――――勿論。奴らは両親を殺した。恨まぬ道理などないな―――― ――――なら何で!?お前なら、『赤』だって……!―――― ――――優先順位の問題さ、ミゲル。 お前がそう言ってくれることは、有難いことだ。だがな、物事には『優先順位』が存在する。 私にとって、何よりも優先すべきはだから。だから私は、死ぬわけにはいかないんだ。を、守らねばいけないから――……―――― ――――……―――― ――――もしも私に何かあったなら、そのときはを頼む。お前になら、頼める―――― ――――お前、そう簡単に死ぬようなたまか!!―――― ミゲルがそう言うと、は淡く微笑んだ。 まるで、風にでも攫われて、消えてしまいそうな、儚い微笑み。 まさかそれが、彼と面と向かって交わした、最後の言葉になってしまうなんて……。 「ミゲル兄さん!!」 「?どうしたんだ?」 「兄さんが出撃するって聞いたから……。帰ってくるよね?ミゲル兄さんは、帰ってくるよね!?オロールもマシューもみんな、帰ってくるよね!?」 「……当たり前だろう?」 不安そうに言い募るに、ミゲルは笑顔で答えた。 気休めに過ぎない。 今は戦争をしており、彼らは軍人で、敵と戦う毎日だ。いつ死んでも、おかしくない。命の保証など、どこにもないのだから。 だからミゲルは、に約束をすることにした。 いうなれば、必ず帰ってくるという、彼の決意表明を。 「、帰ったら一度、の墓参りに行こうか?あいつの好きだった、白い薔薇の花をいっぱい持ってさ」 「うん!兄さんも、きっと喜ぶ。ミゲル兄さんと、大の仲良しだったもの」 「あ、言っとくけど、そん時はお前、軍服は着るなよ?そうだなぁ……アレ、まだあるか?あの白いワンピース」 「あるよ。兄さんたちが好きだった、アレでしょ?……はぁ。男って本と、清純そうなのに弱いんだから」 溜息を吐きつつ、は答えた。 兄たちが好きだった、飾りのないシンプルな、真っ白のワンピース。 も、それが大のお気に入りだった。 けれど、今は違う。それを着ることに、躊躇いを覚えてしまう。 穢れのない、真っ白なワンピース。 ナチュラルの血でその手を汚し続ける自分に、あの平和で穏やかな日々の象徴ともいえるそれを着る権利が、まだあるだろうか? そう、考えてしまうのだ。 「約束だぞ、」 「うん!約束よ、兄さん」 それでも、ミゲルの笑顔を見ていると、とてもそんなことは言えなくて、もつい、頷いてしまう。 ミゲルが差し出した彼の小指に、少女は己のそれを絡めた。 ゆびきりげんまん。 小さな笑顔とともに交わした、ささやかな約束。 ミゲルにとっては、己に課した誓いの言葉でもある、それ――……。 帰ってくるよ、。 必ず、帰ってくるから――……。 全ての音が、その時彼の周囲から消えていた。 静かだった、とても。まるで時が止まっているかのように――……。 ついさっきまで、アラートが鳴り響いていたはずなのに。あまりにも、静か過ぎて。その静寂が、彼に己が『死』を自覚させた。 死ぬのだ、自分は。 少女と交わした約束を、果たせぬまま――……。 (はは……これじゃあ俺、のこと、どうこう言えねぇじゃん) 守るって約束したのに。 あいつを守ってくれる奴が現れるまで、俺が守るって誓ったのに。 もう、それすらも果たせない――……。 『ミゲル――――!!』 「アスラ……あい……を、頼……ぞ?」 彼女は、お前たちに託すから。 は、俺たちの大切な妹。 でも、お前らになら、任せられるから。 どうかあいつを、幸せにしてやって……? その笑顔が、曇ることのないように。 「あい……つを、頼……ぞ」 今の通信は、確かに彼に届いただろうか? ノイズの音が、あまりにも酷い。 消えていた音が、彼の周囲を動き出す。 脱出は、最早不可能。 迫り来る、最後のとき。 ふと、ミゲルの眼裏に、の笑顔が蘇った。 あの真っ白なワンピースを着て、昔のように、柔らかく微笑んでいる。 (最後に、んなもん見せんなよなぁ……) 大好きだった、その笑顔。 あまりにもそれが美しすぎて。 涙が、零れた。 せめてこれからは、俺とが上から、お前を見守っているから。 お前が、容易にこちらに来ることがないように。 (幸せになれよ、。俺たちの分まで……) お前は俺たちの、大切な、『妹』なのだから。 ミゲルの視界を、真っ白な閃光が灼いた。 は、ふと顔をあげた。 誰かに、呼ばれたような気がしたのだ。 しかし、周囲にいる面々が、彼女に話しかけた様子はない。 気のせいだと思い、彼女は再びその面を下げた。 心臓がどきどきする。 嫌な、感覚だった。 (早く帰ってきて……ミゲル兄さん……) はそっと、呟いた。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− さぁ、ついにミゲル兄さん退場です! 随分と長くかかりましたね。 今回は、戦闘シーンは割愛させていただきました。 だって、書けないんだもん……。 剣とかで個人戦とかの戦闘シーンならまだ何とかなりますが、メカは無理です。 この前もそのせいでダラダラした文にしてしまったので、今回は省きました。 ミゲル兄さんのさんへの気持ちは、あくまでも兄の妹に対するそれ、ということにしました。その割には妙にベッタリな二人でしたが……。 次回まで、『#4鎮魂曲』は続きます。 いい加減王子に見せ場を作らないと(苦笑)。 ここまで彼が出てこないのに、王子オチドリームなんていえるんでしょうかねぇ?(←聞くな!) それでは、ここまで読んでくださって、有難うございました。 |