何故、私は見てしまったの?

被弾し、離脱していく、]-102“デュエル”。

搭乗者は、イザーク=ジュール。

綺麗な銀髪と、冷たいアイスブルーの双眸を持つ人。

その外見のままに冷たいかと思いきや、本当はとても優しい人。

私を、甘えさせてくれた人。

兄さんたちを除けば、そんな人は初めてで……戸惑ったけれど。

二つ年上のその人は、大好きだった兄さんの面影を宿したその人は、私に優しくて……。

ねぇ、イザーク。

あなたは、死なないって言ったよね?

私はちゃんと、生きてるよ?死のうと考えたりもしたけど、私は生きてる。あなたとの約束のためにも、生きようとしている。

それなのにあなたは、兄さんと同じように死んでしまうの……?

イザーク……!!イザーク……!!イザーク……!!

お願いだから、死なないで。

もう、誰も失いたくはないの……。

お願いだから。

私を、一人にしないで……。




ヴァルキュリア #08詩曲〜[〜




「イザークっ!!イザークっ!!イザークッッッ!!」

医務室に響くのは、の悲鳴だった。

見て、しまったのだ。

デュエルが、被弾するのを。そしてそのまま、離脱していくのを。それも、ブリッツ、バスターに支えられて。

戦争では、兄とも慕うミゲルを失った。

そしてまた……今度はイザークをも、失うというのか。神は、どこまでを苦しめたら気が済むというのか。

最早、一刻の猶予もなかった。

ザフトに、帰りたかった。

を待つ、温かい人たちのいる場所に。

そこにはきっと、アスランがいて。ニコルがいて、ディアッカもいて。きっと、イザークもいる筈だ。アスランやニコルやディアッカは、に『大変だったな(でしたね)』と言って労ってくれるだろう。イザークは、あの端正な顔に皮肉な笑みを浮かべて、『死ぬことだけは何とか避けられたみたいだな』ぐらい言ってくれるかもしれない。

帰りたかった。

ザフトに、同胞たちのいる場所に、帰りたい……。

は、ペンダントを握り締めた。

写っている、兄の写真。優しく微笑む、その人。

「兄さん……兄さん……兄さん……!!お願いだから……お願いだから……イザークを守って……!!」



*                     *




鼻をつく、消毒液の匂い。

その匂いで、イザークは自分のいる場所が、医務室であることを知った。

衛生兵が、彼の前に立っている。

目を覚ますと同時に、彼は屈辱を思い出した。

そう。敵の、おそらくナチュラルを相手に後れを取り、傷を負い、そしてを……!!

を、取り戻せなかった。おそらく足つきは、今頃艦隊と合流しているだろう。地球軍に恨みを買う少女は、処刑すらもありえたと言うのに……!!

を取り戻せない……!!

この腕の中で、兄を失い泣いた少女を。イザークを庇い、自ら傷を負った少女を。大切な、大切な。彼の愛する少女を……!!

――――……!!」

ダン、とベッドを殴りつける。

包帯の巻かれた、顔。まだ手術はされておらず、右頬を伝う血が、不快だった。

ぬるりとした、感触。

思い出す、屈辱。

「だめですよ、まだ安静に……」

「傷はどうなる!?」

「今の技術でしたら、消すことも可能です」

「消すな!!いいか、絶対に消すなよ!?」

この屈辱を、忘れない。

守れなかった屈辱を。

後れをとった屈辱を。

決して忘れない。

そして、この傷に誓おう。

は、必ず取り戻す。

そして今度こそ、離さない。

大事に大事にこの腕の中で守ってみせる。

例え地球軍全てを殺しても……!!

だけは、だけは守ってみせる。必ず救い出す。

そしてもし……もしもが害されたならそのときは。必ず地球軍は殺してやる。全員、殺してやる。

特にあのパイロット。ストライクのパイロットは……!!

許さない。許せる筈がない。を……を虜囚の身に貶めたあの機体は……!!

(必ず……必ず救い出す……!!)

それを自らに誓う。

この痛みに、この傷に。







イザークは結局、痛み止めなしに手術を受けた。

想像を絶する苦痛の中、彼は気を失わず、声も上げなかった。

ただ、固く握り締められた拳を、爪が食い込んだ。噛み締めた唇が切れた。そこが出血しただけで。

彼は苦痛に耐えた。

端正なその顔に残るであろう、醜い傷。

けれどこの痛みは忘れない。

この血の味は、忘れない。

大切な少女を救えなかった痛みは。

ナチュラルごときに後れをとった痛みは。

そしてこの手術の痛みは。

この血の味とともに――……!!



傷ついたプライド。

その全てでもって必ず。

(必ず救ってみせる、……!!だから、生きていろ……!!)

イザークは、己が耳に触れた。

そこにしたピアスの、固い感触。

と交わした約束が、彼の今のよすがだった。

俺は、生きている。

この約束のために……。

だから、お前も……。

生きていてくれ……。

ベッドに横たわり、イザークは目を閉じた。

出撃のために、体力は温存しなくてはならない。

今度こそ。今度こそ必ず救い出すから……。

イザークは、祈った。

大切な少女の、無事を――……。





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前回が少し長すぎたので、今回はやや短めになりました。

イザークが傷を負って、出撃するまでの間ってあまり話がないよな、と思ったので、自分で書いてみました。

結果は……イザーク怖っっ!!

になってしまいました。

少しトホホな感じです。

でも、イザークの想いみたいなのは出せたんじゃないかなぁ、と思います。ていうか、思いたいです。

『狂詩曲』は、大気圏降下までと考えています。

後半分くらいかかりそうですね、このペースじゃあ。

何とか、十五話以内に収めたいです。

それでは。ここまで読んでくださって、有難うございました。