手繰り寄せるもの。

手繰り寄せられた私。

その出会いに名前をつけるなら、

それは『運命』。

それはどこまでも、残酷な――……。





ヴァルキュリア
#17   舞曲〜前〜






無人島に不時着したアスランは、非常用パックを片手に、浜辺に降り立った。

単体での大気圏飛行を行えないイージスでは、ここから動くことも出来ない。

精々味方の救援を待つだけで精一杯だ。そしてそれも、Nジャマーの影響で電波の調子の悪い地球では、いつになるかも分からない。

溜息を一つつくと、アスランは現実を受け容れた。

ここで喚こうが何をしようが、味方が来ないことには仕方がないのだ。

とりあえず、この島の探索をしてみよう。何か有益なものが見つかるかもしれない。

そう思い、イージスのコックピットから降りたまさにその時に、それは起きたのだった――……。







ザフトの輸送機を撃墜し、同時に自らも撃墜されたカガリもまた、アスランと同じ島に不時着した。

スカイグラスパーから降りるが、その時非常用パックを波に攫われてしまったカガリは、その島の探索をすることにした。

食料がないのならば、せめて水だけでも確保したい。

勿論、食料があるに越したことはないのだが。

植物を掻き分け、ひたすら中に進むと、すぐさま水の煌きがカガリの瞳に映った。

「小さい島なんだな……」

思わずカガリは、失望の溜息を洩らす。

これでは、食料の確保は望めないだろう。水すらも、確保できるか分からない。

その時、カガリは見てしまった。岩陰に隠れるように隠蔽された、巨大な物体。

鋼色の四肢を持つそれを――……。

カガリは知っている。おそらくそれが、奪取された地球軍のXナンバーの一機であることを。

そしてその機体から現れたのは、赤のパイロットスーツを纏う人物。おそらく、ザフトの一員で――……。

考えるよりも先に、体が動いていた。

カガリは銃を構え、その微かな物音に気づいたらしいザフト兵がカガリのほうへ顔を上げる。

発砲するが、それはザフト兵の右腕を掠めただけで、驚くべき運動神経で兵士は岩陰に隠れた。

カガリも後を追って、岩陰を滑り降りる。

浜には、先ほどの兵士が落としたらしいパックが落ちていた。パックの口はあいており、拳銃が覗いている。

拳銃がここにあるということは、先ほどの兵士は丸腰なのかもしれない。

そう考え、カガリは少し安堵した。

そして拳銃を拾い上げたその時。

背後に感じた気配に、カガリは慌てて振り返った。

しかしそこはナチュラル。コーディネイターの動きについていけるはずもない。

兵士はそのままカガリの腕を蹴り上げ、銃を弾き飛ばす。

そしてもう片方の腕を捻り上げ、投げ飛ばす。

地面に叩きつけられたカガリはそのまま押さえ込まれ、兵士が振りかざした刃の、その銀の煌きを見た。

――――殺される……!!――――

そう感じたその時、カガリの喉からは悲鳴が迸った。

「きゃぁぁ――――っっ!!」

「女……?」

カガリの悲鳴に、ザフト兵は戸惑ったように、カガリの胸を押さえつけていた手をどかした。

カガリが見上げたその視線の先にあるその顔は、まだあどけなさを残したもので。

物静かな翡翠の双眸にある優しい光は、とても自分の命を奪うもののそれだとは思えなくて。

カガリは思わず心を奪われてしまったのだ――……。







は、必死になってアスランを探していた。

やがてレーダーがイージスの機影を捉える。

「発見。見つかって、良かった……」

自分が傷つかないために、仲間の無事を祈るなんて、なんて醜いんだろう、と思う。

けれどそれでも、これ以上傷つきたくなかった。

あまりにも、居心地がいいのだ。

イザークの、アスランの、ニコルの、そしてディアッカの傍は。

まるで、ミゲルやの傍にいるかのように。

あまりにも温かくて、その温かさが切なくも嬉しくて。

手放したくない、と思ってしまったのだ。

手放したくなかった。何よりも居心地のいいあの場所を。みんなの傍を。喪いたくはなかった。

私は、醜いね。

私は皆に、何も与えられない。

私にとって大切なのは、何よりも私の傍にいない兄さんで。

本当は私は、皆のことは何も考えてないんじゃないか、なんて思ってしまう。

醜いね、私は。

愛して、愛して。構って、構って。

心の中は、そんな願望でいっぱいで。

嘴開けてたら餌を運んでもらえる雛鳥じゃあるまいし、ただ求めてる。温かい手を。私を誰よりも愛してくれる人を。

それも、あくまでも兄さんの代わりに。

兄さんのように、私を愛して。兄さんのように、私を大切にして。

兄さんのように、兄さんのように……!!

まるで、駄々っ子みたい。

なんてなんて私は、醜いのだろう。

こんなにも私は弱くて、そして利己的で。

これがザフトの誇るヴァルキュリア?笑わせないでほしい。

戦力高揚に役立つ、私の異名。

『鋼のヴァルキュリア』に幻想を抱いている人は多くて。

でも、実際のヴァルキュリアはこんなもの。

取り澄ました仮面を引っぺがせば、現れるのは弱くて利己的な十五歳の小娘の姿。

堕ちた偶像とでも言うべきか。どんなに崇めようが何しようが、実際のヴァルキュリアなんてそんなもの。

弱くて弱くて。どんなに自分では否定しても、愛されたいと訴えるような女が。

これが、ヴァルキュリア?こんな小娘が、ヴァルキュリアなの?

ねぇ、誰か教えて。

こんな弱い私に、本当に同胞を守れるの?本当に兄さんの仇を討てるの?

ねぇ、誰か答えて。教えてよ。

私に一体、何が出来るの?

操縦桿を握り締め、突っ伏す。

見てしまったのは、自分が抱える負の部分。

それは決して、見ていて気持ちのいいものではなくて。

顔を上げて、頬を叩く。

「しっかりするのよ、=!今は、アスランのことを考えなくちゃ」

そしてもまた、再会してしまうのだ。

砂漠で出会った少女、カガリと――……。







「お前、本当に地球軍の兵士か?」

少女が持っていた拳銃から弾倉を取り出し、海へと放り投げたアスランはそう尋ねた。

目の前の少女は、とても軍人には思えなかった。

日に焼けた肌や、その気性などを考えると、確かに兵士に向いているかもしれないのだが、いかんせん彼女を『軍人』と認識するには無理がありすぎた。

アスランはつい、比べてしまう。

ザフトが誇る『ヴァルキュリア』。自らを犠牲に捧げてまでも、同胞のために戦う少女、=と。

あまりにも、目の前の少女はと異なっていたから。

確かに、日に焼けない白い肌に、小柄で華奢な肢体を持つと、日に焼けた肌に、しなやかで鍛えられた体つきをしたカガリとでは、違いがあって当然だとは思う。

そしてどちらかと言えば、目の前の少女のほうが軍人らしい体であるとは思う。

しかし、その内にあるものが、違いすぎるのだ。

大切な人を喪い、その復讐のために力を求めた

目の前の少女の戦う理由は知らないが、彼女にも彼女なりの理由があったのだろう。

力を求め、軍人として教育を受けたは、良くも悪くも軍人らしい。

その思考やスタンスには常に、『軍人としての自分』と言うものがある。

軍人ならばどう考えるべきか。軍人ならば、何をすべきか。

は常にそれを基盤にして行動する。

敵と相対すれば必ずその敵を滅ぼす、などといわれているのも、『軍人としての=』が、『軍人としての敵』から『非戦闘員である同胞』を守るためにそれが必要と考えているからだ。

そしてアスランは、ほどは非情に徹しきれない。

例え今は戦意がなくとも、その敵は以前に同胞を殺したかもしれない。

今ここでこの敵を撃たなければ、その敵はまた新たに武器を取り、同胞を殺すかもしれない。

アスランは、そこまで考えられない。そこまで非情に徹しきれない。

甘いと言われればそれまでだろうが、アスランはまだ、ある意味軍人になりきれていないのかもしれない。

目の前の少女には、それがない。

ひょっとしたら、勇敢でありさえすれば事態を打開できるとでも考えているのではないだろうか。

例え不意を突かれようと、丸腰だろうと、コーディネイターが一対一でナチュラルに後れを取るなど、有得ないと言うのに……。

アスランは知らず知らずのうちに、比べていたのだ。

と、目の前の少女と。

あまりにもよく似ていて、そしてあまりのも違う。それ故に――……。











海辺でのこの出会いは、お互いに一体何をもたらすのだろう。

母を喪い、戦うことを決意した少年と。

喪失の痛みを自分だけのものだと思い、アークエンジェルに乗り込んだ少女と。



そして大切なものを喪ったが故に、力を欲した少女――……。

そのそれぞれに一体、何をもたらすのだろう――……。






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さぁ、いよいよアニメでいうところの『二人だけの戦争』に突入しました。

……二人だけ……?

思いっきり三人に増えるような気がするのは……置いときましょう。

アスカガ好きな人にはホント、申し訳ないです。

でも、ドリーム見る人って、基本的に公式カップリングはアンチですよね……?(確認)

いや、公式カップリングラブvvとか言う人もいるかもですが。

……そういう方はすみません。公式カップリング、私はディアミリとフラマリュしか許容できません。

その他好きなノーマルカップリングはノイナタ、アスラク、キラフレです。

本当にすみません。