女に興味なんてなかった。

むしろ、女というものが嫌いだった。

彼女たちは俺を、外見でしか判断しない。

彼女たちにとって必要なのは俺の顔と、家柄と、俺の能力だけ。

まるで俺を、アクセサリーの一種としか考えていないようだ。

どうすればそんな相手に、愛情を感じることが出来る?




いずれ俺も、結婚するのだろう。

政略によって。

別にそれはそれで構わない。

俺がその女を、愛さなくても良いと言うのなら。

相手に愛情を求めず、求められない。

その方が気楽だ。

そう、思っていた。



――――、お前に会うまでは――……。



ヴァルキュリア   #05奏曲2
               



初めてを見たとき、俺は彼女に良い感情を持たなかった。

女の癖にMSパイロットで、しかも『赤』を纏う彼女。

何故、女ごときが『赤』を許されるのか。

ザフト軍において、エリートであることを示す、『赤』。それを女が身に纏うということに、俺はどうしても納得できなかったのだ。

彼女の、どこか醒めた瞳も、癪に触った。

しかしが、ミゲルに向けたあの、笑顔。

それに思わず、心奪われてしまった。

その笑顔が、あまりにも綺麗だったから。

そこにあったのは、信頼するものに向ける、無条件の笑顔。

だからどこまでも無垢で、そして翳りがなかった。

あんな顔も出来るのか、と思った。

あの笑顔を、俺にも向けてほしかった。









この気持ちは、何?

もどかしくて、切なくて。

溢れ出してしまいそうな、激情。

それは不思議と温かで。

胸が、いっぱいになった――。








けれどは、俺になかなか笑ってくれなかった――……。

悔しかった。

何故、アスランに、ニコルに、ラスティに向けるその笑顔を、俺には向けてくれない!?

だから、俺は言ったのだ。

自らの苛立ちのままに。

『こんな女など、役に立ちはしない』と――……。

言った瞬間に、猛烈に後悔した。

そんな言葉を、言いたかったわけじゃないのに。

傷つけることなど、望んでいなかったというのに。

不用意な言葉で俺は、彼女を傷つけてしまった……。

半狂乱になった彼女。

その瞳にあった、透明なモノ。

ああ、涙だ、と思った。

綺麗だった。

その目は、虚ろに見開かれていたというのに。

それでも、は綺麗だった。

けれど――――。

あの、笑顔には、敵いはしない。












どうかどうか、お願いだから。

俺にその笑顔を見せて。

ミゲルに見せた柔らかな、あの笑顔の君がほしい。








ミゲルには、なるべくと顔をあわせないでくれ、と頼まれた。

面白くなかった。

何故?と思った。

そして俺は、ミゲルの答えに、衝撃を受けたのだ。

俺は彼女の愛する肉親。

の兄、=に似ているのだと。

死んでしまった、彼女の兄に……。

顔の造作を言うのではない。

確かにの兄は銀髪にアイスブルーの瞳の持ち主だったそうだが、それだけではなく。

雰囲気が似ているのだと。

だから、近づくな、と言われた。

それは、の傷なのだから、と――……。

ショックだった。

ならば俺は、この先一生、彼女に笑顔をむけられることはないのか?

傷つけたことに対するせめてもの侘びに、俺は彼女に造花の薔薇を贈った。

それ以来、彼女との会話は、増えたは増えた。

それは決して、俺の望むものではなかったけれど。

俺が欲したものは、彼女が『俺』に向ける微笑。

と憎まれ口をたたきあう仲にはなったけれど、彼女が『俺に』笑顔をむけてくれることは、なかった。

俺が、似ているから?

顔も性格も知らない、名前しか知らない彼女の兄に俺が似ているから、その笑顔を見ることが出来ない、と言うのか。




……愛しているのに?

彼女を、愛していると言うのに?





そのころには、俺も自分のこの感情が、何に帰結するものであるか、理解していた。

一言で言うなら、俺は彼女に恋心を抱いていたのだ。

まったくもって、笑ってしまう、

本当に、何てことだろう!?

あれだけ女を嫌悪していた俺が、よりにもよって『恋』だなどと!!

まったく、何てことだ!!




地球軍から新型機動兵器を奪ったあとのブリーフィングルームで聞いた、彼女の本音。

俺は、お前の兄貴が羨ましいよ。

そこまで、お前に想ってもらえるなんて。

本当に、羨ましい。

そう思ってしまう俺は、どうやら本格的に彼女に落ちてしまったらしい。

俺としたことが、何てことだ。

けれど、悪くはない。

誰かを想うなんて、俺にはない感情だと思ってた。

だから妙にくすぐったいけれど。

悪くはない。








戦闘の中で、ミゲル、オロール、マシュー、そしてラスティが死んだ。

俺はヴェサリウスからガモフへ移動を命じられ、を探した。

会いたかった。

会って、話をして……。

それ以上に、彼女が泣いているような気がしたから。

会いたかった。

人気のない展望室に、彼女はいた。

泣いているかと思ったが、そうではなかった。

彼女の白い頬に、涙のあとはなかった。

けれど、彼女の心は……あまりにも深く傷ついて、血と涙を流していた……。

『泣けない』と彼女は言った。

それが、あまりにも悲しかった。

確かに、悲しいときに泣いたなら、余計悲しくなるだろう。しかし、泣きたいのに泣けないのは、もっと悲しい。

彼女を、泣かせてやりたかった。

だから、抱きしめた。『誰もいないから、泣け』と言った。

そして漸く彼女は泣いて……。



俺に、初めての笑顔を見せてくれた……。






=

俺がそれをどれほど嬉しく思ったか、お前は知らないのだろう?

お前の笑顔を、俺は守りたい。

だから、=

覚悟しておくといい。

俺は、お前を手に入れることを決めたのだから。

お前がどんな男に惚れられてしまったか。

きっと不本意かもしれないけれど。

でも、もう遅い。

俺は必ず、お前を手に入れてやる――……。

=

それは俺の心を縛る、唯一の存在……。





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イザーク独白です!!

実は一目惚れしてたんです、俺!な話になってしまいました。

最後はほんの少し強気イザークで。

しかし、大変そうですよ、彼に惚れられてしまったさんは。

結構独占欲とか強そうだし……。

覚悟しててくださいね☆



ここまで読んでくださって、本当に有難うございました。