあげた。

誰かに、呼ばれたような気がしたのだ。

しかし、周囲にいる面々が、彼女に話しかけた様子はない。

気のせいだと思い、彼女は再びその面を下げた。

心臓がどきどきする。

嫌な、感覚だった。

(早く帰ってきて……ミゲル兄さん……)

はそっと、呟いた。












彼女がミゲルの訃報を聞くのは、それからすぐのことだった――……。






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さぁ、ついにミゲル兄さん退場です!

随分と長くかかりましたね。

今回は、戦闘シーンは割愛させていただきました。

だって、書けないんだもん……。

剣とかで個人戦とかの戦闘シーンならまだ何とかなりますが、メカは無理です。

この前もそのせいでダラダラした文にしてしまったので、今回は省きました。



ミゲル兄さんのさんへの気持ちは、あくまでも兄の妹に対するそれ、ということにしました。その割には妙にベッタリな二人でしたが……。

次回まで、『#4鎮魂曲』は続きます。

いい加減王子に見せ場を作らないと(苦笑)。

ここまで彼が出てこないのに、王子オチドリームなんていえるんでしょうかねぇ?(←聞くな!)





それでは、ここまで読んでくださって、有難うございました。