何でパパが死ななくちゃいけなかったの?

優しかったパパ……。

キラのせいよ。キラのせいだわ。キラが、真面目に戦わなかったから……。

そして――……。

そうよ。あの女のせいだわ。

名前は何ていったかしら。『=』?『=アイマン』?

どっちだって構わない。

だってあの女はザフトの人間で。あいつらがパパを……だから……。



ねぇ、パパ?

パパは私を、褒めてくれるよね?



ヴァルキュリア #08詩曲〜Y〜





――――『キラ、お前も一緒に来い!!お前が何故地球軍にいる!?どうしてナチュラルの味方をするんだ!?』――――

――――『僕も、君となんて戦いたくない』――――

キラの返答に、アスランは一瞬笑みを浮かべかける。

けれどそれも、途中で凍りついた。

キラが続けた、その言葉に。アスランは言葉を、失った。

――――『でもあの艦には守りたい人たちが……友達が乗ってるんだ――……!!』――――

――――『……分かった。なら、仕方ない。次に戦うときは、俺がお前を撃つ――……!!』――――

ああ、あんなに一緒にいたのに。

もう、言葉さえも届かない。

二人の大切なものは、守りたいものはあまりにも違いすぎていて。その違いは、決して同じ軌跡を描いたりはできないから。

それが二人の、現実だった――……。

あんなに、一緒だったのに……。


*                     *



研ぎ澄ましてきた復讐の刃が、徐々に鈍っていくような気がするのを、は感じていた。

ナチュラルなど、大嫌いだった。一人残らず殺してしまえ!!そう思えるほど。それほどの憎悪は、哀しみは深かったから。

けれど、アークエンジェルのクルーたちは『妙』だった。

彼ら――特に同年代の、キラの友人たち――には、コーディネイターに対する偏見もそうなかった。特にミリアリアとか言うナチュラルの少女は、がザフトのパイロットと知っても、何くれとなくによくしてくれた。

ナチュラルからの情けなど受けられるか!!と最初は撥ね付けていたも、最近ではそれにすっかり馴染んでいた。

『ナチュラル=(イコール)ブルー=コスモス』それはの中で、確固とした定理だった。それが揺らぐ日が来るなんて……。

死んだ兄に申し訳ないような気がして、は項垂れる。



……ブルーコスモスによって両親が殺されたのは、がまだ八歳の頃だった。も、まだ十五歳だった。

一般的にコーディネイターは、十三歳で大人と認められる。

しかし、いくら大人と認められても、とてまだ十五の子供だった。それなのに、を育ててくれたのだ。それこそ大切に、大切に。

確かに、家には両親が遺した遺産があった。しかしそれでも、を育てると決めたことで、はいろいろなものを犠牲にした筈だ。

を育てないと決めて、施設にでも預けたほうが、はるかに楽だった筈だ。

それなのには、を慈しんでくれた。優しくしてくれた。

そんなを、大切な大切な最愛の兄を、ナチュラルは殺した……。

(ゴメンね、兄さん。ゴメンね。悪い子で。どうしようもない子で。兄さんの仇すら満足に討てない不出来な妹で……)

『青春を軍隊に捧げる』第三者が聞けば、なんてこの子は不幸なのだろう、とでも言うのだろう。けれどにしてみれば、兄のほうがよほど不幸だったのだから、と思う。

を育ててくれた兄のほうが、はるかに大変だった筈なのだから……と。だからは誓ったのだ。必ず兄の仇を討つ、と。そうでなければ、兄の苦労にとても報いきれない気がして……。

(なのにわたしは今、ここにいる。そしてミゲル兄さんを殺した人間すらも、殺せていない。何が『鋼のヴァルキュリア』よ。本当になんて情けない……)

自分が、情けなかった。

コテン、とは簡易ベッドに横になった。

そのまま、目を瞑る。


眠りは、恐らく浅いだろう。そして見る夢は、悪夢に決まっていた――……。


*                     *



「ミリアリア、それ、あの子のところに持っていくの?」

「そうよ」

「私に持って行かせてくれない?あの子、私と同じ年でしょう?仲良くなりたいの」

「え……?」

フレイの提案に、ミリアリアは戸惑ってしまった。

フレイは、あんなにもコーディネイターを嫌っていたのに……。

けれどフレイが、真実そう思ってくれているならそれは、嬉しいことだ。それにミリアリアには、艦の仕事もある。面倒を見切れない場合も出てくるだろう。フレイが手伝ってくれるなら、あの『』という少女に寂しい思いをさせることもなくなる。

「じゃあ、お願いね、フレイ」

「分かったわ」

結果的にミリアリアは、フレイの真意を見失ってしまったことになる。

フレイがミリアリアに、のもとへ食事を持っていくことを申し入れたのは、決してのためでもミリアリアのためでもなかった。

けれどそんな真意など、ミリアリアには分かりはしない。

ミリアリアはフレイに、食事の入ったトレイを渡してしまった……。


*                     *



扉の開く気配に、は目を覚ました。

は軍人だから。些細な変化で目を覚ますことができるよう、訓練されている。これも一種の、職業病なのかもしれない。

現れたのは、普段に食事を運んでくれるミリアリアという少女ではなく、赤毛の綺麗な少女だった。

「あ……有難うございます……」

初対面の人間に対して、はつい臆してしまう。今回の場合も、そうだった。

食事を受け取り、少女に対して背を向けた。

油断……確かにそれもあったのだろう。は、コーディネイターだから。そうそうナチュラルに後れをとることはない。

が後ろを向いたその時、フレイは隠し持っていた果物ナイフを手に、突進した。

それを察しては振り返り、即座に臨戦態勢をとろうとする。しかしその時、強烈な痛みを感じて、の動きが鈍った。ストライクの攻撃を受けたときに負った傷がまだ、完全に癒えていなかったのだ。

腹部の辺りに、熱を感じた。

熱い何かが、這い上がってくる。――血だ。

「アンタが……アンタがいけないのよ。アンタがパパの艦を沈めたりするから……!!コーディネイターなんて誤った存在のクセに!!」

「……ふざけるな……っっ!!」

少女の言葉には、少女が自分たちが沈めた先遣隊の関係者なのだろう、と思った。

痛ましいとは、思う。大切な人が死ぬ悲しみは、だって良く知っている。そしては、その悲しみゆえに剣を取ったのだから。

けれど少女の発言は、決しての許せるものではなかった。

「何が誤った存在だ……!!そもそもそのコーディネイターをこの世に生み出したのは誰だ……!!貴様たちだろう!!貴様たち、ナチュラルだろうっっ!!」

はキッ、と相手を睨みつけた。

その唇からは、大量の血が溢れ出す。

腹部からの出血は足を伝い、白いミニスカートを紅く染め上げている。そしてその足元には、血溜りができていた。

苦しい……痛い……辛い……倒れそう……。

血の気が引いていくのを、は感じた。けれど、屈することはできない。彼女の同胞を『誤った存在』という少女の前で倒れることは、のプライドが許さない。

「私の両親は……穏健派で、ナチュラルたちと何とか協調しようと必死だった……。なのに貴様らは、そんな私の両親を……!!父様と母様を騙し討ちにして殺した……!!」

「おいっ!!どうした!?」

「兄さん……兄様は争いの嫌いな人で、両親が死んだあと、まだ十五だったのに、当時八歳だった私を育ててくれた……。
貴様らはそんな兄様を……兄様のいたプラントを……!!非武装のプラントに核を打ち込んだのはどちらだ!?
私たちの思いを裏切り、私たちを酷使したのは!?
貴様らだろう!!貴様らナチュラルだろう!!何がコーディネイターは誤った存在だ!?
それもそもそもは、貴様らの罪ではないか!!」

意識が、途切れそうになる。

腹部をおさえ、前屈みになりながらは、それでも相手を睨みつける。

「何よ……!!なんなのよ、アンタは……!?アンタがパパを殺したんじゃない!!返してよ!!パパを返してよ!!」

「私から全てを奪ったのは貴様らだ!!」

「そこで何をしている!?」

誰何の声に、フレイは部屋を飛び出す。

声の主は、フラガだった。他にミリアリアやキラも続く。

の部屋を出たフレイは、そこでフラガにぶつかった。

「何をしていた!?」

「何もしていないわよ!!」

さん!?」

「酷い……」

の足元に広がる血溜りを見て、ミリアリアは言葉を失う。

はもう、立っているのがやっとだった。

キラを、同胞の姿を見て、はうっすらと微笑む。

その唇が、数語の言葉を紡いだ。

「ゴメ……イザー……約束、守れ……」

さん!?」







は、意識を手放していた――……。

同刻、ガモフは執念で持ってアークエンジェルを発見する。

そしてイザーク=ジュールは、アークエンジェルへの攻撃を決定した。

彼の大切な少女を、再びその手に取り戻すために……。





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久しぶりのヴァルキュリア更新です。

しばらくの間微妙にスランプ中でした。

それもヴァルキュリア限定(笑)。

他は書けるのに、なんかヴァルキュリアのみ何度書いても納得いかなくて、何度も書き直し、授業中に必死に構成を練りつつ下書きをしていました。

王子はまた登場してません。喋ってません。

次回は顔面傷つき事件です!!

漸く王子がたくさん書けます。

AA書きながら「そのころガモフは〜」みたいなことをすれば、王子の出番もまだまだ増えた筈なんですけどね……。想像がつかなかったので、書けませんでした。

全然進んでないヴァルキュリアですが、最後までよろしくお願いします。