女の子の、声がした。

悲痛な、憎悪に満ちた、声。

――――ソイツは、兄さんを殺した……!!――――

守りたい人を、友達を守りたい。

ただそれだけのために、僕は剣を取った。

ストライクを動かして、戦争をしている。

でもそれは――……。

敵を殺す、と言うこと――。

――――ごめんなさい。

僕は今、人を殺しています――……。



鋼のヴァルキュリア #07夜想曲〜前〜




「クルーゼ隊長へ、本国からであります」

「フン」

被弾し、戦線を離脱したヴェサリウスのもとへ、本国からの通信が入った。

一瞥し、クルーゼはアデスにそれを放る。

「評議会からの出頭命令ですか!?そんな……!あれをここまで追い詰めておきながら……」

「ヘリオポリス崩壊の件で、議会は今頃テンヤワンヤといったところだろう。まぁ、仕方ない。あれはガモフを残して、引き続き追わせよう」

「はっ!」

「アスランとを帰投させろ。修理が終わり次第、ヴェサリウスは本国へ向かう」


*                     *



再三の攻撃も空しく、『足つき』はアルテミスに入港してしまった。

地球軍、ユーラシアの軍事要塞『アルテミス』。

難攻不落との呼び声も高いその要塞は、レーザーも実体弾も通さない光波防御帯によって守られていた。

「傘は、レーザーも実体弾も通さない……。まぁ、それは向こうからも同じことだがな」

「だから攻撃もしてこないってコト?馬鹿みたいな話だな」

「だが、防御兵器としては一級だぞ。さして重要な拠点でもないため、我が軍もこれまで手出しせずにきたが……。あの傘を突破する手だては、今のところない。厄介なところに入り込まれたな」

「じゃ、どうするの?出てくるまで待つ?」

ククッとディアッカは、皮肉な笑みを浮かべた。

それにガモフの艦長・ゼルマンも、さすがにムッとする。

「ふざけるなよ、ディアッカ」

腕組みをし、ゼルマンの話を聞いていたイザークが割って入る。

このままみすみす『足つき』を逃がしてはたまらない。

あれは。あれに乗っている機体は、を傷つけた。

その返礼は、させてもらう。

そうでなければ、イザークの気がすまない。

そして何よりも――これは、チャンスだ。

イザークは、知っている。アスランもまた、を愛しく思っていることを。

アスランには、負けられない。

アスランはイザークから、エースパイロットの座を奪った。

しかし、は譲れない。彼が愛した唯一人の少女だけは、奪われたくはない。

だからこれは、チャンスなのだ。

彼女を傷つけた敵を。彼女の『兄』を殺した敵を、イザークが倒す。

そうすればの瞳に、『イザークが』映る筈だ。

「お前は戻られた隊長に、何もできませんでした、と報告したいのか?それこそいい恥さらしだ!!」

「くっ……」

イザークの問いに、ディアッカも冷笑をやめる。

彼もまた、それなりにプライド高い少年だ。

そんな屈辱には、耐えられない。

しかしだからといって、何かしらの手立てがあるわけではない。

するとその時、それまで黙って話を聞いていたニコルが、口を開いた。

「傘は、常に開いているわけではないんですよね?」

「ああ。周囲に敵のないときまで展開させてはおらん。だが、閉じたところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう……」

「僕の機体……あのブリッツなら、うまくやれるかもしれません」

ニコルの言葉に、イザークをはじめ艦長も瞠目した。

防御兵器として最高の水準にある『アルテミスの傘』。それを突破する手段が、あると言うのか?

驚愕する三人に、ニコルはいたずらっぽい笑みを返す。

「あれには、フェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」


*                    *



ニコルは、格納庫内のブリッツの中にいた。

「ミラージュコロイド、電磁圧チェック。システム、オールグリーン。ふぅー。テストもなしの一発勝負か……大丈夫かな?」

テストもなしに、新しい機能を試す――……。

それに恐れを感じる自分がいることを、ニコルは知っている。

だからこそ、イザークやディアッカが彼を『臆病者』と称することも。

そう。普段の彼なら、自分から提案することなど、しなかったかもしれない。

けれどニコルとて、かの機体のパイロットを許せない。

は、ニコルと同じ年だ。

時に姉のようで、時に妹のような、彼女。

彼女への気持ちは、ニコルにとって、家族に向けるような感情だ。家族に向けるような、愛しさだ。

イザークやアスランが彼女に抱くような、熱い感情とは、ニコルは無縁だった。ニコルが彼女に抱く愛情は、凪のように穏やかなものだった。

そんな少女を、傷つけた。

それは、許せるものではない。

きっとここに彼女がいるなら、こう言ってくれるに違いない。

――――ニコルなら、大丈夫よ。――――


と――……。


*                     *



イザークとディアッカは、出撃前の整備を受ける機体を、窓ガラス越しに見ていた。

「しかし、地球軍も姑息なモノを作る」

心底軽蔑したように、イザークは言う。

彼にしてみれば、地球軍が勝つために必死になって開発した機能も、『姑息』でしかない。

イザークの言葉に、ディアッカも同調する。

しかし彼の言葉は、より辛辣だった。

「ニコルには丁度いいさ。臆病者にはね……」

アカデミー時代、彼は常に四位だった。

たいてい首席はアスランで、その次がイザーク、そしてニコルの順だった。

イザーク、ニコルの二人は、一番になったものもあると言うのに、彼は常に四位だった。

どうしても、勝てなかった。

だから彼は、ニコルにしろアスランにしろ、突っかからずにはいられない。

自分より優れている二人が、戦いを躊躇うその姿が、癇に障るのだ。

それは、彼自身まだ判然としていない彼自身の心の闇だった。

平たく言えば、彼は嫉妬しているのだ。

自分より優れているくせに、戦いを忌避するアスランとニコルに――……。










罠を張るために。

地球軍に、『敵は周辺にいない』と思い込ませるために、離脱するガモフ。

それを知らないアルテミスは、『傘』を開いた。

自ら、狼を誘い込むように――……。






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唯でさえヴェサリウスとガモフで接点のないさんとイザーク。

今回はついに、プラントとアルテミスなんつー、『接点なんてどこにあるんだよ、こん畜生!』なことになってしまいました。

しかもさん、喋ってない……。

こんな夢ってあり……?

次回もまた、恐らくは喋りません。


こんな夢ですが、ここまで読んでくださって有難うございました。