燃えているのは、レジスタンスが仕掛けた地雷源。 これくらいのものを一瞬で葬り去るくらい、ザフトには軽いことだった。 久しぶりに搭乗した、ワルキューレ。 ジンよりも他のどの機体よりも、やはりこの機体は格別だ。 慣らしのために何度か飛ばしたことはあるが、実践で使うのは本当に久しぶりで。 そんな彼女を案じたバルトフェルドが、地雷を全て無効化することを彼女に命じたのだ。 早々に、実践の勘を掴むために――……。 黒煙を巻き上げ、炎が天高く立ち上る。 それを、半ば陶然と少女は眺めていた――……。 鋼のヴァ ルキュリア #12 動物たちの謝肉祭〜後〜 「そうだよ!1号機にランチャー、2号機にソードだ!――なんで、って換装するより俺が乗り換えたほうが早いからさ!」パイロットルームに、キラとフラガはいた。 モニター越しに、フラガは指示を出している。 長期戦になった場合、彼はストライクにバッテリーパックを届ける役目をも担わなければならない。その際、いちいち換装するよりも彼がスカイグラスパーを乗り換えた方が、はるかに時間は短縮されるのだ。 それから彼は、キラのほうを振り返った。 「連中には悪いが、レジスタンスの戦力なんぞ、はっきり言ってアテにならん」 スーツに着替え、ヘルメットを手にするキラに、フラガはそう言う。 「ええ」 「お前も踏ん張れよ。ま、最近のお前さんなら、心配ないとは思うけどな」 「あ、あの!」 キラの前を通り過ぎ、先に行こうとする男に、思わず声をかける。どうしても、尋ねずにはいられなかった。 「さんの、お父さんのこと、何か分かりましたか?」 「……坊主。何度も言うが、敵のことなんて、知らないほうがいいんだ。やりにくくなるぞ」 「分かってます、でも……!」 それでも、気になって仕方がなかった。 『復讐のために戦う』『ナチュラルなど、全て滅ぼしてしまえばいい』それはあまりにもあの少女にそぐわなくて。それなのにそう言い切る少女のその胸の内には、一体何があるのだろう? 「残念だが、俺もまだ、詳しいことは分からん」 「そう……ですか。あ、フラガ少佐!」 「はぁ。今度は何だ?坊主」 「“バーサーカー”って何ですか?知ってます?」 「バーサーカー?そりゃ、なんかの神話に出てくる、狂戦士のことだろ」 キラの質問に怪訝な顔をしながら、今度の質問には、彼は答えた。 「狂……戦士?」 「そう。普段は大人しいのに、戦いになると興奮して、人が変わったように強くなる」 フラガの答えに、キラは言葉を失った。 自分はこれまで、どうやって生き残ってきただろう。それは、敵を殺して生き残ってきたのだ。敵機を落とすことに、無感動になった。機体一隻に一人の命があることも忘れ、無我夢中で敵を殺してきた。 自分こそが、の憎悪を被るに相応しい人間なのかもしれない。誰よりも同胞を思い、同胞のために戦う道を選んだ少女。そんな彼女の同胞を、そして己の同胞を、彼は無感動に殺してきたのだから。 黙りこくるキラに、フラガは案じるような視線をよこす。しかし声をかけるよりも先に、艦内アナウンスが流れた。 出撃の、時間なのだ。 キラはフラガの前を歩き、モビルスーツの元へと向かった――……。 「レ、レーダーにっ!」 舌をもつれさせながら、カズイが敵の襲来を報告する。 その後を、トノムラが引き継いだ。「レーダーに敵機と思しき影!撹乱ひどく、数補足不能!1時半の方向です!」その後を、チャンドラの声が続いた。 「その後方に大型の熱量2!敵空母、及び駆逐艦と思われます!」 レセップスと、おそらくその僚艦だろう。 戦闘用ヘリの影が、モニター越しの肉眼でも感知できる。 「対空、対艦、対モビルスーツ戦闘!迎撃開始!」 「“ストライク”、“スカイグラスパー”発進!」 マリューが敵の艦を睨みつけるように命じると、ナタルがそれに続いて二機の発進を促した。 戦争が、始まるのだ。 多くの命を貪欲に飲み込んで。戦争とは、勝利とはなんと貪欲なことか。どれだけの命をその代価として払えば、気が済むのだろう? けれどそれでも、立ち止まることは出来ない。今こうして生きている。それすらも、多くの犠牲の元にあるのだから。 先にスカイグラスパーが発進し、それにストライクが続く。 装備は、エールだ。 射出された途端に、眼前にヘリが躍り出た。慌てずキラはシールドを掲げてそれを防ぎ、頭部バルカン“イーゲルシュテルン”でそれを撃ち落す。 「チィ!やらせるかよ!」 アークエンジェルに群れるヘリの数に、フラガは毒づく。 艦砲では小回りがきかない。このままではアークエンジェルが狙い撃ちにされてしまう。 フラガはひらりとスカイグラスパーを駆り、擦れ違いざまに二機のヘリを撃ち落した。 レセップスのハッチが開き、バクゥを吐き出す。 「バクゥは何機いるんだ?4……5機か!?」 コーディネイターの良すぎる視力が、即座にバクゥの数をカウントする。 バーニアを吹かし、キラは戦場に向かった。 「バルトフェルド隊長!」 モビルスーツ格納庫の高い天井に、激した少年の声が響く。 声の主は、イザークだった。 「どうして我々の配置が、レセップス艦上なんです!?」 「おやおや。クルーゼ隊では、上官の命令に兵がそうやって異議を唱えてもいいのかね?」 「いえ。しかし……!奴らとの戦闘経験では、俺たちの方が……」 「負けの経験でしょ?」 揶揄するように、アイシャが言う。 元々短気なイザークは、その辛辣な評についカッとなってしまった。 「アイシャ」 「失礼」 バルトフェルドがたしなめるように言うと、アイシャはそういって身を翻す。少しも悪いと思っていないことは、その行動を見れば明らかだ。 バルトフェルドは、二人のよそ者へと向き直った。 「君たちの機体は、砲戦仕様だ。高速戦闘を行うバクゥのスピードには、ついてこれんだろう?」 「しかし!ならば何故、は……!!」 なおも言い募るイザークを、ディアッカが諫める。 「イザーク、もうよせ!命令なんだ。――失礼いたしました」 ディアッカが敬礼するとイザークもそれに倣った。そしてそのまま肩を並べ、己が愛機のほうへ向かう。 そして低く、囁く。「なぁに、乱戦になれば、チャンスはいくらでもあるさ」 ディアッカの言葉に、イザークも気を取り直す。乱戦になれば、何をしようと目立たない。その隙に、彼の機体に一矢報いることも可能だろう。 どうあっても、許せないのだ。あの機体。あれに乗っているパイロット。そしてそれが守っている艦。を傷つけたもの、その全てが許せない。 今も、は戦っているのだろう。彼女の愛機、“ZGMF‐X08A ワルキューレ”。それは彼女が愛してやまない兄が、同じく愛してやまない妹のために開発した、唯一の機体。 それで彼女は戦っているのだろうか。同胞のために。例えその心が血を流しても、彼女は戦い続けるのだろうか。 復讐のために。同胞のために。あんなにも脆い、幼い少女が。 守ってやりたい、と切に思う。戦場では勿論のこと、彼女のあの心を。同胞に対し非情に徹しきれない彼女の優しくもか弱い精神を。 守ってやりたい。この世のあらゆる痛みから。絶望から。 自分の中に眠るそんな感情に、イザークは絶句する。 どうして、少女を想えばこんなにも、胸が痛くなるのだろう。 どうして、こんなにも切ないのに、その存在に喜びすらも感じてしまうのだろう。 「守ってやりますか、をさ」 「ふん。当たり前だ」 彼女を守る。守ってみせる。それが願い。それが思い。 だからこそ、許さない。許せない。彼女を傷つけた彼の機体。彼の艦。借りは必ず、返させてもらう。アイスブルーの瞳が、真っ直ぐと己が愛機を見上げる。 そのために必要な力は、持っているのだから――……。 イザークたちの出撃と時を同じくして、バルトフェルドもまた、出撃した。 流血の宴は、いつ果てるかも知らず、ただ貪欲に互いの地を求め続ける。しかしそれが、『戦争』だった――……。 「“ゴッドフリート”、“バリアント”、てぇ――っ!」 アークエンジェルの艦橋には、ナタルが次々と出す号令が響き渡る。 ザフトの攻撃は、的として狙いやすいアークエンジェルに集中しており、一時も気を抜くことが出来ない。 「ECM及びECCM強度、17%上がります!」 謹慎をとかれたサイが言い、パルの報告がそれに重なる。 「“バリアント”砲身温度、危険域に近づきつつあります!」 その言葉に、ナタルはマリューに呼びかける。 「艦長!“ローエングリン”の使用許可を!」 「駄目よ!あれは地表への汚染被害が大きすぎるわ!“バリアント”の出力とチャージサイクルで対応して!」 「しかし……!」 異議を申し立てようとするナタルに、マリューは強い言葉で言い放つ。 「命令です!」 「分かりました」 釈然としない思いを抱きながらも、ナタルはしぶしぶと引き下がる。軍隊において、上官の命令は絶対。例えそれがどんなに承服しがたいものであっても、軍人である以上従わなければならない。 そんな中、スカイグラスパーが敵駆逐艦に集中砲火を浴びせ、砲台として使われていたザウートをアグニのビームが貫いた。機関部に甚大な被害を被ったその艦は断崖の方へと転進する。 レセップスの艦橋では、ダコスタが驚愕の声を上げてる。 「何という強力な砲だ!まもなく、ヘンリーカーターが配置につく!持ちこたえろ!」 そうこうするうちにも、キラの手によって、バクゥは次々と撃破されていく。 苦い思いで、はそれを見ていた。 何とかを安全な場所にいさせようとする、同胞たち。 それを思えばこそ、彼女は耐えた。目の前で、同胞たちの命が尽きる残酷極まりない現実を PS装甲には、限りがある。同胞たちの捨て身の攻撃は、確実にストライクのエネルギー残量を減らしていく。 それに全てを、かける。 (仇は必ず、とるから――……) 最後のバクゥが、の目の前で爆散した。 5機のバクゥを相手にしたキラは、さすがに疲れていた。 コックピットの中、肩で息をつく。しかしその時、突如としてアラートが鳴り響いた。 慌ててモニターを眺めるキラの視線の先に映ったのは、見慣れない機体。 その形状は、キラたちが搭乗するXシリーズと非常に似通っている。 しかし今まで、見たことのない機体だった。 「君の相手は私よ、キラ君」 「……さん!?」 「借りは、必ず返させていただくわ」 言うなり、その機体はビームサーベルを抜き放った。 キラは慌てて、シールドでその攻撃を防ぐ。 先ほどの攻撃で、ビームサーベルは既に、彼の手元にはない。 キラの手にビームサーベルがないことを看破したその機体は、接近戦に持ち込んできた。ビームライフルしか持たないキラは、これでは打つ手がない。 「私から、また兄さんを奪おうとした、その罪は重いよ?キラ君」 クスリ、とは笑う。己が優位を信じているが故の、笑み。しかも、それは真実だった。は、明らかにキラを押していた。 それが何に起因するものなのか、キラには分からなかった。同胞を失った絶望か。けれどキラとて、負けるわけにはいかない。 キラが戦い続けるうちに、アークエンジェルの背後をヘンリーカーターがつく。 転進しようとするキラを、は許さない。戦い続ける両者の間を、ビームが貫く。 二人は驚いて、そちらに眼をやった。そこに立っていたのは、バルトフェルドの愛機、ラゴゥ。 「君の相手は私だよ、奇妙なパイロット君。――、君は下がりたまえ。あの2機の、援護を頼みたい」 「どうして!?こいつは、こいつはミゲル兄さんを殺した!その上また私から『兄さん』を奪おうとした!!こいつは、私の獲物よっ!!」 激するに、バルトフェルドは静かに言う。 「艦は、小回りがきかない。レジスタンスのバギーと支援機にてこずっているんだ」 そういわれては、もそれに従うしかない。だって、彼女は決めたのだから。イザークを守る、と。もう二度と、『兄』を喪う痛みに耐えられないから――……。 バーニアを吹かし、は移動する。攻撃を加えてくるレジスタンスのバギーが、鬱陶しくて仕方がない。 翼にも似たバーニアスラスターを全開にし、跳躍する。単体でも大気圏の航空が可能なこの機体は、こんなとき非常に便利だ。 新たな敵艦の登場に度肝を抜かれていたアークエンジェルの艦橋を、新たな恐怖が襲った。 後方からの一斉攻撃を受けたアークエンジェルは、それをかわすことも撃ち落すことも出来ず、タルパディア工場区跡地に突っ込んでしまった。動かなくなってしまったアークエンジェルを、敵の集中攻撃が襲う。まさにその時。 トノムラによってもたらされた報告に、全員血の気の引く思いを味わった。 「レセップスの甲板上に、“デュエル”と“バスター”を確認!!それから……もう一機……“ワルキューレ”です!!“ZGMF‐X08A ワルキューレ”の姿を確認!!」 艦橋が、水を打ったような静けさに包まれた。しかしそれはすぐさま、明確な恐怖を伴って、彼らの前に迫る。 「スラスター全開!上昇!ゴッドフリートの射線が取れない!」 「やってます!しかし、船体が何かに引っかかって!」 ノイマンも、必死になって言う。しかし、船体に何かが挟まっているのか、艦が言うことをきかない。 廃工場に突っ込んだまま動けなくなったアークエンジェルに気付き、カガリとキサカはバギーを止めた。これでは、狙い撃ちになってしまう。キサカは周囲に視線を配り、ストライクの姿を探した。その隙に、カガリがバギーから飛び降りる。 そのままカガリは一心に、アークエンジェルに向かって走った。それに気付いたキサカが、カガリを追おうとするが、爆発に阻まれてそれも叶わない。その隙に、カガリはアークエンジェルのハッチから中に飛び込んだ。そのままスカイグラスパー2号機のコックピットに納まる。 「機体を遊ばせていられる状況か!私がこいつで出る!下がれ!吹っ飛ぶぞ!ハッチを開けて!」 マードックらが咎めるのを聞き流し、カガリは機体を浮かせる。こうなったら最早、腹を括るしかない。頭をかきむしり、マードックは怒鳴った。 「ハッチを開けてやれ!落としたら承知しねぇからな!」 二号機は空高く舞い上がり、一号機と合流した。そのまま真っ直ぐと、敵空母“レセップス”を目指す。二機は優美な曲線を描きつつ、獲物を狙う猛禽のようなすばしこさで、レセップスの甲板に銃弾を浴びせる。それが着弾し、主砲管が火を噴いた。 <やるねぇ、お嬢ちゃん!墜ちるなよ!> 2機の戦闘機は旋回し、もう一隻の駆逐艦を目指した。二号機がその艦体に“パンツァーアイゼン”を打ち込み、それを基点にして急旋回して、“シュベルトゲベール”で切りつける。 爆発する艦体を見て、カガリはこみ上げる喜びを抑えられなかった。これまでの屈従の日々を、今返したような気さえした。しかし離脱する二号機を負うように、艦体が対空ミサイルを射出する。直撃は被らなかったが、エネルギーの部分に打撃を受け、砂地に軟着陸した。 イザークたちと合流したは、足つきに向けて砲撃を開始した。そこには、一切の憐憫の情すら感じられない。ディアッカが、呻くように呟いた。 「ビームの減衰率が高すぎる!大気圏内じゃこんなかよ!」 「クソ!この状況で、こんなことをしていられるか……!」 「イザーク!」 「何やってるのよ、イザーク!おばかっ!」 短気なイザークが戦局に焦れ、バーニアを吹かしてレセップス甲板上から飛び降りる。思わずは、それに毒づいてしまった。接地圧すら合わせていないだろうに。砂漠の戦いは、宇宙とは違うというのに!! 案の定、デュエルは砂漠に埋もれそうになり、立つことすらもままならない。これでは、いい的だ。溜息を、つく。彼の性格は良く知っているつもりだったが、甘かった。 「いい加減に墜ちろ!」 運命の皮肉か、ディアッカの放った砲火によって、建物の残骸が吹き飛ばされた。それは、これまで身動きの取れなかったアークエンジェルが自由になったことを意味する。 「面舵60度!ナタル!」 「“ゴッドフリート”照準!てぇ――っ!!」 マリューの声に応えて、ナタルが号令をかける。そのほうかは、真っ直ぐにレセップスのほうへと向かう。それに気付いたディアッカが、のワルキューレの手をとり、砂地に避難した。 「オイオイオイ。何が“砂漠の虎”だよっ!」 接地圧をあわせていないバスターも、砂漠に埋もれそうになる。は呆然と、レセップスを眺めていた。守れなかった。同胞を。あの艦なのかでどれほど多くの同胞が、苦痛の呻き声を上げていることだろう。 「ナチュラルどもがっっ!!」 レジスタンスのバギーが、身動きの取れないデュエルに殺到する。動けなくなった敵を攻撃する、その行動の浅ましさに、吐き気すら覚える。砲火を浴びるデュエルのコックピット内で、イザークは苛立ち紛れの声を上げていた。 「コイツら……!!足場さえ……うわぁっ!!」 直撃を被るデュエルの前に、ワルキューレが駆け寄る。そのまま、群がるナチュラルからデュエルを庇うようにする。 「!?」 「イザーク!!早く接地圧を合わせなさい!!死にたいの!?」 「……分かった。接地圧だな。ディアッカは!?」 「無事よ、大丈夫」 モニターに映る少女は、疲れているだろうにそれすらも感じさせずただ、微笑む。またもキョウカに助けられてしまった。守りたいと願った少女。しかし現実には、イザークが守られてしまう。いつも、いつもだ。 それがどうしようもなく、悔しい。少女を、守りたいのに。この手では少女を、守ることすら出来ないというのか。 己の無力さが、悔しい。情けなくて、涙すら出てきそうになる。 ラゴゥとストライクが、向かい合ったまま対峙していた。 「ダコスタ君、対艦命令を出せ。勝敗は決した。残存兵をまとめてバナディーヤに引き上げ、ジブラルタルと連絡を取れ。には、哀しまないよう言っておいて欲しい。彼女の仲間が、あまりにも死んだからな……」 <隊ちょ……> 遺言めいた言葉に、ダコスタは慌てる。しかしバルトフェルドはダコスタが何かを言うよりも先に、通信を切ってしまった。それから、前席のアイシャに言う。 「君も脱出しろ、アイシャ」 「そんなことするくらいなら、死んだほうがマシね」 「キミも馬鹿だな」 「何とでも」 バルトフェルドが苦笑気味に言うと、アイシャは嫣然と微笑んだ。それは、には決して出来ない類の笑顔。けれど少女と同じくらい、その笑顔は美しい。 「では、付き合ってくれ!! ラゴゥは再び、弾丸のように飛び出した。 回線を開き、キラは降伏を呼びかける。最早、勝敗は決した。これ以上殺し合う必要が、一体どこにある!? 「もうやめてください!勝負はつきました!」 <言った筈だぞ!戦争には明確な終わりのルールなど無いと!> したたかに刃を交え、満身創痍となった二つの機体が砂漠に降り立つ。 その時、アラートが鳴り響き、ストライクのPS装甲が落ちた――……。PS装甲が落ちれば、全てのビーム兵器は無効となる。それはビームサーベルも例外ではなく、その刃の部分が消失する。 そしてラゴゥもまた、背面部から火花を散らせ、片足のままキラに襲い掛かる。その全てが、決して与えられたダメージが小さくないことを物語っていた。 <戦うしかなかろう!?互いに敵である限り!どちらかが滅びるまでな!!> キラの身を、あの感覚が襲った。本能のままにエールストライカーパックを強制排除し、シールドも投げ捨てる。アーマーシュナイダーを射出し、両手で構えた。 ラゴゥが、目前に迫ってくる。鈍い衝撃を、キラは感じた。地面に叩きつけられるより先に、ラゴゥの首筋にアーマーシュナイダーを叩き込む。 銀の刃がゆっくりと、オレンジの機体に吸い込まれていく。 強かに地面に叩きつけられたキラは、苦痛に呻いた。モニター越しに、ラゴゥが崩れ落ちる様が見える。 アラートが、鳴り響いていた。前席に座っていた女が、もぎ取るようにシートベルトを外し、バルトフェルドを振り返った。そのまま、たおやかな腕を広げる。 「アンディ!」 彼女が、微笑んでいるようにすら見えて、彼はその体をかき抱く。 真っ白い閃光が、視界を焼く。けれどそれすらも、恐怖を呼び起こさなかった。 「キミにまた、重荷を課してしまったな、」 何よりも、同胞を愛する少女。彼が、アイシャが、仲間が多数死んだことが、彼女の性質に影を落とさなければいい、と切実に思う。 激しい爆発が、辺りを焼く。そのまま、全てを――……。 ストライクのコックピットで、キラは嗚咽を堪えた。殺したくは、なかった。殺したりなんか、したくなかったのに。 ――――『戦うしかなかろう!?互いに敵である限り、どちらかが滅びるまでな!!』―――― 今は亡い敵将の言葉が、キラの脳裏をよぎる。殺すしか、ないのか。そして一体どれほど殺したら、戦いは終わるのだろうか――……? +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+ はい、ようやく砂漠篇終了です。 いやぁ、ものすごく長いですね、今回。 読みにくいかもです。毎度同じく、戦闘シーンはサクッとスルーの方向で。 読まなくても全然全く問題ありません。 この長編を楽しんでくださる方が何人いらっしゃるかは分かりませんが、楽しんでくださっている方のためにも、何とか戦闘シーンを上手く書けるようになりたいです。 一体いつになるかは分かりませんが。 前回は緋月の思い込みゆえに、アイシャに妙な役回りをさせてしまいました。 ちゃんにワンピを着せる役ですね。……やりそうだと思ったんですが……どうでしょう? アイシャは私は凄く好きです。美人で可愛いvv この人たちとの絡みも、もっと書きたかったのですが……残念です。 そのうち、番外編で書こうと思います。楽しみにしていて下さったら嬉しいです。 それでは、ここまで読んでくださって、有難うございました。 |