婚約者。

その存在を、ここまで重く感じたことは、恐らくなかっただろう。

俺には、将来を決められた人が、いる。

俺自身、その人に愛情があるかと尋ねられたら、思わず困惑してしまうけれど。

それでも、生涯守りたいと想った人だった。

それはどちらかと言うと、肉親に対するような愛情で、恋人になる人に向けるものではないと思うけれど。



誰かを、心のそこから愛しいと想う感情。

そんなものは、俺には存在しないと想っていた。




――――、君に会うまでは――……。



ヴァルキュリア   #06ルキューレの行〜中〜




の手には、ピアスが握られていた。

ミゲルの遺品の、ピアスだ。

身につけたくとも、はピアスホールを開けていないため、それは叶わなかった。

幸いにもリング状をしていたため、はそれも、ペンダントの鎖に通すことにした。

(ずっと傍にいてね、兄さんたち)

きゅうっと目を瞑り、は心の中でそう、呟く。

それは祈りに、似ていた――……。


*                     *



クルーゼ隊に残った最後のジン。

それに、は搭乗した。

研ぎ澄ますは、復讐の刃。

あの艦に乗っている人間が。あの艦でモビルスーツを操縦した人間が、から兄を奪ったのだ。

許せる筈が、なかった。

=。出撃します!』

アスランが登場する機体、イージスに続き、も出撃した。

ナチュラルとは違い、広く宇宙に進出したコーディネイターたち。

いくら艦の中がそれなりに快適とはいえ、やはりあそこは狭い。

は、軽く伸びをした。

久しぶりの、宇宙だ。

、君は艦のほうを……』

「冗談じゃない、アスラン。あれは私の獲物だ。邪魔をするな」

『しかし……』

「安心して。足を引っ張るような無様な真似はしない」

の口調が変わったことに、アスランは気付いていた。

『鋼のヴァルキュリア』。ザフト、地球連合の双方にその名を轟かせるザフトの戦女神。その片鱗を、アスランは確かに感じていた。

アラートが鳴り響き、敵の存在を感知した。

現れたのはやはり、あの機体。

奪取すること叶わなかった、兄を殺した機体。

『キラ!』

知らずアスランは、その名を呼んでいた。

大切な親友。それがまさか、同じくらい大切になってきた少女の、敵になってしまうなんて。

できることなら、投降して欲しい。今ならまだ、間に合う。昔のように。月の幼年学校にともに通っていたころのように。傍にいて欲しい。

けれどキラに、アスランのそんな思いは伝わらない。

キラにはキラの、守りたいものがあるのだから。




そのころ、ガモフからはイザーク、ニコル、ディアッカが出撃していた。

『ヴェサリウスからは、もうアスランとが出ている!遅れをとるなよ!』

『フン、あんなヤツに』

イザークの言葉に、ディアッカは冷笑で持って答える。

アスランに負けたくは、なかった。

年下の彼に、何度煮え湯を飲まされたことか。

遅れを取るなど、冗談ではない。

イージスがビームサーベルを構えたのを見て、ストライクもまた、ビームサーベルを構えた。

けれど刃を交えることなく、二機は交錯する。

(何をしているの、アスラン!!)

は思わず歯噛みした。

自分を戦わせてくれないばかりか、ストライクともまともに戦わないなんて。

『何をしているのよ、アスラン!!』

、ここは俺に任せてほしい』

『そうはいかない。そいつは兄さんを殺した!!』

!!お願いだから!!』

アスランは、ストライクのパイロットと話をしているようだった。

何故?とは思う。

ナチュラルと、ナチュラルごときと、いまさら何を語り合う必要があると言うのか!?

なかなか動かない戦局に、ビームライフルが割って入ってきた。

『何をモタモタやっている、アスラン!!!』

『イザークか!?』

『イザーク!!』

青と白の装甲を持つ機体]102デュエルだ。

イザークはなおもビームライフルでもって撃ってくる。

ストライクが、それをかわす。

イザークが追う。

は、イザークの援護につくことにした。

二人がかりでストライクを狙うが、掠りもしない。

『ちっ!ちょこまかと。逃げの一手かよ!!』

イザークが、焦れて舌打ちした。

やや短気な傾向のある彼にとって、この局面はまったく持って不本意なものだった。

は、そんな彼をしっかりとサポートする。

やがて、ストライクは反撃に転じてきた。

しかしそれは、反撃と言うにはあまりにも、お粗末だった。

アカデミーをトップで卒業した彼らにとって、それは児戯にも等しい。

『そんな戦い方で!』

イザークは相手の反撃に、冷笑で答える。

も、冷ややかにそれを見ていた。

敵は、パワー残量などまったく考えていない。

無駄玉を使いすぎる。

このような戦い方は、PS装甲が落ちるのを早めるだけだ。

イザークはビームサーベルを構え、接近戦に持ち込む。

ストライクはそれをシールドで防いだ。

そのまま、二機は縺れ込んでゆく。

『何をやっているんだ、アスラン!イザーク!!頭を抑える!』

ディアッカ、ニコルも加わり、五機がかりでストライクを包囲する。

状況が激変したのは、次の瞬間だった。

突如舞い込んできた、エマージェンシーコール。

それは、信じられないことを伝えてきた。

『ヴェサリウスが被弾!?』

思わずイザークが、言葉を失ってしまったほど……。

何とヴェサリウスが、被弾したと言うのだ。

ありうべからざる事態に困惑し、そこに隙が生まれる。

それを逃さず、ストライクはその空域から離脱を図る。

丁度その時、帰還信号があがった。

『させるかよっ!コイツだけでも!』

『イザーク!撤退命令だぞ!』

『うるさい!腰抜け!』

ビームサーベルを片手にうってでるイザークを、アスランが止める。

ストライクは、ビームライフルを撃ってくる。

しかしその時、PS装甲が、落ちた――……。

『もらった――――っっ!!』

イザークは叫び、ストライクに切りかかる。

彼が勝利を確信したその時、思わぬ邪魔が入った。

――――アスランがイザークが切りかかるより先に、イージスをモビルアーマーに変形させ、ストライクを捕獲したのだ……。

『何をする!?アスラン!』

「この機体、捕獲する!」

『何だと!?』

『命令は撃破だぞ!勝手なことをするな!』

『そうよ、アスラン!!何で!?ソイツは……ソイツは兄さんを殺したのよ!!』

「捕獲できるのならばそのほうがいい!撤退する!」

『アスラン!!』

アスランはそれ以上何も言わず、ガモフに向けて撤退する。

その後姿を、イザークは殺気のこもった目で見ていた。

「クソ!アイツ……!」


*                     *



突如モビルアーマーが現れ、イージスを攻撃してきた。

耐え切れなくなったアスランが、ストライクを離す。

その隙にストライクは、アークエンジェルへと離脱を図った。

「キラ!」

モビルアーマーと戦闘を繰り広げながら、アスランは親友の名を呼ぶ。

けれどその声は、届かない。




はイザーク、ディアッカの後から、ストライクを追った。

装備の換装を図るストライク。

そうはさせじとイザークは接近していく。

ストライクが換装を開始し、一番無防備な状態となったその隙をついて、イザークは照準をロックした。

「やったか!?」

『危ない、イザーク!!』

の声がして、次の瞬間、彼女が乗るジンがデュエルを突き飛ばした。

デュエルの右腕を、ストライクの320ミリ超高インパルス砲アグニが撃ち抜く。

体勢を崩したイザーク。

ストライクは、なおも撃ってくる。

さん!?大丈夫ですか!?』

「何!?!?」

の名に、イザークは思わず反応する。

見ればの乗る機体は、その肩の辺りに甚大なる被害を及ぼしていた。

イザークは、目の前が真っ暗になるのを、感じた。

感じたのは、恐怖。

そしてそれはすぐに、怒りへとその姿を変えた。

彼の大切に思う少女を傷つけたものに対する、憎悪へと……。

しかしそれ以上の攻撃を、アスランが阻んだ。

『退け!イザーク、ディアッカ!これ以上の追撃は無理だ!』

「何っ!?」

「アスランの言うとおりです!このままだと、今度はこっちのパワーが危ない!それに、さんを早く軍医に見せないと!!」

ぎりっとイザークは歯軋りをした。

ここまできて、敵の機体を撃破できなかった。

それよりも何よりも。

愛する少女を、を危険に晒してしまった。

大切にしたい、この手で守りたい。そう思う少女に、庇われてしまうなんて……。

(このままでは済まさないからな!!)

ディアッカの手を借りてガモフに帰還しつつ、イザークはそう、心の中で呟いた――……。


*                     *


あなたを、死なせたくないと思いました。

もうこれ以上、何も失いたくはなかったから。

だから私は、あなたを庇いました。

それがどれだけあなたの自尊心を傷つける行為か、分かってはいたけれど――……。






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相も変わらず下手くそだな、戦闘シーン。

ここまでかけないとは!!

自分でもウンザリです。

はふぅぅ。精進せねば。

イザークに見せ場を作りたいんですがねぇ。

どうもこれからの彼って負けてばかりなんで。

て言うか今回、名前変換少ない気が……。

ううう。戦闘シーンってこれだから……。

負けてもかっこいい男。イザークはそれを目指して頑張りたいと思います!!


それでは、ここまで読んでいただき、有難うございました。