悲痛な、憎悪に満ちた、声。 ――――ソイツは、兄さんを殺した……!!―――― 守りたい人を、友達を守りたい。 ただそれだけのために、僕は剣を取った。 ストライクを動かして、戦争をしている。 でもそれは――……。 敵を殺す、と言うこと――。 ――――ごめんなさい。 僕は今、人を殺しています――……。 鋼のヴァルキュリア #07夜想曲〜前〜 「クルーゼ隊長へ、本国からであります」 「フン」 被弾し、戦線を離脱したヴェサリウスのもとへ、本国からの通信が入った。 一瞥し、クルーゼはアデスにそれを放る。 「評議会からの出頭命令ですか!?そんな……!あれをここまで追い詰めておきながら……」 「ヘリオポリス崩壊の件で、議会は今頃テンヤワンヤといったところだろう。まぁ、仕方ない。あれはガモフを残して、引き続き追わせよう」 「はっ!」 「アスランとを帰投させろ。修理が終わり次第、ヴェサリウスは本国へ向かう」 再三の攻撃も空しく、『足つき』はアルテミスに入港してしまった。 地球軍、ユーラシアの軍事要塞『アルテミス』。 難攻不落との呼び声も高いその要塞は、レーザーも実体弾も通さない光波防御帯によって守られていた。 「傘は、レーザーも実体弾も通さない……。まぁ、それは向こうからも同じことだがな」 「だから攻撃もしてこないってコト?馬鹿みたいな話だな」 「だが、防御兵器としては一級だぞ。さして重要な拠点でもないため、我が軍もこれまで手出しせずにきたが……。あの傘を突破する手だては、今のところない。厄介なところに入り込まれたな」 「じゃ、どうするの?出てくるまで待つ?」 ククッとディアッカは、皮肉な笑みを浮かべた。 それにガモフの艦長・ゼルマンも、さすがにムッとする。 「ふざけるなよ、ディアッカ」 腕組みをし、ゼルマンの話を聞いていたイザークが割って入る。 このままみすみす『足つき』を逃がしてはたまらない。 あれは。あれに乗っている機体は、を傷つけた。 その返礼は、させてもらう。 そうでなければ、イザークの気がすまない。 そして何よりも――これは、チャンスだ。 イザークは、知っている。アスランもまた、を愛しく思っていることを。 アスランには、負けられない。 アスランはイザークから、エースパイロットの座を奪った。 しかし、は譲れない。彼が愛した唯一人の少女だけは、奪われたくはない。 だからこれは、チャンスなのだ。 彼女を傷つけた敵を。彼女の『兄』を殺した敵を、イザークが倒す。 そうすればの瞳に、『イザークが』映る筈だ。 「お前は戻られた隊長に、何もできませんでした、と報告したいのか?それこそいい恥さらしだ!!」 「くっ……」 イザークの問いに、ディアッカも冷笑をやめる。 彼もまた、それなりにプライド高い少年だ。 そんな屈辱には、耐えられない。 しかしだからといって、何かしらの手立てがあるわけではない。 するとその時、それまで黙って話を聞いていたニコルが、口を開いた。 「傘は、常に開いているわけではないんですよね?」 「ああ。周囲に敵のないときまで展開させてはおらん。だが、閉じたところを近づいても、こちらが要塞を射程に入れる前に察知され、展開されてしまう……」 「僕の機体……あのブリッツなら、うまくやれるかもしれません」 ニコルの言葉に、イザークをはじめ艦長も瞠目した。 防御兵器として最高の水準にある『アルテミスの傘』。それを突破する手段が、あると言うのか? 驚愕する三人に、ニコルはいたずらっぽい笑みを返す。 「あれには、フェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんです」 ニコルは、格納庫内のブリッツの中にいた。 「ミラージュコロイド、電磁圧チェック。システム、オールグリーン。ふぅー。テストもなしの一発勝負か……大丈夫かな?」 テストもなしに、新しい機能を試す――……。 それに恐れを感じる自分がいることを、ニコルは知っている。 だからこそ、イザークやディアッカが彼を『臆病者』と称することも。 そう。普段の彼なら、自分から提案することなど、しなかったかもしれない。 けれどニコルとて、かの機体のパイロットを許せない。 は、ニコルと同じ年だ。 時に姉のようで、時に妹のような、彼女。 彼女への気持ちは、ニコルにとって、家族に向けるような感情だ。家族に向けるような、愛しさだ。 イザークやアスランが彼女に抱くような、熱い感情とは、ニコルは無縁だった。ニコルが彼女に抱く愛情は、凪のように穏やかなものだった。 そんな少女を、傷つけた。 それは、許せるものではない。 きっとここに彼女がいるなら、こう言ってくれるに違いない。 と――……。 イザークとディアッカは、出撃前の整備を受ける機体を、窓ガラス越しに見ていた。 「しかし、地球軍も姑息なモノを作る」 心底軽蔑したように、イザークは言う。 彼にしてみれば、地球軍が勝つために必死になって開発した機能も、『姑息』でしかない。 イザークの言葉に、ディアッカも同調する。 しかし彼の言葉は、より辛辣だった。 「ニコルには丁度いいさ。臆病者にはね……」 アカデミー時代、彼は常に四位だった。 たいてい首席はアスランで、その次がイザーク、そしてニコルの順だった。 イザーク、ニコルの二人は、一番になったものもあると言うのに、彼は常に四位だった。 どうしても、勝てなかった。 だから彼は、ニコルにしろアスランにしろ、突っかからずにはいられない。 自分より優れている二人が、戦いを躊躇うその姿が、癇に障るのだ。 それは、彼自身まだ判然としていない彼自身の心の闇だった。 平たく言えば、彼は嫉妬しているのだ。 自分より優れているくせに、戦いを忌避するアスランとニコルに――……。 罠を張るために。 地球軍に、『敵は周辺にいない』と思い込ませるために、離脱するガモフ。 それを知らないアルテミスは、『傘』を開いた。 自ら、狼を誘い込むように――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− 唯でさえヴェサリウスとガモフで接点のないさんとイザーク。 今回はついに、プラントとアルテミスなんつー、『接点なんてどこにあるんだよ、こん畜生!』なことになってしまいました。 しかもさん、喋ってない……。 こんな夢ってあり……? 次回もまた、恐らくは喋りません。 こんな夢ですが、ここまで読んでくださって有難うございました。 |