優しかったパパ……。 キラのせいよ。キラのせいだわ。キラが、真面目に戦わなかったから……。 そして――……。 そうよ。あの女のせいだわ。 名前は何ていったかしら。『=』?『=アイマン』? どっちだって構わない。 だってあの女はザフトの人間で。あいつらがパパを……だから……。 ねぇ、パパ? パパは私を、褒めてくれるよね? 鋼のヴァルキュリア #08狂詩曲〜Y〜 ――――『キラ、お前も一緒に来い!!お前が何故地球軍にいる!?どうしてナチュラルの味方をするんだ!?』―――― ――――『僕も、君となんて戦いたくない』―――― キラの返答に、アスランは一瞬笑みを浮かべかける。 けれどそれも、途中で凍りついた。 キラが続けた、その言葉に。アスランは言葉を、失った。 ――――『でもあの艦には守りたい人たちが……友達が乗ってるんだ――……!!』―――― ――――『……分かった。なら、仕方ない。次に戦うときは、俺がお前を撃つ――……!!』―――― ああ、あんなに一緒にいたのに。 もう、言葉さえも届かない。 二人の大切なものは、守りたいものはあまりにも違いすぎていて。その違いは、決して同じ軌跡を描いたりはできないから。 それが二人の、現実だった――……。 あんなに、一緒だったのに……。 研ぎ澄ましてきた復讐の刃が、徐々に鈍っていくような気がするのを、は感じていた。 ナチュラルなど、大嫌いだった。一人残らず殺してしまえ!!そう思えるほど。それほどの憎悪は、哀しみは深かったから。 けれど、アークエンジェルのクルーたちは『妙』だった。 彼ら――特に同年代の、キラの友人たち――には、コーディネイターに対する偏見もそうなかった。特にミリアリアとか言うナチュラルの少女は、がザフトのパイロットと知っても、何くれとなくによくしてくれた。 ナチュラルからの情けなど受けられるか!!と最初は撥ね付けていたも、最近ではそれにすっかり馴染んでいた。 『ナチュラル=(イコール)ブルー=コスモス』それはの中で、確固とした定理だった。それが揺らぐ日が来るなんて……。 死んだ兄に申し訳ないような気がして、は項垂れる。 ……ブルーコスモスによって両親が殺されたのは、がまだ八歳の頃だった。も、まだ十五歳だった。 一般的にコーディネイターは、十三歳で大人と認められる。 しかし、いくら大人と認められても、とてまだ十五の子供だった。それなのに、はを育ててくれたのだ。それこそ大切に、大切に。 確かに、家には両親が遺した遺産があった。しかしそれでも、を育てると決めたことで、はいろいろなものを犠牲にした筈だ。 を育てないと決めて、施設にでも預けたほうが、はるかに楽だった筈だ。 それなのには、を慈しんでくれた。優しくしてくれた。 そんなを、大切な大切な最愛の兄を、ナチュラルは殺した……。 (ゴメンね、兄さん。ゴメンね。悪い子で。どうしようもない子で。兄さんの仇すら満足に討てない不出来な妹で……) 『青春を軍隊に捧げる』第三者が聞けば、なんてこの子は不幸なのだろう、とでも言うのだろう。けれどにしてみれば、兄のほうがよほど不幸だったのだから、と思う。 を育ててくれた兄のほうが、はるかに大変だった筈なのだから……と。だからは誓ったのだ。必ず兄の仇を討つ、と。そうでなければ、兄の苦労にとても報いきれない気がして……。 (なのにわたしは今、ここにいる。そしてミゲル兄さんを殺した人間すらも、殺せていない。何が『鋼のヴァルキュリア』よ。本当になんて情けない……) 自分が、情けなかった。 コテン、とは簡易ベッドに横になった。 そのまま、目を瞑る。 眠りは、恐らく浅いだろう。そして見る夢は、悪夢に決まっていた――……。 「ミリアリア、それ、あの子のところに持っていくの?」 「そうよ」 「私に持って行かせてくれない?あの子、私と同じ年でしょう?仲良くなりたいの」 「え……?」 フレイの提案に、ミリアリアは戸惑ってしまった。 フレイは、あんなにもコーディネイターを嫌っていたのに……。 けれどフレイが、真実そう思ってくれているならそれは、嬉しいことだ。それにミリアリアには、艦の仕事もある。面倒を見切れない場合も出てくるだろう。フレイが手伝ってくれるなら、あの『』という少女に寂しい思いをさせることもなくなる。 「じゃあ、お願いね、フレイ」 「分かったわ」 結果的にミリアリアは、フレイの真意を見失ってしまったことになる。 フレイがミリアリアに、のもとへ食事を持っていくことを申し入れたのは、決してのためでもミリアリアのためでもなかった。 けれどそんな真意など、ミリアリアには分かりはしない。 ミリアリアはフレイに、食事の入ったトレイを渡してしまった……。 扉の開く気配に、は目を覚ました。 は軍人だから。些細な変化で目を覚ますことができるよう、訓練されている。これも一種の、職業病なのかもしれない。 現れたのは、普段に食事を運んでくれるミリアリアという少女ではなく、赤毛の綺麗な少女だった。 「あ……有難うございます……」 初対面の人間に対して、はつい臆してしまう。今回の場合も、そうだった。 食事を受け取り、少女に対して背を向けた。 油断……確かにそれもあったのだろう。は、コーディネイターだから。そうそうナチュラルに後れをとることはない。 が後ろを向いたその時、フレイは隠し持っていた果物ナイフを手に、突進した。 それを察しては振り返り、即座に臨戦態勢をとろうとする。しかしその時、強烈な痛みを感じて、の動きが鈍った。ストライクの攻撃を受けたときに負った傷がまだ、完全に癒えていなかったのだ。 腹部の辺りに、熱を感じた。 熱い何かが、這い上がってくる。――血だ。 「アンタが……アンタがいけないのよ。アンタがパパの艦を沈めたりするから……!!コーディネイターなんて誤った存在のクセに!!」 「……ふざけるな……っっ!!」 少女の言葉には、少女が自分たちが沈めた先遣隊の関係者なのだろう、と思った。 痛ましいとは、思う。大切な人が死ぬ悲しみは、だって良く知っている。そしては、その悲しみゆえに剣を取ったのだから。 けれど少女の発言は、決しての許せるものではなかった。 「何が誤った存在だ……!!そもそもそのコーディネイターをこの世に生み出したのは誰だ……!!貴様たちだろう!!貴様たち、ナチュラルだろうっっ!!」 はキッ、と相手を睨みつけた。 その唇からは、大量の血が溢れ出す。 腹部からの出血は足を伝い、白いミニスカートを紅く染め上げている。そしてその足元には、血溜りができていた。 苦しい……痛い……辛い……倒れそう……。 血の気が引いていくのを、は感じた。けれど、屈することはできない。彼女の同胞を『誤った存在』という少女の前で倒れることは、のプライドが許さない。 「私の両親は……穏健派で、ナチュラルたちと何とか協調しようと必死だった……。なのに貴様らは、そんな私の両親を……!!父様と母様を騙し討ちにして殺した……!!」 「おいっ!!どうした!?」 「兄さん……兄様は争いの嫌いな人で、両親が死んだあと、まだ十五だったのに、当時八歳だった私を育ててくれた……。 貴様らはそんな兄様を……兄様のいたプラントを……!!非武装のプラントに核を打ち込んだのはどちらだ!? 私たちの思いを裏切り、私たちを酷使したのは!? 貴様らだろう!!貴様らナチュラルだろう!!何がコーディネイターは誤った存在だ!? それもそもそもは、貴様らの罪ではないか!!」 意識が、途切れそうになる。 腹部をおさえ、前屈みになりながらは、それでも相手を睨みつける。 「何よ……!!なんなのよ、アンタは……!?アンタがパパを殺したんじゃない!!返してよ!!パパを返してよ!!」 「私から全てを奪ったのは貴様らだ!!」 「そこで何をしている!?」 誰何の声に、フレイは部屋を飛び出す。 声の主は、フラガだった。他にミリアリアやキラも続く。 の部屋を出たフレイは、そこでフラガにぶつかった。 「何をしていた!?」 「何もしていないわよ!!」 「さん!?」 「酷い……」 の足元に広がる血溜りを見て、ミリアリアは言葉を失う。 はもう、立っているのがやっとだった。 キラを、同胞の姿を見て、はうっすらと微笑む。 その唇が、数語の言葉を紡いだ。 「ゴメ……イザー……約束、守れ……」 「さん!?」 同刻、ガモフは執念で持ってアークエンジェルを発見する。 そしてイザーク=ジュールは、アークエンジェルへの攻撃を決定した。 彼の大切な少女を、再びその手に取り戻すために……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+ 久しぶりのヴァルキュリア更新です。 しばらくの間微妙にスランプ中でした。 それもヴァルキュリア限定(笑)。 他は書けるのに、なんかヴァルキュリアのみ何度書いても納得いかなくて、何度も書き直し、授業中に必死に構成を練りつつ下書きをしていました。 王子はまた登場してません。喋ってません。 次回は顔面傷つき事件です!! 漸く王子がたくさん書けます。 AA書きながら「そのころガモフは〜」みたいなことをすれば、王子の出番もまだまだ増えた筈なんですけどね……。想像がつかなかったので、書けませんでした。 全然進んでないヴァルキュリアですが、最後までよろしくお願いします。 |