――――でも、貴方は優しいんですのね。有難う――――

そう言われて、キラは思わず顔を赤らめた。

この少女に、自分がコーディネイターだと告げたら、彼女はどんな目で自分を見るだろう?

軽蔑するだろうか。

――――僕は……僕も、コーディネイターですから――――

――――そうですか。でも、貴方が優しいのは、貴方だからでしょ?お名前を教えていただけます?――――

しかし少女は、キラが思いもしないことを言った。

そこには、軽蔑も、嫌悪もない。

少女は本当に、キラをそう思っているのだ。

少女の言葉に、キラの頬は更に赤くなる。

――――キ、キラです。キラ=ヤマト――――

――――そう。有難う、キラ様――――



ヴァルキュリア #08詩曲〜V〜




ブリッジに赴いたとアスランは、そこで予想もしていなかったことをクルーゼに告げられた。

“足つき”に補給を運ぶと思しき艦を、急襲するよう指示されたのだ。

彼らに課せられた任務は、まず第一にラクスの捜索ではなかったのか。

「ラコーニとポルトの隊が予定より遅れている。もしあれが“足つき”に補給を運ぶ艦ならば、このまま見過ごすわけにはいかない」

「仕掛けるんですか?しかし我々には……」

「我々は軍人だ、アスラン。いくらラクス嬢捜索の任務があるといえな」

アスランの言葉に、クルーゼはこともなげに答える。

親友と戦わねばならないアスラン。

その苦悩を思えば、その発言は、無理のないことだ。

。君のワルキューレは出られるか?」

「残念ながら、無理のようです。最終調整の段階に入ってはいるのですが、あれはクセがあるので実際に飛ばさないことには、調整できません」

「ならば君にはまた、ジンで出てもらうことにしよう。いいかね?」

「はっ!」

クルーゼの確認の形をとった命令に、は敬礼をし、答える。

その後クルーゼは次々と命令を出し、そこで散会となった。

MSによる奇襲をかける面々は、そのままロッカーに向かってパイロットスーツに着替え、それぞれの機体に搭乗する。

<やっぱり隊長の勘は当たるな>

<アスラン!そいつの性能、見せてもらうぜ!>

「……ああ」

アスランは気のない返事を返しながら、OSを起動させる。

彼の脳裏を、たくさんの『声』が交錯していく。




――――『もしあれが“足つき”に補給を運ぶ艦ならば、このまま見過ごすわけにはいかない』――――

――――『我々は我々を守るために戦う。戦わねば守れぬのならば、戦うしかないのです』――――

――――『戦争なんか嫌だって、キミだって言ってたじゃないか!そのキミがどうしてヘリオポリスを!』――――





彼は目を閉じ、呼吸を整えた。

やがて、全てを振り払うように、その目を見開く。

「アスラン=ザラ、出る!」

その声とともに、イージスは宇宙へ飛び出した……。


*                    *



ジン三機、そしてイージスは、戦闘を開始した。

対するは、地球軍のMA。

ジンとMAでは、まともに戦いにもならないと言うのに。

は口元に嘲笑を浮かべる。

なんてなんて愚かなのか。

MAの上に飛び乗り、銃口を向ける。

殺戮は、どこまでも一方的だった。

これはとても、戦闘とは呼べないだろう。

たちの攻撃に、MAはなす術もなく落ちていく。

しかし、ここで戦闘は、次の局面を迎える。

護衛艦に守られた、おそらく司令官が乗っているであろう艦と相対していたジンが、撃墜されたのだ。

<“足つき”がご到着したようよ、アスラン!>

、君には援護を頼みたい。いいかい?説得しきれなかった場合は、キラを連れて行く。キラのいるべき場所へ……!!」

<了解>

現れたストライクに、ジン一機とイージスが殺到する。

MAに変形していたイージスは変形をとき、二つの機体はビームライフルで撃ち合う。

それでも決着はつかず、二機はビームサーベルを抜き、接近戦に持ち込んだ。

打ち合い、その衝撃に弾かれる二機の間を、の乗るジンが横切る。

戦闘にカタがつかない。

イージスは再びMAに変形し、580ミリ複列位相エネルギー砲“スキュラ”を放つ。

イージスが変形したのを見て、はイージスから離れた。

戦艦一隻を鎮めるほどの火力を持つのだ。巻き込まれれば、の乗るジンなど、粉々にされてしまう。

はしばしの間、友軍の加勢に入ることにした。

アスランなら、持ちこたえられるだろう。

キラがイージスを相手に奮戦している間にも、戦況は刻々と変化していった。

やがてヴェサリウスの主砲がモントゴメリィをその射程に捉える。

艦砲が火を噴き、それは真っ直ぐにモントゴメリィに向かっていく。


……直撃、した。

<アスラン!雑魚は片付け終わったわよ。そっちはどう?説得に成功した?>

しかし、アスランからの通信は返ってこなかった。

どうやらまだ、蹴りはついていないらしい。

その時、だった。

“足つき”から全周波放送が入ったのは。

<ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル!当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル=クラインの令嬢、ラクス=クラインを保護している!>

そこで、映像が入った。

そこに映っているのは確かに、彼らがその行方を捜している少女の姿だった。

<偶発的に救命ポッドを発見し、人道的な立場から保護したものであるが、以降、当艦に攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス=クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意思でこの件を処理するつもりであることを、お伝えする>

「卑怯な!」

<よもやこんな手に出るなんて……ね>

「救助した民間人を人質に取る……!?そんな卑怯者とともに戦うのが、お前の正義か!?キラ!」

「アスラン……」

「彼女は助け出す……!必ずな!」

イージスが反転し、もそれに続こうとする。

しかしその時、ラクスを人質にとったこと。そしてそれゆえのアスランの怒りに直面したキラの手は、本人も意識しないままに、そのトリガーを引いてしまっていたのだ。

<きゃあああ――――っっ!!>

完全に虚をつかれたは、もろにその直撃を食らってしまった。

「すみません!」

慌ててキラは、その機体に駆け寄る。

もしもこのとき、ストライクの装備がランチャーであれば、彼女の命は消えていただろう。

しかしそうではなかったため、彼女は辛うじてその命をつなぐことができた。

の悲鳴に、アスランは慌てて反転し、彼女のもとへ向かう。しかし、彼女を取り戻すことは、叶わなかった。

もしもここでアスランがストライクを攻撃すれば、ラクスが殺されるかもしれないのだ。

彼は、ストライクがを連れて行くのを、見ていることしかできなかった。

キラのことだから、が心配でそれで連れて行ったのだろう。

しかし、向こうの士官はそうは取るまい。

……!!)

大切な少女が連れ去られて行くというのに、彼は何もできなかった。

唇を噛み締め、アスランは己が無力さに、ひたすら耐えていた……。


*                     *



は、手を伸ばした。

頭が、朦朧とする。

しかし、薄れ行く意識の中、自分が直面している問題は、把握することができた。

渾身の力を振り絞り、彼女はキーボードに手を伸ばした。

OSにロックをかけ、ナチュラルの目をごまかすために細工を施す。



そのまま少女は、意識を手放していた――……。






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さぁ!さん、ついに捕虜になってしまいました!

ここから先は本と、フレイスキーの方はご覧にならない方が良いと思われます。

いろいろやらかしてしまいますので。

『キラのいるべき場所へ……!』と言うアスランの台詞は、SEEDのゲームをやって以来是非一度彼に言わせたかった台詞です。

念願かなって言わせることができました(笑)。

自己満足ですけどね。



それでは、ここまで読んでくださって有難うございました。

感想などありましたら、ぜひ。

切実にお願いします。