――――兄さん、私、軍に入る。良い?―――― ――――軍に!?何でだ?が軍に入る必要なんて、ないだろう?―――― ――――私は、ナチュラルを許せない。父様と母様を殺した奴らを、許すことなんてできない。だから……!!―――― 兄は、の言葉に、その端正な顔を歪めた。 それは、彼の思いでも会ったから。けれどのために、彼が捨てたものだったから。けれど妹が軍に入るなどと言うのだったら。それを知っていたなら、何が何でも彼が軍に入ったのに。 愛しい妹の手を、血に汚さねばならないなんて。 ――――反対……する?―――― ――――……の思うとおりにすれば良い。それがの願いなら、私は何も言わない―――― ――――兄さん。 この生き方を後悔したことはないけれど。 時々、わが身の罪の重さに、押しつぶされそうになります。 誰よりも、何よりも優しかった貴方は、罪深い妹を、許してくれますか……? は、ブリーフィングルームのガラス窓から、整備中の機体を見ていた。 整備されているのは、ジン三機とイージス。そしてシルバーをベースに各所に黒の塗装を持つ、彼女自身のMSだった。 『鋼のヴァルキュリア』彼女がそう呼ばれる所以に、彼女のそのMSの存在があった。 「ラクス=クライン……か。私とは、正反対ね。……兄さん。本当は私に、あんな風に生きてほしかったの……?あんな風に、血の匂いのしない……」 テレビで見た彼女は、澄んだ歌声とふんわりとした雰囲気を持つ、愛らしい少女だった。 そのどれも、は持っていない。 自分の生き方を後悔したことはないが、時々その罪の大きさに慄いてしまうのだ。 あの優しかった兄と比べて、自分はなんと醜いのか。 天上の兄は、こんな妹を、どんな思いで見ているのだろう。 「『の恥さらし』とでも思われてそうね……」 それが、何よりも怖い。 幼いころから、彼女にとって兄が全てだった。兄は、絶対の存在だった。そんな人から拒絶されることは、彼女にとって何よりの恐怖だった。例え、彼女の兄が既に亡き人であったとしても……。 「兄さんは、私のせいで死んだんだもの……ね。私があんなことを言わなければ、兄さんは……」 ――――私が、自分のことしか考えない悪い子だから、ミゲル兄さんも死んでしまったの?―――― 「?」 「アスラン。貴方も、機体を見に?」 「ああ。あれが、の機体?」 「そう。あれが私の機体。兄さんが開発した、私だけの機体よ。ZGMF−X08Aワルキューレ。綺麗な機体でしょ?」 「『兄さんが開発した』……!?」 の言葉に、アスランは当然驚愕の声を上げる。 当然だろう。 の兄は、『誰よりも優しく、争うことを拒んだ人』と聞いているのだから。 「兄さんが開発したのよ。兄さん、いわゆる『天才』だったのね。コーディネイターの中であってさえも、兄さんの優秀さは異質だったほどよ。 とにかく、何でもできる人だった。そしてそんな優秀な兄さん――=――は、軍に入ると決めた妹のために、これを開発したのよ。少しでも、妹が生き残る確率を上げられるように……ってね。 もともと軍のほうは、兄さんの頭脳を欲しがってたから、兄さんの提案に応じたってわけ。 元々はPSシステムはついてなかったけど、アスランたちの機体のデータをもとに、つけたって言ってたわ」 「……どんな兄さんだよ」 「そうね……第一の趣味が情報処理。第二の趣味がお菓子作り。第三の趣味が花火作りって兄さんね」 が答えると、アスランは目を点にした。 ……気持ちは分かるが。 「本当に、どんな人だよ」 「優しい人よ。ただ、あまりにその能力が傑出してたのね。きっと兄さんにとって、不幸以外の何物でもなかったでしょうけど」 確かに、の直系にしてその後継者たるが優秀なのは、有名な話だった。 しかし、ここまでとは……。 MSの開発すら手がけるような逸材とは、思いもしないだろう。 「は、よほどお兄さんが好きだったんだね」 「大好きよ」 にっこりと微笑んで、は告げた。 しかし続く言葉は、あまりにもその笑顔に似つかわしくないものだった。 「兄さんを殺した連中を、皆殺しにしなきゃ気がすまないくらいに」 「艦長!」 ロメロ=パルのもたらした報告は、アークエンジェルのクルーたちに希望を与えた。 地球軍第八艦隊が先遣隊を派遣し、彼らを探していると言うのだ。 艦隊と合流すれば、ザフトも容易には手出しできない。 それゆえに、彼らは安堵したのだった。 ――――彼らは知らない。 そのころ、ザフトもまた、先遣隊の存在を感知したことを。 その上で、周到で辛辣な罠を用意していることを――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− 今回はさんの兄、さんの中身が少々明らかになりました。 結構『普通じゃない』お兄さんなんですよ、彼。 ついでに言いますと、さんが『私のせいで兄さんは死んだ』と言っているのは、さんが帰ってこないことを自分が『悪い子』だったからだと思いこんで言っただけではなく、別に理由があります。 その辺もまた、少しずつ明らかにしていきたいです。 しかしこの兄さん。 ギャグネタしか出てこない方なんですけどね。 ミゲルとセットでアホなことをやってそうです。 |