――――……―――― ――――なんでパパの船を守ってくれなかったの!?……なんであいつらをやっつけてくれなかったのよ―――っ!?―――― ――――フレイ!!キラだって必死に……―――― ――――アンタ、自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!?―――― ――――ナチュラルに触れられるなど、おぞましい!!―――― ――――ちょ……っっ!!―――― ――――貴様らは、私から全てを奪った!!―――― ――――何を、言って……!?―――― ――――……キラ=ヤマト?―――― ――――あ……はい―――― ――――じゃあ、君はコーディネイターなのね?君のことは、アスランから聞いているわ。私はよ。よろしく。……ゴメンなさいね、さっきは。君の話も聞かずにナチュラルだって決め付けて、罵っちゃった……―――― ――――い……いえ。あ、さんはアスランのことを知ってるんですか?―――― ――――ええ。彼は私の同僚で、お兄さんみたいな人ね。彼から、君のことは聞いたの。……あなた、ザフトに来る気はないの?―――― ――――……すみません。でも、僕の、守りたい人たちがこの艦にいるんです―――― ――――そう……―――― 僕にこっちに来いと言ってくれた、さんとアスラン。 その二人を敵にまわしてまで、僕はみんなを守ることを決めた。 けれど、僕はまだ戦わなければならないのか? 安全な場所にいて、僕を戦わせて、そして僕がその戦闘に手を抜いていたと言って僕を責める人のために――……。 鋼のヴァルキュリア #08狂詩曲〜X〜 =が敵軍の捕虜になったことを聞き、イザークは荒れていた。 彼女を守りたいと願ったのに。彼は、彼女を守れなかった。 が、ただの軍の人間ならば、いい。けれど彼女は、ザフトの『ヴァルキュリア』だから。露見すれば、ただではすまないだろう。 「……」 イザークは、唇を噛み締めた。 強く噛んだせいか、唇は切れてしまった。 苦い苦い鉄の味が、その口内に広がる。 (もしも、もしもに何かしたら……。許さないからな、足つきめ!!必ず殺してやる!!誓って、そうしてやるからな!!) 誓いも新たに、イザークは壁を殴りつけた……。 「キラ君。一つだけ、お願いしてもいい?ラクス=クラインを解放してほしいの。人質には、私が残るから……」 「え……でも……」 「お願い。ラクス嬢は、確かにクライン議長の娘だけど、彼女自身は民間人よ。彼女を解放して。人質は、私だけでいい」 アスランに、彼女を返してあげなければ。 きっと、気を揉んでいる筈だ。彼の大切な、婚約者なのだから。 そう考えて、は静かにピンクの軍服の胸元を押さえた。 いつまでも、パイロットスーツのままでいるわけにはいかない。けれどの軍服は、ヴェサリウスの中だから、この艦の人が貸してくれた、地球軍のものだ。 (私が地球軍の軍服を着ることになるなんてね……。皮肉なものだわ) は皮肉っぽく、その唇を歪めた。 (軍服は、ザフトの方が良いわね) 確かに、機動性には乏しいかもしれないけれど。 ザフトの『赤』は、膝下あたりまで上着が来る。それに比べれば、膝の中ほどまでの地球軍の軍服のほうが、はるかに機能性は高いだろう。 しかし、露骨に男女を色で分けようとするなど、にとっては愚の骨頂だ。 第一、野戦士官用のそれの、階級章もないところは、なんともマヌケだ。 そして何より気に障るのは……スカートを着用しなければならないところだ。 ザフトにあってさえ、は滅多なことではスカートを着用しなかった。が『赤』になったことで、『赤』の軍服にスカートができたにもかかわらずだ。そりゃあ、公式の式典なんかになれば、もスカートを着用するが。極力着ないようにしていた。それなのに……。 ピンクの軍服の下の、真っ白でタイトなしかもミニスカート。 (ミニ着たのって、何年ぶりよ……。ていうか、この姿をもし、特にイザークあたりに見られたら……笑われる……!!) もしくは、唇を皮肉に歪めて、『似合わんな』とでもいいそうだ……。 アスランやニコルあたりになると『ミニも可愛いですね(可愛いな)』って言うだろうが……。 ……さり気にそれ、セクハラ発言です。 がうんうん言いながら、下らないことばかりを考えていると、キラはそんなをただひたすらラクスを案じていると判断したのだろうか。少し上ずり気味の声で、協力を確約した。 「分かりました。僕も、彼女を帰したいって思ってたんです。……あの人、僕に優しくしてくれたから……」 「ラクス嬢は、そういう人だから……。お願いしても良い?」 「はい」 の言葉に、キラは静かに頷いた……。 部屋で眠っていたラクスは、差し込んできた人工灯の明かりの眩しさに、目を覚ました。 寝乱れたピンクの髪が、頬に張り付いている。 「まぁ、キラ様。どうなさいましたの?」 「黙って一緒に聞いてください。静かに……」 キラの返答に、ラクスは軽く目を見張る。 けれどやがて静かに微笑んで、キラの言うとおりにした。 信頼されていることに、キラの胸は温かいものでいっぱいになる。 「待ってくださいな。様はどうなさいますの?」 「さん……ですか?あの人は、残るといっていましたけど……」 「まぁ……!それはいけませんわ。あの方がお帰りにならなければ……」 「何故、さんが帰らなければいけないんですか?」 「あの方が、最後の生き残りだからですわ」 ラクスの言葉に、キラは声を失う。 『生き残り』その言葉の意味が……この際、ラクスの言う『生き残り』の意味が……分からない。 「様は、の最後の生き残り。死んで良い方ではありませんのに……」 『』と言う言葉に、キラは引っかかるものを感じた。 確か以前、フラガが言っていなかったか。『鋼のヴァルキュリア』の名前を。それは確か……。 「=」 割り込んできた、男の声。 噂をすればなんとやら。先人は、すばらしい言葉を残してくれたものだ。 それは、ムウ=ラ=フラガだった。 フラガの登場に、ラクスは慌てた様子はなかった。 すっと目を細めて、彼を凝視する。 「様の姓が『』で、そして『ヴァルキュリア』だったら、どうなさるおつもりですの? 言っておきますが、ここで彼女を殺さないほうがあなた方のためですわ。 もしも彼女に危害が加えられた場合、オペレーション=ウロボロス程度ではすみません。ザフトは、おそらく全力であなた方を潰しにかかるでしょう。 これは、あなた方への忠告ですわ」 「ヘイヘイ。ご忠告有難うございます。……で、キラ?お前は何をしようとしてたんだ?」 「僕は……」 「私が退屈そうにしていたので、お散歩に誘いに来てくださったんですわ。ね、キラ様?」 「ふ〜ん。ま、別にいいけどさ。副長さんに見つかんじゃねーぞ」 「はい」 キラとラクスは、微妙な笑みを浮かべて、フラガを見送った。 内心で、何しにきたんだよ、このおっさん!!と思ったのは……置いておく。 「とにかく、さんはあなたのことを心配していました。あなただけでも逃げることが、さんにとって重要だと思います。だから、ついてきてください」 「……分かりましたわ」 不承不承といった感じで、ラクスは頷いた。 二人は廊下に出て、小走りになる。 しかし間の悪いことに、ミリアリア、サイと出会ってしまった。 慌ててキラはラクスを隠す。 しかしそこはさすがのラクス=クライン。……ハロが騒いで見つかってしまった。 「……何やってんだ?お前?」 「キラ……まさか……!?」 「黙って行かせてくれ。サイたちを巻き込みたくない。僕は嫌なんだ、こんなの!!」 「まあ、女の子を人質にとるなんて、本来悪役のやることだしな。手伝うよ」 キラの訴えに、サイとミリアリアもまた、協力してくれることになった。 ロッカールームへとラクスを案内し、キラは宇宙服を渡した。 「これ着て。その上からで……」 良いから、と言おうとして、キラは言葉を失う。 ラクスは、長いドレスを身に着けていたからだ。 「ああ」 キラの言いたいことを理解して、ラクスはドレスを脱ぎ始めた。それでも、ミニスカートほどの身ごろが残るのだが。 キラは思わず、赤面してしまったのだった……。 アークエンジェル内の、あてがわれた部屋からは、ストライクがラクスを連れて行くのを見ていた。 アスランにもラクスにも、幸せになってほしかった。 二人は、次世代を照らす『光』なのだから――……。 婚約者同士なのだから。 (これで、良かったんだよね、アスラン……) は、一人だった――……。 キラがアスランの手を振り払い、アスランはキラを撃つと決めたことを。 少女が知らぬうちに、運命の歯車はまたひとつ、時を刻んだ――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+− むしろアスランは、あなたの身を案じてますよ、さん。 もしも今回キャラに何か一言言うなら、まずはこれでしょうか。 そして相変わらず出番のない王子……。 アスランにいたっちゃあ、『俺がお前を撃つ!』をカットです。 まぁ、次あたりに一応入れますけどね、この台詞も。 AAの方々、特にフラガさんが良く出没してくださいます、この話。 好きですけどね、フラガさん。 でも、オチは王子を目指してるのぉぉぉっっ!! なんか最近すっかり名前変換小説化してる気が……。早く甘々にしたいです。 まぁ、甘々書くのも結構苦手なんですけどね。 でも、夢は甘くないとですし……。 がんばります!それと、警告です。次回の話は、フレイスキーの方は本と、読まれないほうがいいと思われます。ご注意くださいね。 |