もうこれ以上、何も失いたくはなかったから。 だから私は、あなたを庇いました。 それがどれだけあなたの自尊心を傷つける行為か、分かってはいたけれど――……。 鋼のヴァルキュリア #06ワルキューレの騎行〜前〜 小さな箱を、渡された。 遺品の整理をしろ、ということらしい。 腫れた赤い目のまま、はその命令を受け入れた。 いつまでも、死者を悼んではいられないのだ。 ここは、戦場なのだから。 はそのまま、ミゲルとオロールの部屋だった場所へ、足を踏み入れた。 彼女が任されたのは、ミゲルの遺品の整理だった――……。 はゆっくりと、遺品の整理を始めた。 もう着る者のない緑の軍服に、手を伸ばす。 ザフトの一般兵の証。緑の軍服。ミゲルの、もう一人の兄の誇りだったもの……。 「兄さん……!!」 囁いて、その軍服を抱きしめる。 彼が好んで身につけていた香水の香りがして、なんだか泣きたくなった。 (もう、泣かないって誓ったのに……) 昨日から、泣いてばかりだ。 兄が死んだと知ったとき。『悲しいときに泣くと、余計に悲しくなる』と言った兄の言葉を思い出した。それでも悲しくて、悲しすぎて。 目が溶けてしまうくらい泣いた。 泣いて、泣いて、泣いて。 それ以来、泣かないことを心に誓った。 それなのに。 クルーゼ隊に来てから、どうも調子が狂うのだ。 兄が死んで以来、笑えなかったのに。気付けば笑顔を浮かべていて。 表に出さないようにしてきた筈の感情は、ほとんど垂れ流しの状態。 泣かない、と誓った筈なのに――ミゲルの前で泣いたのや、食堂で涙を零した件は置いておく。だってあれは、無意識の産物で、の意思ではないのだから――、不覚にもイザークの前で泣いてしまった。それも、彼の腕の中で。 (どうしてあんなに、兄さんに似ているのよ……) 顔ぐらいしか似ていないと思っていたのに。 あんなにも。まるでのように優しいなんて。 反則だ。 (泣き顔、見られちゃったのよね……) そしてそれよりも、何よりも。 あの、腕の中で、泣いたのだ。 彼の鼓動を感じられるくらい、近いところで。 そのときのことを思い出して、は思わず赤面してしまった。 男の人に、あんなにも優しくされたのが初めてなら――もっとも、ミゲルとは除外しての話だが――あんなに接触したのも初めてだった。 優しくされて嬉しいと思う反面、それに馴れてしまいそうな自分が、は怖かった。 もっともっと強くならなければいけないのに。 泣いてなど、いられないのだ。 大切なものを守りたいなら、守れるだけの強さが、彼女には必要なのだから。 「よしっ」 パン、と頬を叩いて、は遺品の整理に戻った――……。 デスクの引き出しに、本棚。 ミゲルの私物はそこまで多くはないけれど、それでもなかなかの量だ。 本棚の中に入った本をとろうとして、は思わず、その中の一冊を取り落としてしまった。 大量の写真が落ちてきて、はそれがミゲルのアルバムだと分かった。 「懐かしい……」 その中の一枚に、は思わず手を伸ばした。 卒業の日の、アカデミーでの写真だろうか。 緑の軍服に身を包んだミゲルと、兄の姿が映っている。 が柔らかく微笑んで、ミゲルもやんちゃっぽい笑顔を浮かべて。 ああ、懐かしいなぁ。なんて。思わず思ってしまう。 (欲しいなぁ、この写真……) 貰っては、いけないだろうか? (欲しいなぁ……) でもきっと、無理だろう。 彼の遺品は、その遺族のものだ。いくら兄妹のように親しかったとはいえ、にその資格はない。 残念だが、諦めるしかないのだ。 未練を断ち切るように、は写真を裏返した。 そのとき、裏返したそこに、文字が記してあるのに気付いた。 ――――ミゲルの字だ。 If I had died, I would have gave you this photo, my pierced earring that on my desk, and my notebook that under my pirrou. I hope you will be hapiness, . This is your brothers' wish. Because, you are my immportant sister. I was happy that I could have sister like you. So, please you will be happiness, as long as you can. Love, Your Brother, Miguel Ayman ――――俺の愛する妹、 もしも俺が死んだなら、お前にこの写真と、デスクの上の俺のピアスと、俺の枕の下のノートをお前にやるよ。 幸せになってくれよ、。 これは、お前の兄たちの願いだ。 お前は俺の、大切な妹だからな。 お前みたいな妹ができて、本当に嬉しかったよ。 だからどうか、お前はお前ができる限り、幸せになってくれ。 愛を込めて、 お前の兄、ミゲル=アイマンより―――― 「兄さん……」 ああ、最期の最後まで、ミゲルは自分を想ってくれたのだろう。 は、不意にそう思った。 大好きだった兄。 最期まで、自分のことを案じてくれていたのだろう。 彼も、優しい人だったから。本当に、を思ってくれた人だから。 本当に、なんて人だろう。 「兄さん……」 兄さん。 あなたは、悲しいときに泣けば、より悲しくなるから泣くな。と言いました。 でも今は、悲しくはないんです。 それなのに、涙が溢れそうになるんです。 イザーク。 あなたは、泣きたい時に泣けない方が悲しいから、泣きたい時は泣け。と言いました。 泣きたいと言うわけではないんです。 ただ、涙が溢れそうで……。 写真をしっかりと抱きしめて、は泣いた。 優しかった。 自分をどこまでも大切にしてくれた。 優しい優しいミゲル。 大好きな大好きな、もう一人の兄。 いなくなった。 守れなかった。 殺したのは、誰?兄を奪ったのは、誰? (許すものか……必ず思い知らせてやる。ナチュラルども……!!) 決して、死を思いはすまい。 けれど、この感情のままに、生きる。 兄たちの復讐を、その糧に。 例えそれが、兄たちの願いとは対極にある感情だとしても。 は、それを誓う。 憎しみを、力に変えることを――……。 遺品の整理も終わったころ、アラートが鳴り響いた。 <敵影、捕捉。総員、第一戦闘配備。モビルスーツ搭乗員は、至急ブリッジへ。繰り返す――> 「行こうか、兄さん」 は、写真に向かって微笑んだ。 その瞳に走る、光。 それを『憎悪』と人は呼ぶ――……。 まんまとアークエンジェルの頭を抑えたヴェサリウス。 その後方で、今まさに挟み撃ちにせんとするガモフ。 ――――舞台は、整えられたのだった――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− 何でガモフに行っちゃうかなぁ、イザーク!! 接点なくなっちゃうでしょうがぁ!! さんをガモフにやりたかったんですうけど、それじゃあバランス悪いし。 仕方なく今回、さんには遺品の整理をしていただきました。 次回はあれです。 緋月の苦手な、モビルスーツでの戦闘シーン!! はぅぅ。 そうそう。作中に出てきた英語は、緋月作の英文です。そして緋月は、英語が一番苦手です。 なので、間違いがあるかもです。 気付いた方は、こっそりとご指摘お願いしますです。 雰囲気出したかったんですが、無理はするもんじゃないですね。 それでは、ここまで読んでくださって、有難うございました☆ |