――――兄さん、私、軍に入る。良い?――――

――――軍に!?何でだ?が軍に入る必要なんて、ないだろう?――――

――――私は、ナチュラルを許せない。父様と母様を殺した奴らを、許すことなんてできない。だから……!!――――

兄は、の言葉に、その端正な顔を歪めた。

それは、彼の思いでも会ったから。けれどのために、彼が捨てたものだったから。けれど妹が軍に入るなどと言うのだったら。それを知っていたなら、何が何でも彼が軍に入ったのに。

愛しい妹の手を、血に汚さねばならないなんて。

――――反対……する?――――

――――……の思うとおりにすれば良い。それがの願いなら、私は何も言わない――――






――――兄さん。

この生き方を後悔したことはないけれど。

時々、わが身の罪の重さに、押しつぶされそうになります。

誰よりも、何よりも優しかった貴方は、罪深い妹を、許してくれますか……?



ヴァルキュリア #08詩曲〜U〜



は、ブリーフィングルームのガラス窓から、整備中の機体を見ていた。

整備されているのは、ジン三機とイージス。そしてシルバーをベースに各所に黒の塗装を持つ、彼女自身のMSだった。

『鋼のヴァルキュリア』彼女がそう呼ばれる所以に、彼女のそのMSの存在があった。

「ラクス=クライン……か。私とは、正反対ね。……兄さん。本当は私に、あんな風に生きてほしかったの……?あんな風に、血の匂いのしない……」

テレビで見た彼女は、澄んだ歌声とふんわりとした雰囲気を持つ、愛らしい少女だった。

そのどれも、は持っていない。

自分の生き方を後悔したことはないが、時々その罪の大きさに慄いてしまうのだ。

あの優しかった兄と比べて、自分はなんと醜いのか。

天上の兄は、こんな妹を、どんな思いで見ているのだろう。

「『の恥さらし』とでも思われてそうね……」

それが、何よりも怖い。

幼いころから、彼女にとって兄が全てだった。兄は、絶対の存在だった。そんな人から拒絶されることは、彼女にとって何よりの恐怖だった。例え、彼女の兄が既に亡き人であったとしても……。

「兄さんは、私のせいで死んだんだもの……ね。私があんなことを言わなければ、兄さんは……」



――――私が悪い子だったから、兄さんは死んだの?――――

――――私が、自分のことしか考えない悪い子だから、ミゲル兄さんも死んでしまったの?――――




?」

「アスラン。貴方も、機体を見に?」

「ああ。あれが、の機体?」

「そう。あれが私の機体。兄さんが開発した、私だけの機体よ。ZGMF−X08Aワルキューレ。綺麗な機体でしょ?」

「『兄さんが開発した』……!?」

の言葉に、アスランは当然驚愕の声を上げる。

当然だろう。

の兄は、『誰よりも優しく、争うことを拒んだ人』と聞いているのだから。

「兄さんが開発したのよ。兄さん、いわゆる『天才』だったのね。コーディネイターの中であってさえも、兄さんの優秀さは異質だったほどよ。

とにかく、何でもできる人だった。そしてそんな優秀な兄さん――=――は、軍に入ると決めた妹のために、これを開発したのよ。少しでも、妹が生き残る確率を上げられるように……ってね。

もともと軍のほうは、兄さんの頭脳を欲しがってたから、兄さんの提案に応じたってわけ。

元々はPSシステムはついてなかったけど、アスランたちの機体のデータをもとに、つけたって言ってたわ」

「……どんな兄さんだよ」

「そうね……第一の趣味が情報処理。第二の趣味がお菓子作り。第三の趣味が花火作りって兄さんね」

が答えると、アスランは目を点にした。

……気持ちは分かるが。

「本当に、どんな人だよ」

「優しい人よ。ただ、あまりにその能力が傑出してたのね。きっと兄さんにとって、不幸以外の何物でもなかったでしょうけど」

確かに、の直系にしてその後継者たるが優秀なのは、有名な話だった。

しかし、ここまでとは……。

MSの開発すら手がけるような逸材とは、思いもしないだろう。

は、よほどお兄さんが好きだったんだね」

「大好きよ」

にっこりと微笑んで、は告げた。

しかし続く言葉は、あまりにもその笑顔に似つかわしくないものだった。

「兄さんを殺した連中を、皆殺しにしなきゃ気がすまないくらいに」


*                     *



「艦長!」

ロメロ=パルのもたらした報告は、アークエンジェルのクルーたちに希望を与えた。

地球軍第八艦隊が先遣隊を派遣し、彼らを探していると言うのだ。

艦隊と合流すれば、ザフトも容易には手出しできない。

それゆえに、彼らは安堵したのだった。





――――彼らは知らない。

そのころ、ザフトもまた、先遣隊の存在を感知したことを。

その上で、周到で辛辣な罠を用意していることを――……。






<<<* Next * Back * Top *>>>




+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−


今回はさんの兄、さんの中身が少々明らかになりました。

結構『普通じゃない』お兄さんなんですよ、彼。

ついでに言いますと、さんが『私のせいで兄さんは死んだ』と言っているのは、さんが帰ってこないことを自分が『悪い子』だったからだと思いこんで言っただけではなく、別に理由があります。

その辺もまた、少しずつ明らかにしていきたいです。

しかしこの兄さん。

ギャグネタしか出てこない方なんですけどね。

ミゲルとセットでアホなことをやってそうです。