その先にある思いは、何なのだろう。 その糸を手繰り、操るのは? もしも出逢いの全てに意味があるのならば。 それは一体私に、何をもたらすのだろう――……? 鋼のヴァルキュリア #16 キリエ〜後〜 待機室にはその時、二人の人間の姿があった。 アスラン=ザラ。そして、=。 輸送機に航法トラブルが発生したため、二人だけまだ、ジブラルタルにいるのだ。 待機室に鳴り響いた通信機に、アスランが出る。 「待機室、アスラン=ザラ」 「同じく、=」 <すまんな。君たちの機体を載せた機は、航法機材のトラブルで少し出発が遅れる。通達あるまで、そこで待機してくれ> 「分かりました」 アスランが頷き、もソファに腰掛ける。 出発がまだなら、少しゆっくりしていても良いだろう。 連日の戦いで、の小さな体はすっかり疲れていて。 休息が必要なのだ。 ただでさえ、大切だった人をたくさん喪って。体だけでなく、心のほうもすっかり疲れ果てていて。 「少し、休んだほうがいい。夜も、あまり眠れていないんだろう?」 「有難う、アスラン。少し、休むね」 小さな小さなザフトの『ヴァルキュリア』。 MSの扱いが天才的でも、の血を引く最後の一人であっても、彼女はまだまだ小さな女の子で……。 「イザークね、ヴァイオリン弾いてくれるって。楽しみだね……」 「ああ、セッションしようって言ってたやつか」 「うん。アスランにも何か弾かせてやるって、楽しそうだった」 「……勘弁してくれよ……」 うんざりしたように、アスランが呟く。 それには、小さく笑った。 「イザークはやっぱり、兄さんとは違うのね……」 「=と?そりゃあ違うと思うぞ」 「うん。あんなによく似てるのに……。顔はね、本当に似てる。兄さんが十七だったころに。十七の兄さんに、そっくり……」 兄さんはオカッパではなかったけど、と小さく呟く。 の兄、=とイザーク=ジュールはよく似ているらしい。 しかしだからといって、=とイザーク=ジュールが似ているか、と言われたら、全然似ていないのだ。 「兄さんは、母様に似ていたの、私は、父様似。昔から、似ていないってよく、言われてたよ」 アスランの声に出さない問いに答えるように、は答える。 の脳裏に、兄の言葉が蘇る。 ――――『私は母上似、は、父上似だ。昔から、似ていない兄妹だとよく言われていた。は、覚えていないかもしれないけれどね』―――― 失ってしまった記憶。 まだそれは、あまりにも曖昧で。 最初は何とか取り戻そうと躍起になっていたけれど、気づけばそれもやめていた。 思い出したところで、両親は帰らない。 にとって大切だったのは、兄と共に過ごす『今』だったから。 にとって大切なのは、何よりも兄であるだったから。 「兄さん……」 どこに行ってしまったの?本当に、死んでしまったの? お願いだから、これは何かの間違いだといってほしい。 これが、夢だったら。目が覚めたら、兄がいれば良いのに……。 小さなその呟きは、他者の胸を痛くするには十分すぎる言葉で。 アスランは知らず、痛む胸を抱えて。 ただ一人の少女に、焦がれた。 しかしこの少女に本当に必要なのは、愛してくれる人間ではなく、アスランでもイザークでもなく。 ただ一人……いや、二人。 =と、ミゲル=アイマンなのではないか、と。 ただ漠然と、アスランは考えていた――……。 マルコ=モラシム率いる地球駐留軍の部隊の一つが、アークエンジェルを襲った。 アークエンジェルは潜水母艦を潰すことを決断し、ムウ=ラ=フラガとカガリ=ユラがその対処に当たる。 二人が搭乗するのは、スカイグラスパー。 その攻撃は確かにザフト側の意表をつき、潜水母艦に対する攻撃は、成功したかに思われた。 同時に、キラのモラシムとの戦闘も、一応はキラの勝利に終わった。 けれど、それに心が高揚することは、ない。 機体を撃破した。 それは、中に搭乗する人間一人の命を、奪ったと言うこと。 一体いつになったら、この戦争は終わるのか。 この流された血の果てに、本当に平和はあるのだろうか……? 平和とは、屍の山の向こうにしか、存在しないのだろうか。 苦い思いを、キラは必死にかみ殺そうとしていた――……。 そしてキラは、驚愕の事実を聞かされる。 母艦を攻撃しに行ったカガリが、戻らないと言うのだ。 補給を済ませ、キラはカガリ捜索に赴いた――……。 前方に戦闘機が現れ、2機の輸送機は騒然となった。 ただの、輸送機。戦おうにも、戦闘機と渡り合えるほどの装備は施していない。 慌てて乗員は、モビルスーツ搭乗員であるアスランとの二人に、コックピットに入るよう通達した。 アスランの乗り合わせた輸送機では、 「君はモビルスーツのコックピットへ!いざとなったら、機体はパージする」 「しかし……」 「積み荷ごと墜ちたら俺たちの恥なんだよ!」 「早く!」 「……分かった!」 促され、アスランは漸くその要求を承服する。 たとえ後方支援であろうとも、彼らは軍人で。そしてその軍人の誇りのままに、アスランの機体を守ろうとしているのだ。 今のアスランにできることは、彼らの要求を承諾し、自分の機体と自身を、守ることだ。 輸送機は戦闘機に対し、一撃を浴びせることに成功したが、同時に自分たちも攻撃を受けてしまった。 これでは、とてもではないが基地までは飛べない。 「駄目だ、もたない!高度を下げて機体をパージする!」 「あなた方は!?」 「そのあと脱出するさ。気遣いはいらん!」 「はい!」 ディアクティブモードのイージスが、パージされる。 もう1機の輸送機に乗り合せていたは、それを見て、アスランのもとへ行くことを決めた。 いくらアスランが優秀でも、イージスは単体での大気圏飛行を行うことは出来なくて。 それではアスランは、戦闘に巻き込まれてもたいして抵抗することなく殺されてしまうかもしれなくて。 そうでなくても、自分の知らないところで誰かが傷つくのは、嫌だったから。 「私がアスランを追います。あなた方は、あの輸送機の乗組員の方々を、救出してください」 「了解しました、=」 アスランに続いてキョウカの機体もまた、輸送機からパージされる。 単体での飛行も可能な“ワルキューレ”は、滑るように射出されると、海面すれすれで翼にも似た巨大なバーニアスラスターを広げる。 アスランはどうやら、この付近の無人島に落ちてしまったらしい。 は、知らない。 先ほどの戦闘を行った戦闘機――スカイグラスパーに乗っていたのが、カガリであったことを。 そしてそのカガリもまた、アスランと同じ無人島に着地してしまったことを。 『運命の出会い』は、すぐそこに迫っていた――……。 +−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+−+ 約二ヶ月ぶりのこんにちは、ですね。 お待たせしました、『鋼のヴァルキュリア』続編です。 今回は本当に、たくさんの皆様にご迷惑をおかけしてしまいました。 本当に申し訳ありません。 そして、どうもありがとうございました。 本当にたくさんの皆様に励ましていただいて……。 皆様のおかげで、何とかサイト復帰することが出来ました。 サイト名、そしてハンドルネームを変えてしまいましたが、これからもRosen Kreuzと緋月 翠をよろしくお願いします。 |