ねぇ、どうしてそれは、そんなに優しいの……? まるでそれは、兄さんみたい。 ねぇ、だからなの……? だからこんなに、貴方を思うと胸が痛くなるの? 貴方が、兄さんに似ているから? ねぇ……? 鋼のヴァルキュリア #18 間奏曲4 「スコールのあとって、星、綺麗なのね……」 “ワルキューレ”のコックピットに納まったまま、は空を眺めて呟いた。 コーディネイターの大半がそうであるように、宇宙育ち宇宙生まれの第二世代目コーディネイターであるは、こんなことでもなければ地球に来ることはなかっただろう。 地球。 彼女の両親は、この青い惑星でナチュラルの騙し討ちに遭い、殺された。 この惑星で、両親は死んだのだ。 もう、記憶にすら存在していない。 「父様……母様……」 貴方たちの娘はこうして、罪を重ねている。 そしてそれはおそらく、両親の願いとは対極のもの。 穏健派だったという父。 その二人が、娘に望むはずがない。 軍人になり、手を汚す行為を。 穏健派であり、ナチュラルとの協調を重んじた両親が、望むはずがないのだ。 「でも、それでも赦せないの……」 両親を騙し討ちにしたナチュラルが。 血のバレンタインを起こし、兄を、そして数多の同胞を虐殺したナチュラルが。 赦せないから、戦っている。 「でも、私も本当は、彼女と変わらないのかもね……」 自分も、あのカガリとか言う少女と、変わらないのかもしれない。 兄の死の原因をナチュラルに押し付け、自分の手を汚す行為を、人殺しの行為を正当化しているだけなのかもしれない。 どうしてこんなことを、考えてしまうのだろうか。 以前はこんなこと、考えたこともなかった。 の世界は、どこまでも単純だったから。 どうしてこんなことを考えるようになった? 何故?ナチュラルが赦せなくて、ナチュラルを殺すために戦った。 どこまでも単純な、その理由。 いつからそれが揺らぐようになった? ――――ミゲルに再会してからだ。 あの瞬間から、『ヴァルキュリア』は『鋼のヴァルキュリア』ではなくなってしまった。 ザフトが彼女に求める価値。プラントが、それを統べる評議会が求める価値。 それは彼女が『ヴァルキュリア』だからだ。そして彼女が、家の人間だから。 元セプテンベル市代表。そして副議長とまで言われたリヒト=の娘であり、評議員となることを求められながらもそれを固辞し続けた兄、=の妹だから――……。 そう。彼女は自らがもつ価値を、正確に理解していた。 何故ラクスが、自分をして何かあれば、ザフトは総力を上げて足つきの面々を潰しにかかると言ったか。 そしてそれは、何故か。自分の何が、彼女にそういわせたのか。 現評議会議長を父にもつラクスが言ったことであれば、それはプラント全体の、ひいてはザフト全体の総意と見ていい。 それほどの価値、どこに見出していたのか。 答えは簡単だ。 彼女がの人間であり、『ヴァルキュリア』だからだ。 「兄さん……兄さん……。ゴメンね、ミゲル兄さん。ホントは私が……」 ミゲルから親友を奪ったのは、自分なのだ。 兄は、自分のせいで死んだ。あの時あんなことを言わなければ、兄は死ななくてすんだのに……。 「兄さん……ミゲル兄さん……。……イザーク……」 小さく呟いた、その名前。 何故その名前を紡いでしまったのか。 にも、それは分からなかった。 そしてその感情を抱いてしまったことが、少女を更なる運命に押しやることを。 彼女はまだ、知らなかったのだ――……。 前回が少々ありえない長さだったので、今回は短めにしてみました。 ていうか、ただ一晩を無人島で過ごす回なのに、一晩が長すぎませんか……? ……気にしないでください。 所詮『間奏曲』なので。 だんだんクラシックのタイトルもネタが枯渇してまいりました。 何かいいタイトルの曲を知っていらっしゃる方がいましたら、教えてくださると有難いです。 ここまで読んでいただき、有難うございました。 |