『戦う』ということ。

『戦争をする』ということ。

それは全て、私の中で一つのものへと収斂される。

私にとって、全ては『復讐のため』だった。

兄を殺した、ナチュラルが許せなかった。

両親の顔なんて、私は余り覚えていない。

私の知っている『両親』は、兄が教えてくれたものであり。もしくは、たくさんのビデオテープに保存されたものの中の、記憶に過ぎなかった。

そんな私にすれば、兄こそが親のようなものだった。

いつも、限りない愛情を注いでくれた。

私のかけがえのない、大切な人。

そんな兄を、ナチュラルは殺した。

それも核兵器などという、非人間的な兵器で。

『戦う』ということ。

『戦争をする』ということ。

それは全て、『復讐のため』に――……。





ヴァルキュリア
#11 想曲〜U〜






藍を流したような空に、青白い月が輝いていた。

今夜は、満月だ。

けれどそこに立つ男には、月の美しさなど、さして愛でるものでもなかった。

宇宙生まれ、宇宙育ちのコーディネイター。

彼らにとって、月とは常に身近の存在だった。

そしてそうであるが故に、実物がさほど美しくないことも知っている。

月の美しさも全て、地球という青い惑星を覆う大気の生み出した、奇跡の一つと言ってもいいだろう。

「どうかな?噂の大天使の様子は」

「はっ!依然、何の動きもありません」

上官に問われ、赤外線スコープを覗き込む赤毛の青年――マーチン=ダコスタ――はそう答えた。

然もありなんといった調子で上官は頷く。

「地上はNジャマーの影響で、電波状況がメチャクチャだからな。彼女はいまだ、スヤスヤとお休みか」

『血のバレンタイン』における地球軍の核攻撃。ザフトはそれに対する報復攻撃の一環として、『オペレーション=ウロボロス』を発動した。

赤道上の地球軍の宇宙港を制圧し、ナチュラルを地球に閉じ込めるために。

それに先立ち、ザフトが散布したもの。それがニュートロンジャマー――通称Nジャマー――だった。

Nジャマーは、ありとあらゆる核分裂を抑止する。

これにより、地球は深刻なエネルギー危機に陥った。

掘り尽くされた化石燃料。

エネルギーの枯渇した地球。

ザフトの散布したNジャマーは、全ての核分裂を抑止する。

その中には当然、原子力も含まれていた。

今地上では、電波も原子力も使用することはできない……。

ダコスタの後ろに立つ上官は、片手に持ったマグカップに口をつけた。

そして、「んっ!?」と表情を変える。

何事か起こったかと、ダコスタはまた、赤外線スコープを覗き込む。

しかし上官は満足そうに、その端正な顔をほころばせた。

「いや、今回はモカマタリを5%減らしてみたんだがね。これはいいな」

「はぁ……」

いきなり飲んでいるコーヒーの感想を口にする上官に、ダコスタはがっくしとなる。

彼の上官のひそかな趣味が、オリジナルコーヒーのブレンドだった。

別に趣味なら趣味でいい。

しかし、時と場所を考えろよ、と言いたくもなる。



上官は滑るように砂丘を下ってていく。

慌ててダコスタも、その後をついていった。

静かな、夜。

月の光を受けて、この世のものとは思えぬほど、白く輝く砂丘。

しかし男が向かった先にあるものは、全く以ってこんな夜に似つかわしくないものだった。

巨大な機体。

ヘリコプターに、バギー。

そして、火薬……。

男の姿を見て、動き回っていた男たちが一斉に整列し、敬礼した。

その目にあるのは、隊長である男に対する、絶対的な信頼――……。

「ではこれより、地球軍新造艦“アークエンジェル”に対する作戦を開始する。目的は戦艦、及び搭載モビルスーツの戦力評価である」

「倒してはいけないのでありますか?」

「ん〜。その時はその時だが……。
あれはついにクルーゼ隊が仕留められず、ハルバートンの第八艦隊がその身を犠牲にしてまで地上に降ろし、『ヴァルキュリア』を捕虜としたほどの艦だぞ。
それを忘れるな。……一応な」

最後に付け加えられた『一応』の一言に、兵士たちは笑みを浮かべた。

どの顔にも、漲る自信が透けて見える。

上官と兵士の間には、ゆるぎない連帯感がある。

彼がもしも、コーヒーにしか脳のない人物ならば、ここまでの信頼を勝ち取ることはできなかっただろう。

しかし彼には、もう一つの顔があった。

それは、ザフト軍地上部隊における屈指の名将、そして名パイロットとしての顔である。

男の名は、アンドリュー=バルトフェルドという……。

『捕虜』の一言に、やや不安を覚えたらしい兵士の一人が、小さく尋ねた。

尋ねるのは当然、彼らのヴァルキュリアの安否だ。

「我らが『ヴァルキュリア』は……?」

「彼女は今、“アークエンジェル”を脱出してジブラルタル基地にいるそうだ」

「ご無事……なんですね」

ほっとしたように、別の兵士が呟く。

彼らにとって、『ヴァルキュリア』は決して他人ではない。

一緒に戦ったこともある、謂わば同志だった。

当然、そんな彼らにして見れは、許せることではなかった。

彼らの『ヴァルキュリア』を捕らえ、虜囚の身に貶めた存在は。

その認識が、全員の士気を上げる。

「では、諸君の無事と健闘を祈る!」

バルトフェルドのその声を合図に、兵士たちは表情を引き締め、彼らの上官に敬礼する。

バルトフェルドもまた、片手を挙げて返礼した。

そこへ、ダコスタの号令が響く。

「総員、搭乗!」

途端に兵士たちは四方に散った。

それぞれ、己が愛機に乗り、コックピットに収まる。

バルトフェルドもまた、ダコスタの運転する指揮車に乗り込んだ。

「うん。コーヒーがうまいと気分がいい。さあ、戦争をしにいくぞ」

瞬間、のんきそうに見えた男の瞳に、物騒な光がちらついていた……。



*                       *




眠い目を擦りながら、トール=ケーニヒはのそのそと軍服に袖を通していた。

「んもう。ちゃんと着なさいよ」

「ん〜……」

「そんな顔でブリッジに入ったら、バジルール中尉に怒鳴られるわよ」

しっかりもののミリアリアがたしなめるように言い、トールの服装を整える。

当直の時間になり、ブリッジに向かう二人は、丁度サイの声を耳にし、そこに立ち止まった。

「フレイ?……こんな遅くにごめんよ。でも、あの。二人で話す時間、なかなか取れなくて……。昼間のことなんだけどさ……。なぁ、ちょっと起きてきてくんないかな」

いくらサイが声をかけても、フレイの寝棚が動く気配はない。

トールとミリアリアは、そのままそこを離れた。

その様子を見ていたトールが、ボソリと呟いた。

「婚約者だったってのも驚いたけどな」

「婚約者じゃないわよ。まだ、話だけだって」

「同じようなもんじゃん」

トールの返答に、ミリアリアは少し、顔を俯けた。

「……フレイ、変だったわよね。前はキラのこと、嫌ってたってわけじゃないけど……」

「コーディネイターが嫌いなんだろ」

トールは、いとも簡単にそう言う。そんなトールを、ミリアリアは軽く睨みつけた。

だが確かに、トールの言うとおりだ。

フレイは、コーディネイターが嫌いだった。

キラのことも、これまで面と向かって嫌悪を示すことはなかったが、明らかに距離を置いていた。

そんなフレイが、かいがいしくキラの看病をする。

それが真実フレイの本心であれば、それに過ぎたことはない。

けれどミリアリアは、知っている。

父親を殺された恨みゆえに、フレイがコーディネイターでザフトでもある捕虜の少女を、刺したことを。

「フレイって1級下じゃん。でもお前とサークル一緒だったし、構内でもよく見かけてさ。キラ、可愛いなって言ってたんだ……。変なふうにならなきゃいいけどな」

「そうね……」

ミリアリアはそう、呟いた。

そう、呟くしかできなかった――……。

二人がブリッジに入ったそのとき。

突如、アラートが鳴り響いた。

「本艦、レーザー照射されています。――照合……測定照準と確認!」

その意味するところは、明らかだった。

誰かが、こちらを撃とうとしている。それしか、ありえなかった。

そしてその誰かとは――敵に、決まっていた……。



*                     *




ストライクは、カタパルトを射出し、砂漠に躍り出た。

重力という、なれない環境下に置かれたストライクは、発進した瞬間、大きく体をかしげた。

バランスを崩したストライクに、ヘリが殺到し、砲火を浴びせる。

「バクゥを出せ。反応を見たい」

指揮車から赤外線スコープで戦闘を見ていたバルトフェルドがそう命令する。

その命令を受け、砂丘からバクゥが姿を現した。

キャタピラを駆動させ、砂丘を疾駆するバクゥは、宙を飛び上がり、着地したときにはシルエットを変え、四本足で大地を踏みしめていた。

そのまま、ストライクにミサイルを撃つ。

衝撃に、ストライクは砂漠に片膝をついた。

そのストライクに、なおも砲火は浴びせられている。

「TMFA802。ザフト軍モビルスーツ、バクゥと確認!」

機種を特定したサイがそう言うと、ブリッジは緊張に包まれた。

人型の機体は、宇宙ではさして不利にはならない。

けれどこの環境においては、圧倒的な不利を被ることになった。

敵の機体は、圧倒的なまでの運動量でもって、ストライクに迫る。

「宇宙じゃどうだったか知らないがなぁ」

「ここじゃこのバクゥが王者だ!」

嘲笑すらもにじませて、バクゥのコックピットでパイロットは哂った。

人型と、四足。

重力になれない機体と、重力下において性能を発揮する機体。

地の利も何もかもが、相手のほうにあった。

「スレッジハマー、撃て!」

「ストライクに当たります!」

「PS装甲がある!」

CIC管制席で、ナタルは苛立ちの声を上げた。

現状を打開するために発進させた、ストライク。

けれどこのままでは、ストライクはただの的だ。

何の役にもたちやしない。

けれど、ストライクにはPS装甲がある。

そしてPS装甲は、実態弾ならば無効にすることができるのだ。

それを利用しない手は、ない。

「命令だ!あれでは、どうにもならん!」

「……了解!スレッジハマー、撃ちます!」

“アークエンジェル”は、艦尾ミサイルにスレッジハマーを装填し、発射した。

バクゥは、いとも容易くそれを避ける。

しかしストライクは、それを避けられない。

「うあうっっ!」

次々とミサイルが直撃する。

いくらPS装甲があるとはいえ、衝撃がないわけでも、ダメージを食らわないわけでもない。

次々と被弾するその衝撃に、息が詰まりそうだった。

「あ〜らら。パイロットに優しくない指揮官だな。それとも、信頼しているのか?」

その様子を赤外線スコープを通してみていたバルトフェルドが、そう呟く。

相手との間に絶対的な信頼がなければ、味方を撃つなどということは出来ない。

なぜならば、その行為によって、両者の間に軋轢が生じるからだ。

確かに、PS装甲があるとはいえ、衝撃はモロに食らうだろう。けれどその衝撃は、何も肉体に対するだけのものではない。どちらかというと、精神的に衝撃を与えられるのだ。

味方に撃たれた、と。

信じていたものに裏切られた。信じていたものは、自分を犠牲に捧げた、と。

指揮官である前に戦士であるバルトフェルドは、その心の動きが良く分かるのだ。

ストライクは砂漠を蹴って飛び上がり、照準を合わせてアグニを撃つ。

けれどバクゥはそれを容易く避け、逆にストライクにミサイルを浴びせる。

避けきれずに、ストライクは直撃を受ける。

その、繰り返し。

「確かに、いいモビルスーツだ。パイロットの腕も、そう悪くはない。……が、所詮人型。この砂漠で、バクゥには勝てん」

アグニを撃ちながら、キラの指は常人にはありえないスピードでキーボードを叩いていた。

「接地圧が逃げるんなら、合わせりゃいいんだろ!逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性をマイナス20に設定……!」

ストライクが、着地した。

今度は体勢を崩さず、大地を確かに踏みしめる。

「いい加減に!」

叫んで、バクゥはストライクに襲い掛かる。

キラはモニター越しに相手を睨みつけた。

ストライクの身を沈め、襲ってきたバクゥをかわし、回し蹴りを食らわせる。

背後から襲ってきたバクゥをアグニの銃床で倒し、倒れたその機体を足で踏みつける。そのまま銃口を突きつけ、トリガーを引いた。

「この短時間に、運動プログラムを砂地に対応させた……?あれが本当に、ナチュラルか?」

戦闘を行いながら運動プログラムを書き換えるなど、コーディネイターであっても至難の業だ。

それを、目の前のパイロットはやってのけたのだ。

この不利な戦況の渦中にあって。

面白い。

「レセップスに打電だ。敵戦艦を主砲で砲撃させろ」

バルトフェルドの命を受けて、彼の母艦であるレセップスは、アークエンジェルに対して砲撃を開始した。

「南西より熱源接近!砲撃です!」

「離床!緊急回避!」

大量の砂を巻き上げ、アークエンジェルはその身を浮かせる。

敵戦艦から発射されたミサイルが、周囲の砂地に着弾した。

振動が伝わり、艦が大きく揺れる。

「どこからだ!?」

「南西、20キロの地点と推定!」

ナタルの問いに、サイが答える。

そしてトノムラが、

「本艦の攻撃装備では、対応できません!」

暗然たる、それは事実だった。

レーダーで捉えることができない以上、敵戦艦を捉えることはできない。

そして敵戦艦の正確な位置が分からない以上、ミサイルをそこまで誘導することができないのだ。

「くっ……」

悔しそうに、ナタルは唇を噛み締めた。

そこへ、スカイグラスパーに搭乗した、フラガからの通信が入った。

<俺が行って、レーザーデジネーターを照射する。それを照準に、ミサイルを撃ち込め!>

「今から索敵しても、間に合いません!」

<やらなきゃならんだろうが!それまで、当たるなよ!>

ナタルの抗議を、フラガの反論が封じる。

そう。

確かに、やらなければならない。死にたくなければ、間に合わないと分かっていても、それをやらねばならないのだ。

捨て台詞のような言葉を残し、フラガの乗るスカイグラスパーは飛び立っていった。

その機影が視界から消えて暫く後に、ブリッジに、再びミサイルの接近を知らせる声が響いた。

「第2波、接近!」

「回避!総員、衝撃に備えよ!」

マリューの声に、絶望に満ちた声が重なる。

「直撃、来ます!」

ストライクに搭乗するキラは、そのミサイルが描く軌跡をその目で捉えていた。

いくらラミネート装甲が施されている機体とはいえ、ミサイルの直撃をすべて受ければ、アークエンジェルはただでは済むまい。

キラは体内で、何かが弾けるのを感じた。

視界が、クリアーになったような気がする。

キラの目は、モビルスーツの動きを。そして飛び交うミサイルの動きを、正確に捉えていた。

肩のバルカンでバクゥを牽制しながら、正面から襲い掛かる敵を蹴倒す。

そしてキラは、アグニを構えた。

正確に照準を合わせ、トリガーを引き絞る。

砲口から迸る熱線が、アークエンジェルに着弾する直前にみさいる打ち落とす。

驚愕にブリッジが、そしてバルトフェルドが目を見張る間にも、艦砲は次々と打ち落とされ、夜空を赤々と照らし出した。

「こいつ!」

バクゥの攻撃が、再開された。

キラは目の前の敵に、砲口を向ける。

しかしそのとき、突如アラートが鳴り響いた。

はっとして、キラはエネルギーゲージに目をやった。

危険域に、レッドゾーンに近づいている。

「アグニを使いすぎたか!?くそっ……!」

バクゥはまだ三機残っている。

それだけではない。

攻撃用ヘリもまだ、残っているのだ。

しかしこれだけのエネルギーでは、とても戦えない。

「情報では、そろそろパワーダウンの筈だ。悪いが、沈めさせてもらう。……メイラムの仇だ」

赤外線スコープを手に、バルトフェルドは呟く。

それは先ほど、キラの攻撃によって命を奪われた、バクゥのパイロットの名だった……。



*                     *




バクゥが放つミサイルが、ストライクに命中する。

いくら避けても、その全てを避けきれるわけではない。

被弾するたび、エネルギーはレッドゾーンに近づいていく。

「援護を!アークエンジェル、微速前進!」

「危険です!この状況で撃てば、ストライクの装甲も、パワーダウンします!」

「くっ……!」

見るに見かねたマリューが、ストライクへの援護を命じるが、ナタルによって却下された。

しかし確かに、ナタルの言うとおりだ。

このままでは、アークエンジェルの援護によって、ストライクの装甲がダウンしてしまう恐れがある。

何と言う、矛盾だろう!

肩で息をしながら、キラは死を意識した。

助かるとは、到底思えなかった。

敵は、撤退を許してくれそうにはない。アークエンジェルの援護も、期待できない。こうしている間にもミサイルは被弾し、PS装甲のバッテリーを奪っていく……。

上空からストライクめがけて発射されたミサイルが、ストライクに着弾される前に地上からの攻撃によって叩き落された。

砂丘の向こうから、数台の戦闘バギーが現れる。

そのうちの一台がストライクに走りより、ワイヤを発射した。

いきなりの介入に、わけの分からないキラに、少女の声が話しかけてくる。

<そこのモビルスーツのパイロット!死にたくなければ、こちらの指示に従え!>

ワイヤをアンテナとして経由し、通信を行う機械なのだろうか。

モニター上に、情報が割り込んでくる。

このあたりの地図らしい。地図の中の一点が、赤く点滅している。

<そのポイントにトラップがある。そこまでバクゥをおびき寄せるんだ!>

「何だ!?」

「レジスタンス!?」

突然の介入者に驚いたのは、マリューたちも……そしてバルトフェルドも同じだった。

「隊長!“暁の砂漠”の奴らです!」

「地球軍のモビルスーツを助ける気か?」

その正体を知るバルトフェルドは、思わず舌打ちした。

キラもまた、戸惑い、逡巡する。

しかし、迷っている暇はない。

こうしているうちにも、エネルギーはどんどん目減りしていく。

相手が敵か味方かは、分からない。だが少なくとも、ザフトと敵対していることは、確かなようだ。

キラはスラスターを動かし、バーニアをふかす。

重力の制御下にある機体は、何時までも飛び続けることはできない。

何度も着地し、再び飛び立つ。

それを繰り返し、ついにトラップが仕掛けてあるという位置まで辿り着いた。

バクゥは、そんなストライクに追いすがってくる。

キラは少女が言ったポイントに降り立ち、バクゥを振り返った。

信じるしか、ない!

バクゥをひきつけ、その爪がまさにストライクに届こうかというタイミングで、キラは再びストライクを飛び立たせた。

次の瞬間、ストライクが今しがたまで立っていた大地が陥没する。

その様を眺めていた少女が、にやりと笑い、手にしたスイッチを押した。

途端にあがる、爆発。

同時に、ストライクのPS装甲が、落ちた――……。

肩で息をしながら、キラはただ、その光景を見ていた。

何も、感じなかった。

ただその光景が、キラの紫紺の双眸に、映っていただけで……。







「……撤収する。この戦闘の目的は達した。残存部隊をまとめろ」

「了解!」

遠く戦闘を眺めていたバルトフェルドは、ただそれだけを命じた。

今回の戦闘目的は、達した。痛ましい、多大な犠牲を伴って。

一方、アークエンジェルでは、何とか危機一髪の危機を脱したキラに、ただ安堵した。

そのとき、ミリアリアのモニターに、フラガからのレーザー通信が入った。

「フラガ少佐より、入電です。『敵母艦を発見するも、攻撃を断念。敵母艦は“レセップス”。繰り返す。敵母艦は“レセップス”。これより帰投する』以上です」

「“レセップス”!?」

フラガの報告に、マリューは鋭い声を上げた。

その顔にあるのは、深刻な色。

それに気づき、ナタルは問う。

「“レセップス”とは?」

「アンドリュー=バルトフェルドの母艦だわ。……敵は、”砂漠の虎”ということね」

マリューは、明け始めた空を睨みつけた。

まるで、まだ見ぬ敵を睨みつけるように。

そしてそのとき。

マリューと同じような視線を、ストライクに向かって投げかけている少女が、いた。

先ほどキラを助けたレジスタンスの、少女だ。

金の髪を暁の風に靡かせて。

挑むような目で、少女はストライクを睨みつけていた……。

ストライクと“砂漠の虎”が交戦したというニュースは、やがて遠くジブラルタルにまで伝わることとなる……。



*                     *




全てを聞き終え、三人はバルトフェルドのもとへ向かうことを決定した。

自室に、と与えられた部屋のベッドに、は横になる。

何もない部屋だ。

着の身着のまま、ここに辿り着いたからだが……。

今、の手元にあるもので、の物、といえるものは、首に下げているペンダントと、ミゲルから譲られた写真くらいのものだ。

常に身につけているペンダント。そしてミゲルから譲られた写真を、は眺めた。

優しく微笑む、兄。いたずらっ子のような笑みを浮かべている、もう一人の兄。

殺したのは、誰だ?

同胞を殺し、そしてこれからも同胞の血にその手を染めるのは、誰だ?

(君は本当に、分かっているの……?キラ君……)

「戦う」ということ。

「戦争をする」ということ。

その意味を。

同胞を殺めるということを。

現実として、捉えている?

認識している?

けれどそれでも……。

(君は必ず、私が殺すわ……)

ペンダントを、握り締める。

写真に、そっと口付ける。

賽は、投げられたのだ。

そして今度こそ、キラは自ら決め、同胞を殺めた。

今度こそ、言い逃れはできない。

彼はミゲルを殺した。

そしてこれからも、同胞を殺め続ける。ナチュラルの友人のために。親友である筈のアスランを敵にしてでも。

だから……殺さなくてはならない。

起き上がり、は鏡の前に立った。

右手をそっと、その顔にかざす。

手をどけ、軽く目を閉じた。

そして……。

再び目を開けたその時には、漆黒の瞳は、右目だけアイスブルーのそれに変わっていた……。

「兄さんの命令とはいえ、コンタクトは疲れるな……」

さして感慨にふけるでもなく、少女は呟く。

生まれたときから見慣れてきたはずの、自分の顔だ。

今更、驚くことはない。

こつん、とは鏡に軽く額を当てた。

「仇はとるわ。ミゲル兄さん……」

鏡に映る己の姿を、は見る。

くつり、と笑みを浮かべるその顔……その瞳にあるのは、愉悦の笑み。まさしく殺戮者の微笑だった……。

















「戦う」ということ。

「戦争をする」ということ。

私にとってその全ては、ある一つのことに収斂される。

そう。

私にとって全ては、「復讐のため」に――……。





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戦闘シーンは、苦手です。

読まなくても全然大丈夫ですので。

さくっとスルーしちゃってください。

オッドアイって言うものは、可愛くて好きです。

黒と青とか、黒と緑とか、黒と赤とかが好きです。

片目黒で、もう片方が明るい色って、可愛いじゃないですか。

このオッドアイも、ヒロインの今後に大きく関わってくる問題でして。

お兄さんに「命令された」から、カラコン入れて、両目とも黒に見せかけているんですよ。







最近更新遅れ気味です。

ご迷惑をおかけしていますが、長い目で見てやってくださると助かります。

春先は、体調崩しやすいんですよ、私。

この前のイベントで無理させすぎました。体に。

本と、申し訳ないです。